Exhaust 連載1周年記念作品 "白翔馬が駆ける間に 前編"
あるとです。
なんと今日で、Exhaust連載が1周年を迎えました!やったぜ!
という訳で、この作品の連載1周年を記念して、
本編主人公の桜井の親友であり、彼の良き理解者である
杉野勉を主人公とした番外編にあたる作品を書きました。
桜井が福岡と広島に行っている間に、
彼らの地元である名古屋で起こった出来事を描きます。
前編と後編に分かれていますが、
後編の方はまた2周年の時にやるでしょう、たぶん。
それまでは本編の方を見て待っててください。
「……ここが、SK-AutoTecのガレージ?」2025年、11月中旬。寒さが際立ってきた、秋の終わり頃の昼。
桜井が福岡に行っている間、杉野は環状線で走る相手がいない故に、暇を持て余していた。その事を高市に相談すると、「赤田の嬢ちゃんの所で走りを教えてもらうといい。」
といい、杉野にガレージのある場所を教えた。
杉野は高市の助言通り、赤田のいるガレージに向かう。
まだまだ走り屋の卵でしかない杉野は、自分のドラテクの無さや様々な不安に駆られながら、愛車であるフェアレディZ Z33を走らせ、ついにSK-AutoTecのガレージにたどり着く。
車を止め、ガレージの中を覗く。(入りづらい雰囲気だな……邪魔しちゃ悪いし、さっさと入ろ。)車を降り、杉野はガレージの中へと入っていく。
「あのー、すみません。赤田さんって、今このガレージにいたりしません?」杉野は、ガレージの中で作業している作業員達に話しかける。
「社長に用?用があるなら2階の応接室に。多分そこにいると思うから。」「分かりました、ありがとうございます。」
杉野は作業員に軽く頭を下げ、指さされた奥へと歩いていく。ガレージの中は、想像していたよりもずっと静かだった。
工具の音はある。エアの抜ける音も、インパクトの打撃音も響いている。なのに、なぜか騒がしさを感じない。
そう不思議に思いながら、杉野は階段を登っていく。(なんか……ホントに来てよかったのか不安になってきたな。場違いにしか見えないや。)
階段を登り切ると、目の前に錆び始めた扉が現れる。杉野は恐る恐るドアをノックする。「ごめんくださーい!」
応接室兼社長室。赤田はリクライニングの効く椅子に座り、ガッツリ昼寝をしていた。「……ん、誰だろ?入っていいよー!」
杉野の声で目が覚めた赤田は、寝ぼけながら社長室のドアの鍵を開ける。「……杉野くん!どーしたの、こんな時間に?」
「実は……」杉野は彼女にHIGH-CITYでの出来事を話す。「ふーん……つまり、暇だから走りを教えてほしい……と。」
「はい!速い人に走りを教えてもらう事は、自分自身のレベルアップにも欠かせないことだと思うので!」杉野は自信満々の顔でそう返す。
目をキラキラさせながら、赤田の目を見つめた。「……どうしよっかな。」赤田は少しだけ首を傾けて、杉野をじっと見る。「へ?」「仕事してる身としてね。
私はね、走りを教えてほしいって奴は何人も見てきた。実際、壮也もそうだった。私は、その人の走りに成長の兆しが見えないと、相手したくないの。
ただ暇つぶしに付き合ってほしいからって、私はその人のために車は絶対に出さないし、その人のためだけに自分の命を削るような走りをしたくない。」
赤田は椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。「"教えてもらえる前提"で来る人、あんまり好きじゃない……それどころか嫌いなのよね。
杉野くんも結局は、最初から誰かに頼りっきり。自分で何も掴んでないのに、"教わればなんとかなる"って顔してる。それはよくないよねって。」杉野は言葉を失う。
さっきまでの自信が、少しずつ崩れていくのが自分でも分かった。「……でも、誰かを頼らずに1人で走り続けても何も始まらない。自分で物事を始めてから、誰かを頼るのは良い事。
杉野くんは、桜井くんの走りを何度も、そしてすぐ近くで見てきた。彼と一緒に走ったこともあった。あなたが見てきたことは無駄にならないし、私もさせないつもり。
……あなたは何になる為にここに来たの?それの返答次第で、私はあなたに手を貸してあげたいと思う。」杉野は、すぐには答えられなかった。
自分は、何のために速さを求め、何のために走りたいのか。そもそも、これまでの走りで、自分は何か意味を求めて走っていたのか。
杉野は考えたこともない事を、今までの経験から探っていた。(俺は何のために走ってるんだ……何のために、今までZを走らせてたんだ?
