4-6 罪滅ぼし(後編)
あるとです。
小説で話し言葉を書くのには工夫が必要、という話です。
キャラ同士の掛け合いを好んでよく書くんですが、
皆さんには"キャラ同士の自然な会話"として
作中の会話を皆さんに読んでもらいたいので、
回りくどくない"書き言葉"を使わなければなりません。
私は、そんな難しい問題をいつも解いています。
"今この人たちが話している!"
と、皆さんが理解できるように書かなければならないので、
その点は現状、私の最大の悩みどころの1つです。
あと喋り方で誰が離してるかも分かるようにしてます。
もし分からなかったらごめんなさい。
「で……その時のお前ならアレをやりかねないだろうが、一応聞いておく。それからRATSはどうなったんだ?」
現在、諏訪木家。東條の話を聞いていた諏訪木らは、東條の話の続きが気になってしょうがなかった。
諏訪木にとって俊谷は同居人、そして東條の古い親友。消えた理由を俊谷から聞くことがなかった諏訪木は、改まって聞き直す。
「……リーダーは俺が始末して場所を聞いた。"知らない、としか聞けなかったが。もちろん殺してないし、暴力も振るってはない。
ただ少し、俊谷と同じ目に遭わせただけで……。随分と甘い始末になったが。」「……その顔見る限り、全然甘くねぇだろ。」
諏訪木が呆れたように言う。「あの時はマジでブチギレてたからね。時名のキレ顔初めて見たけど、マジで怖かったな。」
水谷がそう呟く。(それほど仲間思いとも取れるけど……確かに、東條さんが怒ってるの、まだ見たことないな。)
ここまでの話を聞けば聞くほど、"始末"とやらが穏便だったとは到底思えない。「で、場所聞いてそれから?」
「それからは……ずっと追ってそれっきり。公道にも現れなくなった。その時からだろう、諏訪木クンが俊谷を匿ってたっていうのは。」
東條の視線が諏訪木へ向く。「……まぁ、そうなるかな。俊谷は家に連れてきて半年くらい、外の世界が、人間と会うのが怖いって言って、よくパニックになってた。
車が通る度にビクビクしてさ。何か隠してんじゃねーのかなって、その頃から勘づいてはいたが。」
諏訪木は苦笑いする。が、心の底で哀しい思いをしていた事が確かに分かる。特に東條は、自分達が俊谷を追うことで、彼に余計なプレッシャーを与えていたと気付く。
「でも、自分の車だけはずっと触ってた。稼いだ金を全部費やして、ボロボロにされたE30を直してったんだ。
人間としてはズタボロだったけど、一人の走り屋/チューナーとしては化け物みたいなメンタルしててさ。
俺もその背中を見て、車をやりたいと思い始めたんだ。実際、コルベットを買いたいと思ったのも、俊谷が勧めてくれたからだし。」
諏訪木はそう笑った。「アイツ、"どうせ乗るならデカいエンジン積んだ車にした方がいい"とか言ってさ、結局買っちったんだワ。」
「柄じゃねえな……自分のコト、BMW信者とかなんだって言ってたくせに。」東條は過去の俊谷の発言を思い出す。
懐かしい、いつしか過去の出来事になってしまった彼の言葉が、東條の脳裏によぎった。
「俺、過保護だから。だから、落ちぶれてた真司のことが見捨てられなかったんだと思う。半年して真司が落ち着いてきて、働くって言い出して。
少しでも俺にラクしてもらいたいからって言ってさ。大人だって分かってるのに、アイツが可愛くて仕方なかったからな。」
諏訪木は軽く笑いながら、そう話した。「そうだな、俊谷はいつも俺たちに甘えてた。」「思い出すか、昔の事?」
「あぁ、思い出す。古くて懐かしい、楽しかった思い出をな。」東條はその懐かしさに浸る。ゆっくりと目を瞑り、ただ一人で。
思い出すことはたくさんある。彼との車の話も、高校でのヤンチャに俊谷と水谷を連れ回した時のことも。彼との日常と非日常。その全てが、彼にとっての幸せでもあった。
(……なんで、あのクズのせいでこんな思いしなきゃいけないんだよ……!)心の中で、東條はRATSとの抗争を深く思い出した。
RATSの西崎を、怒りに任せた本気の拳でぶん殴り、チームも崩壊させた。後悔はない。それでも、心残りはある。
その心残りを潰すためにも、これまで俊谷を探し続けたのだと、自分に言い聞かせてきた事は、彼にとっては後悔ではない。
ただ1つの人生の選択だった。
「……あいつは、2年間の内でずいぶん変わった。初めて会った時の、弱ってた真司じゃなく、自分の走りに対する心に正直な人間に変わった。
アイツと暮らすのが楽しいよ、ホント。」諏訪木は穏やかに笑う。その言葉を聞いた東條は、少しだけ目を伏せる。
自分の親友が死んだと思ったら、他人の家で密かに暮らしている。嬉しいのか悔しいのか分からない、ただモヤモヤした感情だけが残った。
