4-2 現れるは白い影
あるとです。
来週でExhaustは、なんと1周年を迎えます。
とはいえ別の作品の投稿週にはなりますが。
何より、この作品を読んでくださる、
皆様のおかげでここまで来ています。
本当に嬉しい限りです。ありがとうございます。
これからも、Exhaustをよろしくお願いします。
「300は出てるぞ、気を取られんなよ桜井!」「分かってますよッ!」俊谷のM3は300km/hを優に超えている。
この短い直線のうちに、M3の速度はぐんぐん上がる。桜井は、今通っている道路が当面1車線であるという事が、どれだけ良かったかを思い知らされた。
道路が2車線に分かれるタイミングを待つため、俊谷のM3はスローダウンしながら桜井の背後につく。
(この2000GTはそんなヤワなチューンドじゃないのはよく分かってる。一緒に走って、何度も気付かされた。桜井悠人……コイツはただものじゃねえ。)
ついに2車線に分かれ、俊谷が2000GTに仕掛けようとした。「……ッ!」鋭いラインでM3をブロックする桜井。
新しいセッティングの2000GTは、リアにかかるトラクションが少し落ちている。そのために、ラインを少し変えただけでも、すぐにリアが流れようとする。
ステアリングを固めてリアを抑え込むことができた桜井。だが時名は、俊谷がまだ後ろについている、攻めきれていない様子を見せている事に違和感を持っていた。
(俊谷……なんで仕掛けない?左サイドがガラ空きじゃねぇか。桜井も桜井で、なんで車道のド真ん中に居座らねーんだ?
いつでもブロックできるようにしなけりゃ──まさか、コイツら……?)時名は段々と気づいてきた。
俊谷は、目の前の2000GTの走りが、今まで撃墜してきた走り屋とは比べものにならない。だが、やはりラフな一面が多く見られた。
そのために彼は、初めて戦う相手の様子を伺っている状況下にあると、桜井もまた気づいていた。
(わざわざ手ェ抜いてくれてありがとさん……だけど、俺は時名さんの言いなりにさせてもらう、キッチリ撃墜す。)俊谷が手を抜いている、このタイミングで2000GTが急加速。
700馬力級を一気に突き放す。そして緩い右コーナー。(別に急旋回するわけでもない、こんな緩いコーナーでなら曲げられる……だんだんこのクルマがわかってきたッ!)
桜井はコーナリング中に軽くアクセルを煽り、わざとリアを流していく。「なぁ、ドリフトとかすんじゃねえぞ?いくらお前でも、こんな狭い所じゃさすがに……」
「いや、デキそう……イケるッ!」2車線を大きく大胆に使った、超高速4輪ドリフト。特にインを封じ、俊谷が前に出ないようにブロックする。
(マジでやりやがった……バカと天才が紙一重ってのは、本当なんだな。また新しい事知れたぜ。それより、俊谷はいつまで様子見してんだ?)
コーナーを抜けると、温品JCTへと向かう直線へ出る。広島県東区に入る看板が見えたと同時に、車線が再び減少、1車線へと戻る。
「もうじき2号線も終わる。ここで離せ!」「了解ッ!」
5号線直通のランプウェイの真下をくぐる2台。直後、上り傾斜の左コーナーが現れると同時に、JCT所属のランプとの合流による車線の一次的な増加。
上手く潜り抜けなければ、俊谷に仕掛けられる。そう感じた桜井は、合流と同時に再びインを封じる。俊谷のM3は、その真後ろで2000GTと同じようにリアを滑らせる。
桜井がバックミラーを見たとき、俊谷がインに来る様子はなかった。「インには来ねぇ、イケるぞ桜井!」
その時、後ろについてタンデムをしていた俊谷が、突然バックミラーから消えた。「な……どこいって!?」「外からだ!」
時名が窓の外を見ながらそう言った時には、俊谷のM3はすでに2000GTの真横でドリフトをしていた。(ウマすぎる……俺と会わないうちに、ここまで変わるなんて!?)
