がんばれ!小悪魔ナッツ
そういえば、子猫ちゃんはどうしたかな?
気になったので、私は外に出た。
「にゃ」
「この子たちは、私が飼うよ」
あら、お隣のおばさん、えっと、村人Aさん?
Aさんの腕の中で、子猫ちゃんがゴロゴロ喉を鳴らしてる。
うさぎちゃんが、なぜだか、すでにおばさんの家の中にいて、窓からこちらを見ていた。
村人Aさんは、動物好きレベルが、かなり高いみたい。
うう、お別れかあー!
幸せになってね!
幸せにしてくださいね、とAさんに目で訴えたら、Aさんは力強く頷いてくれた。
この見事な気持ちの読み取り能力。
Aさんなら、子猫ちゃんとうさぎちゃんをお願いして間違いない。
ナッツ、後ろは振り返らない。
涙は見せない!
うう。
Aさんたちに背を向けた私の前には、広場があった。
広場っていうか。
元・広場っていうか。
石畳はベコベコボコボコ。
噴水は半壊。
しおれたワカメが、あちこちに散らばってる。
うわー…
ひど。
ふと気がつくと、ルークが隣に立っていた。
腕組をして元・広場を見ながら、ルークが言った。
「いつだったか忘れたけど、ケンケンの町に来たとき、この広場に古代ワカメを仕掛けておいたんだ。平和な町だけど、万が一、何かがあってからじゃ遅いと思ってね」
ん?
「役に立って良かった」
ルーク、めっちゃ満足そう。
目を細めて、遠くを見てるよ。
…
いや、もっと簡単に倒せたろ、あれくらい。
ワカメのくだりは、なくてよかったくらいだ。
てか、公共の場に、なに勝手に仕込んでんの?
つか、どえらいもん仕込んで、忘れてたってどういうこと?
ナッツ、ルークの言ってること、軽く理解不能。
「おーい、ルークさーん」
「あ、ゴンベイさん。そちらは」
「今回の依頼主の町長さんを、連れてきただよ」
町長さん。
こめかみに青筋が。
ええ。ナッツには分かりますよ、その気持ち。
町長さん、握った拳をブルブルさせながら、話し出しました。
「ルークさん。魔物退治と召喚者逮捕にご尽力いただき、ありがとうございました。報酬ですが、広場の修理費にさせていただいてよろしいでしょうか」
町長さん、怒鳴りもせず、えらいなー。
ナッツなら、切れてるね。
ルークが人指し指を唇に当てて、ないしょ話みたいに確認した。
「報酬なしってこと?」
「さようでございます」
「あははは!だよねー!」
底抜けに明るい顔で、ルークが笑った。
おいおい。
「だから、おら言っただ。ルークさんは最終手段だで、やめときって」
ゴンベイさんが町長さんの肩をポンポンと叩いた。
町長さん、涙こらえて男泣き。
赤字にならないといいね。
ナッツ、ふと気になって、ルークに聞いてみた。
「ルークは、他のとこにも勝手になんか仕掛けてるの?」
「うん。ほら、万が一って、やっぱりあるだろ?平和を守るためなんだけど、魔術師として見過ごせない事が多くて。でもさ、思いつきでやるから、どこで何したか、忘れちゃうんだよね」
…
…
…
はっ!
私はあのワカメと一緒か!
ショックで一瞬、意識がぶっ飛んでた私の前に、ルークの手が差し出された。
「さあ、帰ろう」
ルークの濃紺の瞳は、とても優しい。
だから、ドキッとするんだってば。
ついつい、差し出された手を取ったら、なぜか、ルークと手をつないで帰ることに。
どうしちゃった、私。
すごーく、ドキドキするんですけど。
「アツいね、お二人さん!」
「青春だなー!」
「見ろよ、ラブラブだ!」
近所の飲み屋にいた酔っぱらいが冷やかしてきた。
昼飲み、うぜえ!
スルーする余裕もねーよ!
「うぎゃあ!」
ふん。
まとめて電撃落としてやった。
しばらく伸びてろ。
小悪魔なめんな。
「こら」
「いたっ」
つないでない方の手で、ルークが私の額をペチンと叩いた。
ムッとして見上げると、ルークと目が合った。
ルークは、からかうような表情で笑っていた。
ヤバい。キュンときた。
町を歩きながら、ルークが爽やかに言った。
「明日は何があるんだろう。楽しみだ」
えー、微妙。
ルークは、ちょっぴりステキだけど、楽しむ基準はだいぶ違う気がする。
は!そういえば!
ものすごく大事なことを思い出して、聞いてみた。
「ねえ、方法が分かったら、私のこと解放してくれる?」
「もちろん!」
軽っ。
即答だよ。
…信じていいんだよね?
めちゃくちゃだけど、ルークから目が離せない。
私、一度も、魔力で縛られてない。
ルークの言うこと聞いたのは、全部、自分の意思ってことだよね。
…
…
…
召喚酔いもなかったな。
ルークの魔術はいい匂いがして甘くて優しくて、ひとつも私を傷つけなかった。
…
…
…
は!
私ったら何を考えてる?
アゲハお姉さま。
人間の魔術師って本当に危険ですね。
早く魔界に帰りたい!
ナッツ、小悪魔ですから、人に振り回されるより、人を振り回したいタイプなんです!
「ちょっと、手、離して」
ルークは不思議そうな顔をしたけど、そんな顔もかわいいけど、おいといて。
私は、その辺を歩いている町人を、とりあえず片っぱしから魅了する。
はい、一列に並ばせて。
皆さん、一斉にお願いします。
せーの!
「がんばれ!小悪魔ナッツ!」
町人の皆さん、ありがとう。
ナッツ、応援されて、やる気が出てきました。
ルークが腹を抱えて笑ってる。
小悪魔の魅了の能力、すごいでしょ?
これについては、ルークは止める気ないらしい。
とにかく、やる気出た。
ナッツ、ルークから解放されるように、がんばるのだ!
完
最後までお読みいただきありがとうございました。
もし少しでもお楽しみいただけたのなら、本当にうれしく思います。
ささやかなものですが、連載を完結させることも、この作品が初めてなので、うれしいです。短い作品ですが、楽しく書けました。
後書きにもお付き合いいただき、ありがとうございました!