(……まぁ、生きてるだけ嬉しいか。)「東條さん。」桜井が静かに声をかける。「……なんだ。」「……会えるといいですね、俊谷さんに。」
東條は一瞬だけ桜井を見る。そして、軽く笑う。「だな。」短い返事。だがその声からは、先ほどまでの張り詰めた空気が少しだけ抜けていた。
「生きてるって分かっただけでも十分だ。アイツがどこで何してようが、今はそれでいい……それでいいんだ。」
東條の目線が落ちていく。「真司は、お前に会うことを嫌がってはいなかった。ただ心の収集がついてなかっただけで、本当はお前に会いたいんじゃないのか、東條。」
その姿を見ていた諏訪木は、彼に声をかけた。「それが本当なら公道で会っても逃げねえ。でも、会いたくないわけじゃなさそうなのは、本当なのかもな……。」
そう言葉を返すと、東條は立ち上がる。「……どうした?」「……ありがとうな、諏訪木クン。アイツとの話教えてくれて。俺、帰るわ。邪魔になった。」
東條が突然言い放った言葉に、3人は驚きを隠せなかった。
「な、ちょっと待てよ時名!このまま待てば、俊谷と会えるはずだ!それまでここにいた方が……。」
「アイツに無理して会う必要はないんだ。あれだけ追わせといて勝手かもしれないが、今の話を聞いて理解した。
無理に会おうとするのは、アイツにとってのトリガーになりかねん。俊谷は諏訪木に任せたほうが、俺達にも、何よりアイツのためだ。俺は、アイツを諦める。」
3人は、この言葉が彼の本音から出たものだと、よく理解していた。彼が2年もの間、探し続けていた男の行方を、あっさり切り捨てて諦めようとしたその姿が、
彼が今までに受け、様々な辛く哀しい思いを背負い続けてきた背中が、3人にとっても辛いものだと分かっていた。
そして今放った言葉が、今までに背負い続けた自分自身の罪を償うための、"罪滅ぼし"だということも、3人はよく思い知る。
「ありがとう、桜井。こんな事のためにわざわざ、家に帰る時間を遠ざけて……悪い。」これ以上俊谷を追わない。
それが東條の決めた人生の選択だと、桜井も追うことを諦めるべきなのか。自分に出来ることは終わったのか。
「違います。東條さんは、俊谷さんに会うべきです。」いや、終わっていない。東條の選択は間違った物だと、彼に教えなければ。
気づけば声に出ていた。「……桜井もそう思うのか。」「はい。俊谷さんに会って……彼にキチンと謝ってください。
会いたいことを理由に、今まで必要以上に追い続けて、彼を追い詰めてしまっていたこと。
そして、『ずっと会いたかった』って、『ずっと心配してた』って、キチンと彼に伝えてください。
あなたが俺を連れてやらなければならない事は、そういう事だったはずです……ッ!」
部屋が静まり返る。東條は桜井に対して、何も言わなかった。彼は自分でも、桜井の主張が正しいと理解していた。
「……俺には、それをする資格さえない。それに気づかず、今まで周りを振り回し続けてきた、ただの愚か者だったんだ。
俺が救われなくても、周りの人間が良ければそれでいい。最優先は俊谷の感情だ。追い回して怖がらせて……会いたくないのにも無理もないだろ。」
東條はそう言い切り、部屋を出ていこうとした。「……俺は、もう俊谷を追わない事にする。本当に悪かった、3人とも。」
東條はそう言い残し、部屋のドアへ向かう。誰も、彼の行動に対して反論する事や、言葉を返すことができなかった。
東條は諦める決断を下した。その事が、彼なりの周りを幸せにする主張だと分かったから。東條の背中は、その決断をする事になってしまった程に、辛く、重かった。
二年間探し続けた男にようやく手が届く場所まで来て、それでも手を伸ばさない。それがどれだけの苦渋の決断なのか、その場にいた全員理解っていた。
(……本当に悪い、みんな。)東條はドアノブに手を差し伸べようとした。
その時、玄関のドアが開く音がした。東條の差し伸べようとした手が固まる。
「……真司は、お前に会いたいってさ。とりあえず座れよ東條。」諏訪木は東條にそう諭す。東條は何も言わずに、少し3人のいる方に寄って座った。
その時の東條の心の内は、自分自身の俊谷への対応の心配で一杯だった。2年越しに会えた親友に、なんて話すのが正解なのか。
なんて言って顔を合わせる事が正解なのか、心配に押しつぶされて壊れてしまいそうな気分に犯されていた。
だが、残酷にもその時はすぐにやって来た。リビングのドアが開く音が、東條の真後ろで鳴る。
「時……名?」2年間、ずっと夢に見てきた出来事が、今起こった。リビングに、買い物袋を肩に掛けた俊谷真司が姿を表した。
車自体は西崎の所有物なんですが
万が一の時に罪が男に擦り付くように
彼に渡して西崎はチームから逃げてます。
なのでその仕打ちを知った東條は
いつもの人情深さを捨て、
貴様だけは絶対ゆるさん状態になったわけです。
以上、あるとでした。




