4-4 亡霊の住まう墓場
あるとです。
先日、誕生日を迎えました。
ケーキは思い切ってホールを買おうとしましたが、
案外売ってないもので……。
既に切れてるショートケーキで妥協しました。
結局は美味けりゃいいんですよ。ケーキは。
「っしゃ勝ったッ!」「……ぐぅ。」水谷の圧倒的勝利。諏訪木はあれほど調子に乗っていたのにも関わらず、ボトルの半分程度でぐったりしていた。
「もう無理ィ……。」「俺こんだけなら全然イケるな、諏訪木クンのも飲んでいー?」水谷は余裕の表情で、諏訪木のボトルの中を覗いていた。
「……なんだか、怖えなコイツら。」「ですね。」バトルを見ていた東條と桜井は、若干引き気味に、影でそう話す。
「いやマジで……なんでそんな平然としてんだよ……。」諏訪木はテーブルに突っ伏したまま呟く。「体質。」「言ったもん勝ちの体質だろ。」
そう言いあう横で、諏訪木は完全にダウン。ぴくりとも動かなくなる。「……寝ました?」桜井が小声で聞く。
「おーい……?」東條が諏訪木の肩を軽く揺らしても、反応がない。彼の寝息だけが聞こえた。
その隙に、水谷は諏訪木のテキーラを手に取ろうとした。が、東條が黙ったまま水谷の腕を掴み、止める。「……ちぇ。」
何度揺さぶっても起きない。「寝たなこりゃ。」東條は苦笑しながら立ち上がる。
「どうしましょ……家に帰したいなんですけど、いいんですかね、そんな事して?コレでも一応業務中ですし……。」
「いいんだよ、別に。俗に言う"お持ち帰り"ってやつだ。ここからは何してもいいんだぜ?くくく……。」「絶対エロい事考えてい言ってますよね、東條さん。」
満更でもない顔を見せながらも、東條は諏訪木の足を持ち上げる。「水谷、そっち持ってくれ。」「おっけー!」
水谷は諏訪木の上半身を抱える。「うわ、思ったより重っ。」「ホストって体鍛えてるからな、多分。」「あー、なるほど。」
桜井は苦笑しながら先に会計を済ませ、店の外へ出て、2000GTの助手席のドアを開ける。
「良かったですよ、助手席だけセミバケにしておいて。席、倒せるから人も寝かしやすいし……。」東條と水谷は桜井の言葉で、また脳内ピンクな妄想を捗らせる。
桜井は自分の失言に気づき、ハッと口を押さえる。『……ふーん?』ニヤニヤしながら桜井の顔を見ようとする。「違いますよッ!バカなこと言ってないで、早く乗せてください!」
そう言いつつも、桜井の顔は若干赤くなっていた。桜井は顔を赤くし、完全に酔って熟睡している諏訪木を乗せ終えると、すぐに車を発進させる。
その後を東條ら2人が追っていく形で、2台は諏訪木の住むマンションへと車を走らせ、向かっていく。
東條は、前を走る2000GTのテールを見つめながら、1人思う。(桜井の事、ちっとからかい過ぎたかな。
まぁソレは置いといて、話はたっぷり聞かせてもらうぜ、諏訪木クン。俺は、アンタの事頼りに走らせてんだからな……!)ハンドルを握る手に、自然と力が入る。
数分して、諏訪木は目を覚ます。暗い広島高速を巡航する2台。「んぐ……?」「ん。起きましたか、先輩?頼むから人の車で吐かないでくださいよ。」
桜井は体を起こす諏訪木を横目に、広島高速1号線へと合流する。「……アルコールなんてすぐ抜けるよ。それに……お前の車で吐くわけねえだろ。
俺はお前の事情、よく知ってんだから。」「そうですか。」諏訪木は窓の外を見る。後ろからついてくる白い930ターボ。
諏訪木は辺りを見回すと、すぐに元の体勢に体を戻す。「……真司は、アイツが繁華街の路地裏で倒れてたのを、俺が助けてやったんだ。」
諏訪木は天井を見上げたまま、ぽつりと呟く。「倒れてた……?」「あぁ。体中に殴られ蹴られってされた形跡があった。多分、不良にでもやられたんだろう。」
酒のせいか、諏訪木の声は掠れていた。「怯えてた……人間そのものに。周りの人間全部が敵に見えてるような……まさに、人間不信って感じで。」
桜井は何も言わず、ただ、静かに諏訪木の話を聞く。「息も荒い、目に光もない、怯えきって震えて。ほっとけなかったんだ、俺はアイツを……。」
諏訪木の声の掠れが強まる。「……気持ちは分かりますよ。あとの話は、全部家に着いてからで。そこから先は多分、東條さん達も聞きたいでしょうし。」桜井はゆっくりと言う。
「……だな。」そう返すと、自宅に着くまで目を閉じ、再び眠りにつく。桜井はバックミラーを覗く。
飛ばしすぎていたのか、930の放つ光が遥か後方にあった。(離しすぎたか……複雑な関係だよ、この2人。
どうにかして、俊谷さんと東條さんの仲を戻さないと。それにしても、ホント外寒っ。エアコン効かねーのに、先輩もよく寝れるな)
「着きましたよ、先輩。立てます?」20分ほど経ち、桜井はマンションの一番近くにあるコインパーキングに車を止めた。「……ん、あぁ。」
目が覚めた諏訪木は、なんとか車を降りる。「……あれ、あの2人は?」「置いてっちゃったみたいで。もうじき来ると思います。」
桜井はエンジンルームに頭を突っ込み、何かをいじっていた。「……何やってんだ?」諏訪木はその姿を寝ぼけながらも見ていた。
