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その48
ヒデタ支那虎の歌を聴いて気分が高揚したためか、市民たちはより激しくお食事をエンジョイしだしていた。着替えを済ませた高林夫妻も、
「感謝しまぁす……」
などと言いながら、柿ピーやさきイカやサラミスティックを、立った姿勢でほおばりまくっている。
「ん! あのムームー、スリット入ってるんだ……私物だろうな」
「沢倉さん、あの奥さん、おそらく下着は身につけてませんね。いまチラッと見えましたよ」
「えええええええええええ! ノノノ、ノーパン、あっ、ひとみちゃんがいるから……」
そんなわけで、ぼくはムームーを凝視して興奮してしまったあたまを冷やすために洗面所へ行くことにしたのだが、トイレを済ませ、顔と首筋を冷水で冷やしてからまた宴会ホールにもどろうとすると、長廊下にある自動販売機の付近では、さっきまで歌っていたヒデタ支那虎とポテトチップスのUSUSHIOくんが手拍子や口笛で何かを確認しながらおそらく音楽について話し合っていた。
「ああ、ヒデタ支那虎さんだぁ。握手してもらおうかなぁ」
ぼくは、こんなことも一瞬考えたが、しかしいきなりだとわるいような気もしたので、ふたりがどこかに歩いて行ってしまうまで、とりあえずただ見守っていた。
ちなみに見守りはホールの出入口のところから出てきた野村夫妻にもおこなうことになる。というのも、ふたりはお互いの腰のあたりを例によってさすり合いながらトイレの方向に歩いていったからで――つまりぼくはいわば風紀委員のような立場にたって、かれらを見守ったわけなのだ。とはいえ仲の良い野村夫妻もさすがにこのときだけはそれぞれの性別のトイレに入らなければならなかった。しかし、さすり合っていたお手手を離しても完全に相手とわかれてしまうわけではなく、どうにか声をかけ合って相手と何らかのかたちでつながるということはつづけていた。つまり、
「おーい、ケイコ! だいじょうぶかい?」
「うーん。いま、がんばってるぅ。ユウジは?」
「さびしいけど、がんばってる。ケイコ、愛してるよ」
「わたしも愛してる、ユウジ」
というような言葉を双方のトイレ内から大声で交わし合っていたのである。
そんな野村夫妻の会話をきいていたら、すっかり酔いもさめたので、ぼくはまた、
「飲みなおそうかな」
と思って、宴会ホールに足早にもどっていったのだけれど、さっきまでオレンジジュースを飲んでいたひとみちゃんが今度は大きなアイスクリームのようなものを食べていたので、
「あれ、そんなのあるの?」
とぼくはまたしても、ひとみちゃんに質問してみることとなった。
「うん、あったの。といっても手売りだけど」
「手売り?」
「いやね、いまなにか、ワゴンのようなものを押して、このホールの中に入ってきたんですよ、沢倉さん」
実兄の三原民吾さんは、いまいち意味がわからなくて困惑しているぼくに、そう補足してくれた。
「なんかほら、新幹線とかに乗ってると、ときどき、お茶とかおにぎりとかサンドイッチだとかを売りにくるじゃないですか」
「ええ」
「さっき、ああいうのがきて、それでひとみはこれを買ったというわけなんですよ」
「そういうことかぁ……でも、それだったらちょっと惜しいことしたなぁ。おれもいたら、ひとみちゃんが食べてるのとおなじそのアイスクリームを買ったのに」
「沢倉さん。わたしが食べてるこれ、アイスクリームじゃないよ」
「じゃあ、それ何なの? ひとみちゃん」
「うーんとね、これは、季節外れのクリスマスケーキ。オリジナルみたいだよ」
「マ・シェール……」




