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その34
先のように飛び出してしまったが、すすむ叔父さんとの密会までには、まだだいぶ時間があった。
しかし、こんにちではこういうことに関しては相当精通しているので、途方に暮れたりだとか、もじもじ気味になっちゃったりすることは決してない。
「『従妹ベット』のつづき読むか」
図書館ではたらいているあのタカシナさんはお休みだった。だから逆に言えば、とくべつ紳士然と振る舞う必要もないのであった。
「しめしめ」
そんなわけでこのたびのぼくは、うたた寝しているおっちゃんたちを起こしたりせずに、むしろかれらにオマージュを捧げるかのように、畳のスペースでうたた寝を決めることにする。
「こないだのこちょこちょ氏、気持ちよさそうだったもんな」
ぼくは靴を脱いで畳にあがる。
「たくみ、わたしの『ぐんぐんグルト』飲んだでしょ!」
「ん? 夢か……でも寝たんだな、いま……」
うたた寝を決めたといってもせいぜい一分か二分くらいのもので、先日のおっちゃんにくらべれば、まったく大したことはなかった。それでも、なにしろはじめてのうたた寝ではあったので、うたた寝しおえたあとには、なんともいえない達成感みたいなものはあったのだ。
「いま、おれ、寝ちったよ! おれ、寝ちったぁ!」
帰還後のぼくは、丸椅子などにすわっている何人かの同志(?)に、こんなふうに高揚した気持ちをかくしきれずに、つい自慢してしまっていた。
ドイツ文学コーナー付近の丸椅子にすわっていたその日七人目のお声をかけさせていただいた方に、
「いま、おれ、寝ちったよ」
とまたぞろ自慢してみると、水戸光子の『甘酒で作る、スイーツレシピ』を読んでいたその方は、
「すごいですね」
と非常にやさしく応対してくれた。
それでとにかく七人目ではじめて相手にしてもらったものだから、ぼくのほうは、そのやさしさにたいして歓喜余ってハンカチを噛みかみしてしまったのだが、料理本を読んでいたその方は、
「あれぇ? 沢倉さんですよねぇ」
とさらにやさしくお言葉をかけてきてくれて、ぼくは、
「そうです。沢倉です」
と感動で声をつまらせながら、どうにかそのお言葉にこたえたのだけれど、そのお方は、
「わたし、このまえ、タカシナさんたちといっしょに、ヒデタ支那虎の歌謡ショーを観た、いずみです」
と椅子から立ち上がって、さらにさらにお言葉をかけてきてくださって、それから眼鏡を外して、
「おぼえています?」
と首を少しかしげて、可愛らしくほほえみかけてきてくれた。
「マ・シェール」
ぼくといずみちゃんはお話をするために、図書館の中庭みたいなところへ移ることにした。




