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その2
折り畳んだ布団に寄り掛かって、
「今日の三時のおやつはラスクをかりかり食べながら紅茶を飲み、後半はラスクを紅茶にひたしてちょっとやわやわになったやつを楽しもう」
と天井をみつめつつ考えていると、妹の京子が、
「お兄ちゃん、なにしてるの?」
と言って、ぼくの部屋の襖を少し開けて顔だけ出してきた。
「思いだしているんだよ」
「なにを?」
「快活だったときのことを」
「あはははは。なにそれ」
妹は笑いながらこちらに入ってきた。
「ほっといてくれよ」
「ねえお兄ちゃん、落ち込んでるの?」
「ああ」
「でもこのまえ、本読んで吹き出してたじゃん」
「えっ……」
「なに読んでたの?」
「それは……まあ『城』の新訳とか……」
「ふーん」
「旧訳とか……」
「ふーん」
「知ってたのか?」
「あたりまえじゃん」
「親父とかにまだ言うなよ」
「だいじょうぶ。ねえねえ、今度お姉ちゃん、うちにもどってくるんだって」
ぼくより歳が四つほど上の姉は、三年ほど前に嫁いでいるのだが、近年はどうやらごたごたしていたらしく、
「まいったな……」
そんなわけで、いよいよこの実家に出戻ってくるようだ。
「だからわたしも、仕事やめることにしたんだぁ」
「なんで?」
「だってお姉ちゃんが帰ってきたら、あの部屋にダンボール置けないでしょ」
妹は一年ほど前から内職をやっていて、姉のかつての部屋にダンボールをたくさん持ち込んでいるのである。
このあと妹とやわやわラスクを楽しみながら今後の方針について声をひそめて話し合ったのだけれど、妹もぼくとおなじようにしばらくはのらくらしたいらしいので、家の中での生活は、なんとなく同盟を組む感じになった。
「だけど京子はお袋とも親父とも仲いいし、家事も手伝ってるから、楽勝だよな」
「まあね。だけどお兄ちゃん、あの鼻歌。あれ、気をつけたほうがいいよ。ホントにご機嫌な感じだもん」
「おれ、鼻歌なんかうたってるか?」
「うん。お風呂のとき、よく『夏にご用心』とか、うたってるよ」