意味のない走りをして、Zの為に無駄金を出していただけなのかな。俺は……いや。俺は意味のない走りなんてしてないはずだ。きっと答えが、今までの走りにあるはずだ!)
追いつきたくて。置いていかれたくなくて。何度も、何度も踏んできた。それは自分の為か、他人の為か。
杉野は、ゆっくりと顔を上げる。「俺は……」一瞬だけ言葉が詰まる。それでも杉野は、言葉を止めなかった。「アイツに、桜井に置いていかれたくないんです。」
「……ふーん?」赤田は少しだけ目を細めて、杉野を見た。「いつも隣で笑い合って、語り合って、一緒に走って。
でも、いつもアイツを俺のペースに合わさせて……そんな自分が、惨めでしょうがないんです。でも、俺とZなら、アイツを超せなくても追いつくことはできると思う。
だからこそ、俺は速い人たちに走りを教わって、せめて、隣に並べるくらいにはなりたい。俺はただ、桜井の隣で走れるようになりたい!」
杉野の拳は強く握られていた。彼のぶつけた本音に、赤田は何も言わなかった。彼の気持ちにとやかく言うつもりのない、赤田なりの気遣い。そして赤田は、杉野に背を向けた。
「……ッ。」杉野は彼女に見放された、と諦めかけていたその時。
「……今日の夜、またここにおいで。」「……!」赤田は杉野にそう言い放つ。「それって……」背を向けたまま続ける。
「あなたが来るのを、私はここで待ってるから。」そう言い残し、赤田は部屋を出た。杉野はぽっかりと口を開け、困惑していた。
まさか彼女が自分のあの言葉で許してくれるとは到底思えなかった。自分でも、不完全で意味のない言葉だと、あとから思い返す。
が、赤田は分かっていた。彼の放った言葉は確かに不完全。だが、その不完全な言葉にこそ、走りの本質があると考えていた。
杉野の走る意味。それは桜井を追いつづける。その単純さと高い目標に、赤田は彼に協力したいと思ったのだった。
(あなたは、きっと桜井くんに追いつける。それどころか、抜かすポテンシャルもあるように見える。
どの選択をするかは、あなた次第。さて、今夜が待ち遠しくなってきたな〜っ!)赤田はそう考えながら、階段を下っていった。
(ん、確かあれが杉野くんのZ……だったよね。そうだ、あれだ。)赤田は階段を下る途中、ガレージの前に止めてあった、杉野のZを見つける。
(随分とシブい赤よね……!?)赤田は気づく。杉野のZのサイドスカートにある、SAのマーク。
それは、あのSilverArrowsのワークスカーである証拠そのもの。(あれってまさか、SilverArrowsのワークスマシン!)
赤田は、Zのかもし出す雰囲気だけで、どれだけの本気の仕様なのかをよく知っている。特にこのZ。見覚えがある。杉野と出会う、それ以前から。
(……いいね。今夜ちゃんと踏めるか、見せてもらおう。)赤田は意気揚々としながら、自分の車のセッティングへと向かったのだった。
「……帰って、いいのかな?」誰に聞くまでもなく、杉野は1人ぽつんと呟いた。
「……来たね。」その日の夜。SK-AutoTecガレージ。約束通り、杉野はガレージの前に現れた。「……いい車ね、そのZ。」
杉野が車から降りると同時に赤田はそう話しかける。「460馬力は出てたんですけど、怖くて怖くて、一度パワー下げたんです。」
「どこまで?」「360馬力。慣れてきたら、少しづつパワーもトルクも上げていって、それを続けて、今が420馬力です。」
赤田は短く頷く。「いいね、ちゃんとパワー戻してきたんだ。怖いからパワー下げるってのは、誰でもできる。
でも、そこから上げていけるのは、怖さから逃げてない証拠ね。420馬力……自分に合わせて車を作るってのは大事よ。」
杉野は嬉しかった。自分が宝の持ち腐れだといつも考えていた杉野だったが、こうして褒められることは、彼のなかでとても珍しい事だった。
「……いいじゃん、ますます教えたくなってきた。それじゃあ早速、どこまで踏めるか見せてもらおっか。」
赤田はシルビアの鍵を指で回す。「……ま、横に乗ったほうが、覚えるのは早いかな。横乗るから鍵開けて!」
杉野は赤田をZの助手席に乗せる。「……桜井は、福岡で何してんでしょうね。」「ん〜……今頃、バトルでもしてるんじゃない?」