「キルスイッチですよ。エンジンが動かないようにして、盗まれないようにしてるんです。」桜井はボンネットを締め、
「めんどくさくねぇの……それ?」「そりゃめんどくさいですよ。けど、だからこそ盗難防止なんです。ほら、いきましょ。」
その時、後方からフラット6のエンジン音が聞こえてくる。930が、ゆっくりとコインパーキングの前で止まる。
「ちょうどいいタイミング。」キッチリと駐車すると、車の中から東條と水谷の2人が降りてくる。
「よく置いてけたな、俺がメインの話なのに。」「それは、すみません。でも先輩の話を聞いてく度に、自然とアクセルを踏んづけてしまって……。」
2人のやり取りを見ながら、水谷が笑う。「まぁまぁ、ちゃんと着いたんだから結果オーライじゃん。」
「お前は助手席で寝ぼけてただけだろうが。寝言が面白かったから、俺わざわざ録画したんだからな。」
東條はスマホで撮った動画を見ようとした。「消してくれ頼む、マジでお願い!」水谷はすぐ東條のスマホを取ろうとした。
が、東條はそれを許さない。「やなこった。んで、アレが諏訪木クンのコルベット?」東條の目線の先にあるのは、シャドーグレーメタリックに再塗装されたC6コルベット。
C6.R由来のエアロを身にまとい、黒のフロントフェンダーストライプがアクセントの本気仕様。「V8のメカチューンで550馬力。
タイヤは前265/35/R18の10J、後ろ285/35/R18の10J。すげえ太いタイヤだから、よくグリップしてくれて乗りやすいぜ。」
諏訪木は自分のコルベットを見ながら、少し誇らしげに語る。酒が入っていても、車の話になると口が止まらない。
「……なるほどな。」東條は短く返し、マンションを見上げた。「んで、話の続きは部屋でだろ?寒ぃし、さっさと上行こうぜ。」「そうだったな……。」
諏訪木はポケットから鍵を取り出す。「ほら、エレベーターこっちだ。」4人はマンションのエントランスへ向かう。エレベーターに乗り、数階上へ。
「……M3、本当に速かった。どこであの車を仕上げれたんです?先輩の話してる様な様子じゃ、イジる調子も出ないでしょうけど?」
「それもあとでな。」エレベーターが止まり、扉が開く。4階の一番奥。401号室。そこが諏訪木の住んでいるマンションの部屋だった。
諏訪木は鍵を空け、全員を部屋の中に入れる。「悪いな散らかってて。来ると思ってなかったからよ。」
「全然気にしませんよ。俺の部屋の方が断然汚いですから……。」桜井は自分の部屋の様子を思い出す。
くしゃくしゃになるまで読み潰したチューニング雑誌、溜まったペットボトルのゴミ、その他諸々が、名古屋の自宅に溜まりっぱなし。それも、遠征中の1週間の間ずっと。
(……帰ったら、早く片付けよう。)諏訪木は寝室の電気をつけ、ベッドに腰を下ろす。「……2年前か。俊谷が俺の家に転がり込んてきたのは。
その頃のアイツは、随分と貧相で、簡単に人を信じる事が出来なさそうな顔をして、怯えきってた。
俺は、そんなアイツが放っとけなかったんだ。」諏訪木は壁にもたれ、ゆっくりと天井を見上げる。「んで、家に連れ帰ったと。」
「そうねぇ……それで、アイツが置いてったであろう車を持ち帰ったんだ。多分バットかなんかで殴られたような、そんな傷がいくつもついてた。
金目当てだったのか、パーツを盗られて無くなってる部分もあって。アイツのM3は、ほぼ廃車クラスの状態だった。だが、エンジンは結構綺麗でさ。
傷一つさえついてなかったんだ。」諏訪木は少し懐かしそうに笑う。「そこからレストアよ。今まで以上の速さが欲しかったみたいで、ホストで稼いではM3に貢いで……
これの繰り返し。ほぼヒモ。でも、悪い気はしなかった。アイツも、震えた手で工具握って、一緒に車を直してった。」
諏訪木は目を瞑り、当時の様子を一人振り返る。「執念だな……。」水谷はそう呟く。「あぁ。で、その頃からだ。アイツが少しずつ喋るようになったの。」諏訪木は視線を落とす。
「車が直ってからは毎晩、高速に出て走ってた。死んだはずの人間が、再び……。俺が呼び始めたんだ。アイツのことを、真司のことを、"亡霊"と。」
その場にいた全員は、この空間の空気だけが重くなるような、そんな気がしていた。「真司から、お前らの話は色々と聞いてる。
お生憎様、アイツは"お前達にだけは"会いたくないんだと。」「な、どういう事だ?」東條はその言葉に驚き、思わず立ち上がる。
「どうやら、お前に会うのが怖いらしい。本当はずっと会いたがってたんだが、"時名は変わらない。だからこそ怖い"って言ってな。
お前らだけだろう。アイツを"亡霊"としてじゃなく、"俊谷真司"として見続けるのは……。」
キャラクターの見る辛い現実というのは、
書いてる自分が一番辛いもんです。
最初はどうやってひどい目に合わせようかと
ウッキウキで考えるもんですが、
キャラに感情移入し始めると、
結構キツくなってきます。
なので早く終わらせたいと思っています。
以上、あるとでした。




