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その3
かつての姉は、ぼくがマイケル・ジャクソンの『スリラー』に怯えていると、リポビタン(小児用)を自費で買ってきてくれたりするやさしいお姉ちゃんだったのだが、出戻ってきてからは、やはり離婚だとかそういうきびしいことを経験したためだろう、終始不機嫌な感じのいわゆるキイキイ女に変わってしまっていて、ぼくと洗面所で会ったりなどすると、にらみつけてきたり、うなってきたりするようになっていた。
そういうわけだったので、トイレのまえではち合わせしたさいは、目と目がぶつかりあってバチバチッと火花が散る感じでピリピリムードがたいへんなことになっていたのだけれど、そんな静電気感は家庭内ぜんたいにもじわじわとひろがっていて、先日の夕飯のときも、親父の髪の毛が下敷きを一生懸命擦りつけたあとのように、ふわふわと立っていたのであった。
しかしそのような状況でもぼくは、いちおう親父とお袋には落ち込んでいる印象をあたえておかなくてはならなかったので、夕飯のおかずがお刺し身だったときには、遠慮がちにおちょぼ口で食べたり、ご飯をおかわりするときには、しゃもじを持つ手をふるわせたり、ご飯の三杯目のおかわりのときには、全身をふるわせたりという地道な活動をつづけていたのだけれど、そんな生活はつねに危険がつきまとっていて家の中でぜんぜんリラックスできなかったし、それにふるえてばかりいたために眼精疲労と頭痛とめまいがはなはだしいことになっていたので、姉が友人から家族団らんの幸せそうな残暑見舞いをもらって、キイキイ女からさらにキイキキイキイ女になってしまった八月の後半以降は、なるべく家にいないで、外出するようにフォーメーションを変えていったのだった。