この時、桜井は福岡で西寺と神宮との死闘を繰り広げている真っ最中。そんな事を知る由もない2人だったが、早速環状線に乗って走り出す。
(……後輪の抑え方は上手い。私よりいいんじゃないかな、コレに関しては?)料金所跡を抜け、環状線合流。すぐ、赤田は杉野の上手い走りの部分を見つける。
(でも……ホラ、コーナー進入甘い!ここのコーナーは、この車ならもう少し速度上げても曲がれる。
もう1周した時、大体190km/hくらいで試して、もっといけそうだと思ったら次の周!」「……はい!」
杉野の手がわずかに強張る。「……やっぱり、怖いよね。普通なら誰でもそう思うし、そう感じて当たり前。
でも、あなたは普通にならないことを選んだ。だからこそ、この位の速度域の恐怖心は克服しなきゃいけないよ、OK?」
「はい!」「いい返事。」杉野がアクセルを踏み足す。コーナー立ち上がり後の直進安定性は、Zの長所。
杉野はコーナーにたどり着くまで、迷わずアクセルを踏み続けていく。(怖い……けど、ここでアクセルを戻して分かることは、アクセルを踏み切ることやりも少ない。
走りきれ、なんとしても!)コーナー進入。車体を外に振って、アウトインアウトのラインを上手く掴んで走る。
杉野は一瞬アクセルを離す。「ホラ離さない、まだ踏める!」赤田が横でそう言うと、杉野は彼女の言う通りにアクセルを踏み足した。
すると、リアが多少流れながらもスムーズかつ、高速でコーナーを抜けることができた。初めてコーナーで出す速度に恐怖を覚えながらも、コーナーを抜けた事による安心感は、それをかき消すに十分だった。
「……ね、踏めたでしょ?」赤田は笑顔でそう聞く。「……。」が、杉野は何も答えられなかった。ありえないほど速い速度域を走っていながら、終始笑顔だった赤田が怖かった。
自分よりも壁に近づいたというのに、何も怖さを見せない。(ヒェ……慣れてるとはいえ、赤田さん怖え!)杉野は心のなかでそう叫ぶ。
「ほら前見て!次のコーナー来るよ!」「あ、あぁ……ッ!」シフトチェンジはスムーズに、コーナー進入は点と点を結ぶ走りで、アクセルワークは迅速かつ慎重に。
そして数分後が経ち、赤田の指導と共に走っていて、段々コツを掴んできた杉野は、少しづつ無茶を始めるようになる。
「お、それ行っちゃうか!?」「……!」赤田の言ったアドバイスをよく思い出しながら、杉野はコーナーを走り抜ける。
「……この短時間で、うまくなったね。」「……ありがとうございます!」杉野はクールダウン走行に入ると同時に、一時休憩として環状線を降りることにしたのだった。
「おつかれさま。ほい、コーヒー。」「あ、ありがとうございます……。」環状線を降りてすぐ、杉野は自販機の前に車を停めていた。
「中々走れるようになったじゃん、杉野くん。Zの扱い方も慣れてきた?」「えぇ、なんとか。
Zというか旧車全体の問題なんですけど、パワステ付いてるとはいえ、ハンドル重いから筋肉結構使いますね。だから腕が痛くて痛くて……。」
「ふふ……分かる。」赤田は軽く笑って、缶コーヒーに口をつける。「さて……飲み終わったら、もうひとっ走り行こっか!」
「そうですね……ん?」思い立った2人だったが、その時。2人の前に1台の金色のポルシェ 997 GT2 RSが向かいの道路に止まる。
金色なのに着飾っていないような、そんな雰囲気を見せていた。「ほほー、金っピカ。」ポルシェのドライバーが車から降りる。と、すぐに杉野たちを見つける。
「ん、赤田さん。あの人、なんか凄いコッチのこと見てません?」「ね。それにあの顔、どっかで見覚えあるような……あっ、あんたはっ!」
赤田は車が来ていないことを確認した後、向かいの車線に急いで向かう。「……あんた、あの時桜井くんの邪魔した!」「ん……あ、お前!」
遅れて杉野も、2人の元にやってくる。「ゼェ……ゼェ……確かお前は……塩崎!」
はい。もやもやした終わり方ですみません。
これでもいつもの約3500文字よりも多い
約5000文字近く書いてるんで許して。
赤田と塩崎が久々の登場です。
塩崎は桜井との死闘時に乗っていたアヴェンタドールから
997型911 GT2 RSに乗り換えています。
ボコボコで使い物にならないので。
ではまた1年後。
以上、あるとでした。