あの桜井があっけなく、ほんの一瞬で横に並ばれた。そう感じた時名は、ほんの少しの絶望を見せる。
俊谷はそんな姿をした時名を気にも留めず、1車線に変わるギリギリの所で2000GTの前に出る。ドリフトしながらの、華麗なオーバーテイク。
桜井は前にいるM3のリアバンパーを見ると、自分の詰めの甘さ、そして相手のレベルの高さに絶句する。
(あれが、亡霊と呼ばれた男の走り……無理だ、俺にはアイツに勝てやしない、絶対に──ッ!)桜井の身体から力が抜け、無意識に足をアクセルから離してしまった。
M3のテールがどんどん離れていき、コーナーを2つ抜けただけで、彼の姿は見えなくなってしまった。
時名はそれに気づくが、彼に何も言わなかった。慣れない新しいステージ、自分の限界が出し切れていない、そういった彼の感情が言葉に出ずとも、時何は感じれた。
「……すみません。」「いや、いつもこうやって抜かれんだ。気にすんな。急に慣れない場所走らせた俺も悪いよ。」
落ち込む桜井を、時名は優しくなだめた。「……久しぶりに負けました。完全に俺の負けですね。」
「だな。が、これで終わりじゃない。これからまた会うことになれば、また戦うタイミングが来る。その時にやり返してやれ。お前は速えんだから。」
「ありがとう……ございます。」桜井は時名の言葉に心を軽く揺らされた事で、落ち込んでいた気持ちをすぐ切り替えた。
「さ、軽く給油して帰ろうか。」「ですね、そうしましょう。」思うことはたくさんあるし、反省しなければいけない部分も、また沢山ある。
桜井はそんな気持ちを胸に抑え込み、ランプから1号線を降りたのだった。
「ん……おかえり時名、桜井くん。」東條家に帰ると、リビングでスナックをつまみながら缶ビールを飲む美和子の姿が。
「ただいま。……桜井、お前もただいまって言っていいんだからな。今だけとはいえ、お前の家でもあるんだからな。」桜井は時名にそう諭される。
「……ただいま、です。」と、目を逸らして恥ずかしそうに言う。「……時名、買ってきてくれた?」美和子は桜井の気を和らげる為に、少し話を逸らす。
時名は面倒臭そうに、ポケットに入れていた彼女の好物のコーラグミを渡す。美和子は満足そうな顔で、時名からグミを受け取る。
「姉ちゃん、マジで体調管理だけは気をつけてくれ。そういうの食ってもいいけど、腹回りはいつもシュッとさせとかねーと。」
「分かってるわよ。だからカロリーオフのこのグミがいいんじゃないの。それに、地味にビールと合うのよね、これ。」
「グミじゃなくてビールが問題なんだよッ!」時名はため息をつきながら、ソファに腰を下ろした。
「桜井。とりあえず、明日の昼から、NEXTECZ(俺んとこ)のガレージで車のセッティングとか色々するから、もう寝たほうがいい。」
「分かりました……おやすみなさい。」桜井はそういい、リビングを出て部屋に向かった。「おやすみ〜。」「……俺にも一個頂戴。」
翌日の昼頃、広島県某所にあるNEXTECZのガレージ。桜井と時名は、それぞれの車をガレージの外にある駐車スペースに停めた。
車から出るなり、桜井はガレージを見上げる。圧巻の大きさで、今まで見てきたガレージの中で一番大きく感じれた。
「でっかぁ……。」「だろ、おかげで中に座談スペースまで作れた。これも全部、仕事のおかげ。」時名は自慢げに話す。「……仕事?」
「そ、姉ちゃんのマネージャー。これだけで年収1000万オーバー。姉ちゃんが売れっ子なおかげだし、それに加えてレースにも出てっから、そこらへんは、ちゃんと手に職つけてんのよ。
おかげで930ターボも買えて、しかも車もいじれる場所もある。こんなにいい仕事は、他ないよなぁ。」
時名はガレージのシャッターを開け、パチパチと天井の照明のスイッチを入れていく。「仕事してたんですね、東條さん。てっきり成金で買ったのかと。」
「随分失礼な事言うなお前。ま、とりあえず中入れよ……誰だお前!」中に入ると、NEXTECZの副リーダーである水谷千代が、自身のNSXを弄っていた。
「オメー千代か!暗いとこで作業すんな!それ、いつからやってんだ?」「2時間前から。ついつい魅入っちゃって、軽くセッティング変更するだけだったんだけどね。
段々ヒートアップしちゃったってワケ。許して?」
「……せめて電気ぐらいつけてくれ。」時名が壁のスイッチを押すと、ガレージ全体に白い光が広がる。
「あーまぶしっ。」電気がつくと、水谷がNSXのエンジンルームを開き、ヘッド周りを弄っている様子が鮮明に分かるようになった。
「千代、ちょっと来てくれ。」時名は水谷を座談スペースに呼ぶ。「ん……どしたの、なんか手がかりでも見つけた?」
「そ、桜井の知り合いが広島にいるんだと。」「えぇ、俺の高校の先輩なんですけど、確かC6コルベット?に乗ってた覚えがあるんです。」桜井はその先輩の写真を水谷に見せる。
「なんか……イケメンだね。」「だから、ホストで働いてるって言ってました。相当金かけたチューニングしたいんでしょうね。」
桜井は少しだけ苦笑する。「先輩も走り屋ですから、俊谷さんについて何か知ってるんじゃないかって。」
「あー、そゆこと。でもどこにいるかって知ってんの?広島にだって、ホスクラはいくらでもあるじゃん。」
水谷の言葉に、桜井は一瞬だけ詰まる。「場所までは……。」「だよねぇ……。」水谷は肩をすくめる。
「……いや、俺知ってるよな……ちょっと待っててください!」すると、桜井が何かを思い出して、どこかへ行ってしまう。
「どうしたんだ、桜井?」「さぁ……何か分かったのかな?」残った2人は何も分からないまま、ただ椅子に座るしかなかった。
作中でしれっと言ってますが、
俊谷のM3は700馬力オーバーのマシンです。
それに加えてハイクロスミッション仕様。
ゼロヨン300km/hとか余裕です。
あと、俊谷なんて名字ないんですね。
ありそうだな、とは思ってたのですが。
以上、あるとでした。




