走れゾン美
「いっけねーーーーー!!! 遅刻、遅刻ぅ! マジヤバすぎてバイオハザードなんだけど!」
ゾン美は激怒した。必ずかの邪知暴虐の王を討たねばならない、とかじゃない。ゾン美には単位がかかっている。ゾン美は、イマドキのJKである――※たった一点を除いて――。ネイルを施しメイクに磨きをかけて、放課後は流行りのタピオカティーを飲んで暮らしてきた。最近はトルコアイスに浮気しているけど……。それでも遅刻と、肌の腐敗に対しては、人一倍に敏感であった。
だからこそ、ゾン美は走らねばならぬ。少女漫画のヒロインみたくいちごジャム食パン――※決して血などではない――を口に咥え、デコったローファーで地面をリズミカルにキックしながら。目指すは、1キロ先にある、いつもの高校……!
「てゆーか、走っても息が1ミリも切れないアタシ、マジ無敵じゃね? ……ってか、死んでんだから当たり前か」
春のそよ風を不死の身体でぶっち切りながら、ゾン美は己の異常なほどの身体能力に感動していた。
(これなら、毎日ギリギリまで寝てても大丈夫じゃない?)
ゾン美は心の中でガッツポーズをした。…………。不死者に果たして睡眠は必要なのか、って問題は取り敢えず置いておくとして。
そうして、陸上部の短距離走エースの竹中先輩――ゾン美的にはイケメンにギリ入る――も裸足で逃げ出しそうな勢いで走るゾン美。高校まであと200メートルってところまで迫ったゾン美。曲がり角を全速力のままぶっち切って、校門に凸! ってところで、ゾン美は曲がり角の向こうからやってきた何かにぶつかって盛大にすっころんだ。
「のわぁぁぁぁぁぁああ!!!」
ゾン美は、ゾンビらしからぬ叫び声を上げた。
***
幸いにして、怪我はなさそうだ。内臓が飛び出したり、手足がもげることもなかった。最悪なのは、気合で眼窩に留めてる目玉がカラコンとともにポロリしちゃうことだけど、それもなかったようだ。
「あっぶねぇ……。不幸中の幸いってヤツ?」
ゾン美は自分が無事なことを確認すると、そう呟いた。死んでる時点で既に不幸なんだ、ということは言ってはいけない。
「てゆーか、誰だよ!? ぶつかってきた奴! アタシの遅刻返せよ!」
ゾン美はそう声を上げて、転んだ体勢のまま、ぶつかってきた不届き者の姿をこの目で見てやろうと辺りを見回すが、肝心要の、その不届き者の姿が見えない。
「…………え? マジ? もしかして異世界転生しちゃったカンジ?」
でも、辺りの景色は特に変わってない。青い空も、白い雲も、少しだけ重い春の空気感も、灰色のアスファルトも何も変わってない。いつもの朝の景色のまま。
変わったことと言えば、辺りの地面に白い棒が散乱してることくらい。大小があり、中には曲がっているものもある。まるで……そう……。まるで、人の骨のような……。
「……………………!!!??」
ゾン美は生まれてはじめて、恐怖を感じた。いや、もう死んでるけど。
(え? まさか、人の……?)
ゾン美が色々と嫌な想像をしはじめた瞬間、辺りの骨らしきものたちがザワザワと細かい音を立てて、1つに集まりだした。
「…………………………!!!」
声にならない叫びを上げて戸惑うゾン美。骨はすぐにカチカチと音を立てて組み上がり、そして……。
「ちょっと、もう! 痛いじゃん! 骨折したらどうすんの!?」
顎骨を鳴らしながら、《《ソイツ》》はプンプンと怒る。
「………………あ、あの、骨の転校生?」
そう。ソイツはこの前転校してきたばかりのスケルトンの骨子だった。




