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その41
この駄菓子屋の店長というのは、あんずちゃんが言うには「天下ってきた人」あるいは「下のほうの上役」ということだったが、どちらにしても店先にはいっさい出てこなかった。
しかし、そんな店長でも、どうやらこの駄菓子屋をなんとか盛り上げていこう、という気持ちだけはあるみたいで、事あるごとにあんずちゃんに提案のようなことはしてくるらしい。
それで店長は宴会ホールだとか居酒屋だとかマッサージルームだとか温泉などにいるお客さんたちに、
「とびこみで駄菓子を売ってみる、というのはどうだろうか?」
と配達サービス(?)の提案を最近あんずちゃんにしてきたらしいのだが、カプセル仮眠ルームへの道案内をぼくにするついでに、あんずちゃんは、
「だったらせっかくだし、カプセルルーム周辺で、とびこみでの駄菓子売りをトライしちゃおうかな!」
というふうに思い立ってくれて、で、今回はとりあえず、うまい棒三十本と、ふ菓子三十本、それからオリジナル・クリスマスケーキ二皿を売上げ目標にして、カプセルルームに向かうことになった。
あんずちゃんのうしろをひたすらくっついていくような感じで上ったり下ったりしていると、おかげさまでいよいよカプセル仮眠ルームがある階に到着することにはなったのだが、しかしそこには受付のような人もとくべついなかったし、公衆電話のようなものも見あたらなかったので、ずらりと両サイドに並んでいる物凄い数のカプセルのどこに、すすむ叔父さんが休んでいるのか、まったく見当がつかなかった。
「まいったなぁ……」
「あっ、そうだ! とびこみの駄菓子売りという名目で、カプセルの扉を開けて確認していけばいいんだ♪」
「うん! それだったら一石二鳥だね」
そんなわけで、片っ端からカプセルルームの各扉を開けて、
「ふ菓子、おひとつ、どうですか? とっても健康にいいんですよぉ」
という感じで、おのおのきいていくことになったのだが、四十回だか五十回だか連続で〝はずれ〟が続いたので、そのうち、
「どうせおれなんか駄目だよ」
と若干卑屈になってしまっていて、だからこのときも、
「ふ菓子のご注文になりまーす」
とかなりなげやりに扉を開けた。
そのカプセルで静養していた初老の紳士は、ぼくのその言葉をきくと何の躊躇もなく、
「ふ菓子三本。バヤリースのオレンジ一本。あと、あんこ玉も、二つばかりもらっておこうか」
とこたえてくれて、とはいえ、ふ菓子はあるしバヤリースはしらばっくれればいいとしてもあんこ玉のほうは手元になかったので、ぼくはけっこうしどろもどろになってしまって、思わず、
「はい。こちら、あんこ玉になりますね」
と手に持っていたオリジナル・クリスマスケーキを紳士に差しだすことになってしまったのだが、カプセルで静養中の初老の紳士はこちらのそんなうっかりミスを指摘してくることもなく、
「はい、どうも」
と快くブツを受け取ってくれると、梯子を降りようとしているぼくに、さらに、
「ミスター。よかったら、一本いっしょにやりませんか?」
と今ぼくから購入したばかりのふ菓子の一本を分けてくれることまでしてくれて、ちなみにぼくのほうは、ふ菓子をその時点でクリスマスケーキにぶっ建ててあったので八本、それからこのカプセルがある階にたどり着くまでに気分転換として三本摂取していたので、本当はとくべつ食べたくもなかったのだけれど、でもそこはやっぱり大人の付き合いというか一種の男気というか、たくみの肝っ玉のようなものをこの粋な紳士に見せつけてやりたかったから、
「かたじけない」
と大旦那のように会釈しつつふ菓子を一本いただくことにして、で、そのあと、
「梯子の上じゃなんだから」
と紳士はさらにおっしゃってくださったので、カプセルの中にも上がらせてもらうこととなった。




