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その7
そのひとみちゃんに紹介してもらって、このごろお話しするようになった人がもうひとりいる。その人はひとみちゃんにも、それからこの公園の常連たちからも、
「クレハピさん」
と呼ばれている。
クレハピさんは、いつもものすごく小さい犬を連れて散歩している、わりと地味な感じの小柄なおばさんである。ここの古株なのか、かなり顔がひろくて、いつも多くの人と交流している。
この日の午前中はかなりよく眠ることができたので、ブラッシングしたあとの午後の時間はいつもより多めにウォーキングしようと決意して「散歩コース」のほうに握りこぶしをつくりつつ向かった。
散歩コースをウォーキングしていると、そのクレハピさんに会って、
「ああ、こんにちは」
という感じでまたぞろお話しすることになったのだが、もよりのベンチにすわって、ふたりで話をしていると、向こうから三十前後のおそろいの洋服を着たカップルが歩いてきて、
「クレハピさん、こんにちは」
とあいさつしたあと、
「今日はこのへんにしよう」
「うん」
などとしゃべりながらふたりで池のほうに向かっていった。
ぼくはこのカップルをよく見かけていて、ふたりはたいてい釣り道具を持って午後イチから夕方にかけて、この公園の池で釣りをしているのだが、ぼくが目撃しているかぎりでいえば、いつでもおそろいの服を着て手をつなぎながらこの公園に登場してきていて、そして釣り竿を垂らしてお魚が食らいついてくるのを待っているあいだは双方は双方の唇に食らいついている。
双方の唇に食らいつきながらもふたりはしっかり一本の竿を共同で握りしめてお魚が食らいついてくるのを今か今かと待っているので肝心の釣りのほうはべつにおろそかにはなっていなくて、お魚が食らいついてくれば双方は双方の唇に食らいついたまま釣り竿をちゃんともち上げたりもするのだが、そうしながらも互いは空いたお手手で互いの腰付近をさわりまくったりなどもしているので、それを見学しているわれわれは一種難解な問題を与えられて困惑しているヒマヒマお兄ちゃんのような趣になってしまって、ちなみに、われわれヒマ兄連よりもさらにヒマヒマ指数が高そうな白い老猫も、
「あれは何なんですかね?」
「……」
この様子を静かに見守っていることがある。
「ずいぶん仲の良いカップルですよね」
とぼくはクレハピさんに言った。
「そうですねぇ。でも、あのふたり、夫婦なんですよ」
「そうなんですか」
「ほんとうに、仲の良い夫婦」
「まったくですね」
クレハピさんが言うにはこのカップルは野村さんと言い、今から一年ほど前に結婚式をこの公園内で挙げた。
〈なかよしおともだち公園〉はまわりに市民会館だとか喫茶店だとか、そういう施設がたくさん隣接されているので、きっとそういうところで挙式のようなことをしたのだろう。
この公園周辺はおもいのほか設備が充実している。いま言った市民会館や喫茶店のほかにも、おもに青少年の健全な育成のために設けられている(看板にそう書いてあった)バーベキュー広場だとか、てっぺんまで登ると広大な景色が堪能できる風車仕立ての展望台などがある。ある意味夢のような空間だ。
しかもひんぱんにこの公園を利用している人たちのなかには、この公園に負けないくらい夢のような人間が数名いる、そのなかにはしょっちゅう汗だくになって走っている異常な体力のお爺さんや、おそろしくウクレレが上手な青年なんかもエントリーされている。
そして暇を持て余しているようなカップルはちらほらいても、野村さん夫妻のようにあんなにおケツなどを擦りさすり愛し合っているカップルはやはり見かけることはないのだから、
「クレハピさん、見たことありますか?」
「さすがにないです」
つまりそういう文脈でいえば、野村さん夫妻もとうぜんエントリーされているということができるのである。




