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35


      その35


 図書館の中庭には、いったい誰なのだろう、ガリガリでやたらに耳のとがった西洋人の銅像があるのだが、その銅像の付近にはそれをスケッチしている長髪の青年がたたずんでいて、青年はやがて持参したあんパンの袋を開けると、それを景気よくむしゃむしゃやりだしていた。


「沢倉さん、これからお昼、どうするんですか?」


「たまごロールの予定だったけれど、あんパンに変更する」


 青年のほうに注目していたので、ついぼくは瞬きもせずにいずみちゃんに言ってしまったのだが、それでもいずみちゃんは、


「これからうちにタカシナさんも来て、お昼ごはん食べることになってるんです。よかったら、沢倉さんも、いっしょにお昼食べませんか?」


 とこんなありがたいお誘いをしてくれて、だからぼくはとうぜん、


「それはぜひ。ぜひぜひぜひ」


 とお目目を瞬かせながらこたえたのである。


 いずみちゃんが住んでいる家というのは、とても大きな農家ふうの日本家屋らしいのだけれど、その家には今年になってから住みだしたのだという。


 農家ふうの日本家屋はいずみちゃんのお母さんの実家で、だからいずみちゃんの実家というのはまたべつにあるということなのだが、そのお母さんの実家は、お祖母さんが何年か前に他界したためにお祖父さんがひとりで住んでいることにここ数年なってしまっていて、で、ちょっと心配だからということで、長男(いずみちゃんのお母さんの実兄)という人が甥っこの慎太郎さんに頼んで、おじいちゃんがひとりで住んでいるその家に同居してもらい、さらに慎太郎さんのイトコにあたるいずみちゃんも親戚筋からその話をきいたのだろう、


「わたしも住みたい」


 と長男氏に陳情したようだ。


「じゃあ、お祖父さんとイトコさんといずみちゃんの三人で暮らしているんだ」


「そうなの」


 その農家ふうの古い家に無事到着したのちに、いずみちゃんに手招きされて屋敷に入っていくと、案の定屋敷内にはどっしりした蔵などもあったが、石砂利が敷いてあるところには、もうバーベキューができる態勢が整っていることになっていて、


「おお! もう準備バッチリだぜ」


 とさっきから話に出ていた慎太郎さんが声をかけてきた。


 このあと、いずみちゃんがぼくのことを慎太郎さんに紹介するような感じになり、その流れで慎太郎さんの苗字が「大江さん」で、歳はぼくより三つか四つ上ということも知ったのだが、なんでも大江慎太郎さんは何回かぼくのことをいずみちゃんやタカシナさんからきいていたらしくて、


「沢倉さんも、やっぱり、ヒデタ支那虎が好きなんですか?」


 とちょっと恐縮気味になっているぼくに気をつかってくれる感じで、話しかけてきてくれた。


「はい。まあ、それなりに」


「ぼくは、ヒデタを何回も目撃してるんですよ」


「そうなんですか?」


「スーパーとか、ディスカウントショップとか……でも、いちばんよく見たのは〈読みまくり書店〉だな!」


「あの〈読みまくり書店〉て、あそこの、あの〈ワンワン美容室神田〉のところから入ってずうっと行った通りの……」


「そうそう。あそこの本屋でしょっちゅうエロ雑誌立ち読みしてますよ、支那虎は」


 大江さんはかなり親切な人で、タカシナさんが来てバーベキューの昼食がはじまると、ぼくに椅子をもってきてくれたり、焼けた肉や野菜を、


「どうぞ」


 とお皿に盛ってくれたりしたのだけれど、タカシナさんにたいするサービスというか対応というのは、やさしいとか親切というよりも、垣間見るだけでもデレデレ感がものすごいことになっていて、しかしいずみちゃんが耳打ちしてきたところによると、大江さんは女子にたいしては誰にでもそんな感じなのだそうだ。


「じゃあタカシナさんのことがとくべつ好きってわけでもないのかな?」


「うーん……でもタカシナさんがいると、ほかの子よりも、もっともっとデレデレだから、もしかしたら好きなのかもしれない」


 そんなふうにしていると、話題はいつのまにか「バーベキュー大会」のことになっていて、つまり、きょうのこの大それた昼食は、バーベキュー大会の練習も兼ねているらしいのだが、たしかこの大会については、クレハピさんも先日言っていたはずで――それにしても、とくに大江さんなどは、この大会に並々ならぬ想いをいだいているようだ。


「もうちょっと、ファイヤー感がないときびしいかなぁ」


「そうね。でも、それ以上の強火は、大江さんでも無理でしょ?」


「そうなんだよね……これ以上ファイヤー感を強くすると、今度は鉄板をおれの技術だとあつかいきれなくなっちゃうんだよ……いずみだって、これ以上火を強くするとマネージメントしにくいだろ?」


「うん。やっぱりこれがわたしたちの現時点での精いっぱいのところなんだと思う。とりあえず、このセッティングで今年はのぞむしかないんじゃないかなぁ」


 いずみちゃんと大江さんとタカシナさんの三人は、こんな感じでかなり真剣にバーベキューについて議論していたが、ぼくはクレハピさんにもやんわり断ったけれども基本的にはそのバーベキュー大会というものに出場するつもりはなかったので、お話のしようがなく、まあそれはごちそうになっているのだからときどきは、


「近ごろのファイヤーは、ねえ、けっこう、あれだから」


 などという発言は入れていたわけだが、それ以外ではほとんど黙々と、ジャンジャンあがってくるお肉やお野菜を超ハイペースで食べまくっていたのだった。


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