骨子、タピオカを飲む
「つーかさ。あーしらって腐ってもギャルなわけじゃない?」
放課後――。ゾン美と骨子は、帰宅途中のイマドキJKたちが集まる、駅前のダチョウマークのタピオカ屋さんの行列に並んでいた。ゾンビとスケルトンが同じ行列に並んでいるのに、誰も2人のことを気にしていない。目の前のアンデッドよりも、トレンドのタピオカなのだ。……ある意味、フツーのJKの方がゾンビやスケルトンよりも恐ろしい。
「え? 勝手に腐らせないで? こっちは腐敗に抗って生きてんだけど? ……ってアタシ、死んでたわ」
ゾン美は隣の骨子の肩甲骨をパシッと叩き「しょーもな!」と乾いた笑いを漏らす。
「マジで死んでる自覚なくない? 脳みそどころか記憶も腐ってない? 大丈夫そ?」
隣で骨子が顎骨をカチカチ鳴らしながら、呆れた顔をして――骨だから表情はないけど――首を振る。
「うるさいなー。スキンケアとメイクのノリ維持するだけで、こっちは死ぬ気で頑張ってんの! あと骨だけで舌も胃袋もないくせにタピオカ飲もうとすんなし」
「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」
「減るとか増えるとかって問題じゃねーし!」
「どっちかって言うと、地獄か天国かって問題じゃない? あーしらって。アンデッドだし?」
「マジやめてー?」
そんなことをダベりながら、2人はお目当てのタピオカミルクティーを買って、再び歩き出す。
「え、待って。めっちゃ美味しくない!?」
骨子は嬉しそうに顎骨をカチカチと鳴らしながら、アハハと笑った。
「……え? まじで飲んでんの? てゆーか舌ないのに味分かんの?」
ゾン美がびっくりして骨子に聞く。骨子が《《飲んでいる》》タピオカミルクティーは、ストローを咥えて吸っている顎骨から、そのままブレザーの中にある胸骨へと流れ落ちて、そのまま地面にドバドバと落ちていってる。
「味? 分かるよ、ちゃんと」
「え? どういう仕組み? どういう仕組みで味感じてんの?」
「……気合い」
骨子はそう言って、キュルンとウィンクをしてみせて……。って、瞳もまぶたもないけど、雰囲気でゾン美にはウィンクと伝わった。もちろん、気合いで。
「……てゆーかさ」
ゾン美は地面にポタポタとミルクティーを零し続ける骨子――の骨格――から目を逸らし、トボトボと歩きながら、ポップなスカルマークでデコったスマホの画面を覗き込む。
「なに?」
「今さ、インスタ見たんだけどさ。クラスの陽キャ、アイツらカラオケ行ってんだけど」
「うわ。マイクとか絶対衛生面ヤバくない? あ、でも、あーしらもう既に死んでるから、あんま汚いとか関係ないか」
「そういう問題じゃなくて! アタシたち、誘われてなくね?」
ゾン美の足が急にピタリと止まる。その横を、タピオカ一粒だけをガムのように歯でカチカチと噛みながら、骨子が通り過ぎてから立ち止まってゾン美のスマホを覗き込んだ。
「え、待って。誘われなかったの?」
骨子が唇を尖らせる。……骨だけだけど。
「うん。なんか『ゾン美と骨子はいっつも死んでるんかってくらいの無茶をするから、めっちゃ声かけづらい』とかストーリーのコメントに書いてあるんだけど……!」
「なんそれ!? 死んでるんかってか、死んでるんだけど! マジ失礼じゃね!?」
春の夕暮れの街に、アンデッドの悲痛な叫びが響き渡った。




