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その49
ぼくはいつもあんずちゃんのことを思いだしていたわけではなかったけれど、それでもこうなると一刻も早くあんずちゃんのあのきれいなもち肌を拝みたかった。
とはいえ右に曲がっても左に曲がっても、階上にあがっても階下に降りても、エスカレーターと記されているがどう見ても滑り台にみえるそれを滑り降りても、いつまでたっても、あの駄菓子屋さんにはたどり着けなかった。
それでいいかげんあせってきたぼくは、とりあえず〝はぐれ青年ヒマヒマ派〟になってしまったことをまず率直に認め、つぎに迷子センターのようなところにお世話になってなにかしらの助言をいただくことに方針を一本化したのだが、しかしどこにも人っ子一人いないことになっていたので、いくら一本化しても迷子センターそのものを見つけることができなくて……で、しかたがないので「大広間は無料です(映画鑑賞はヘッドホンをご利用くださいますようお願い申し上げます)」という貼り紙が貼ってあったリラックスルームみたいなところに、
「ふむふむ、こっちの棚のビデオは有料なのね……」
とチェックしながらおもむろに入って行った。
屏風で仕切られた大広間の座布団にすわって無料コーナーの棚からてきとうに選んだ「UWAYAKU」というドキュメンタリー映画を鑑賞してみると、序盤は、
「主役が仮眠ばっかりしてて退屈だなぁ」
と思っていたそのドキュメンタリーも一時間くらい観ていると、
「ほら、やっぱり天丼たのんだよ」
ぼちぼちおもしろくなってきて、上役のひとりが書類の束を前にして、いったいこれからその書類をどのようにさばくのか、というシーンまで来ると、なにげにテレビデオのボリュームを何段か上げたりもしていたのだが、
「この書類片付けたら、また天丼取るぜ、ゼッテー」
その上役はわりとかんたんに書類の束をチェックしてピンチを脱すると、そのあとはとんとん拍子に出世していって、
「出世祝いにどうせ天丼注文するんだろ、特上の天ど、あ……」
で、最後には玲子と結婚することとあいなった。




