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その29
すぐにわすれてしまったが、何かみていた夢の関連でハッと目をさますと、
「あれ」
クレハピさんはすでに帰っていた。
それでぼくはまたぞろ側に来ていたつるつるした小鳥をしばらくぼおっと見つめながら、
「いつのまにか寝ちゃったんだなぁ……」
とラーメンを食べおわってから横に移行するまでのプロセスをぼやけた記憶を頼りに思いだしていたのだけれど、何分か経って、だんだんあたまが起きてきたときに、
「あっ!」
と公園の柱時計を見ることになって――というのは、さっきの割烹着の女の子が、
「一時半ごろ、ラーメンの器を取りにまたここに来る」
と言ったことを思いだしたからなのである。
時間は二時二十五分になっていた。あの女の子が言った時間をけっこう過ぎている。
「どうしちゃったのかなぁ……」
そんなわけで、ぼくはあたりをきょろきょろと見回すことになったのだが、ラーメンを持ってきてくれた女の子は、時間に遅れているとか、取りにくるのをうっかりわすれているとか、そういうことではなく、ぼくのポジションからだいたい二十メートルほどはなれたところにたたずんでこちらを見守っていたのだった。きょろきょろしているぼくに気がつくと、グーにした両手を口元に添えて、
「やだ! 起きた」
「起きました」
そのあと立ち上がって、おなじ動作をくりかえす。
器を取りにきた女の子はさっき着ていた割烹着はもう脱いでいて、長袖のシャツにオーバーオールという身なりになっていた。
あれは十年以上まえになるのか、野口五郎が出ていることを期待してBSで昔の紅白歌合戦を観ていたら、キャンディーズもたまたま出ていて、キャンディーズはそのとき『春一番』を歌っていた。で、ぼくは最初、
「黄色の子が一番かわいいな」
などと思いながらそれを観ていたのだけれど、一番を歌い終えて、二番を歌うまでのちょっとした演奏のあいだに一、二メートルほどリズムをとりながら前進してくるお三方を凝視していると、どうしてかわからないが、前進してくればしてくるほど、からだにビビビビィーッと衝撃が走ることになった。
ラーメンの器を取りにきた女の子のオーバーオールを見た瞬間、それにちかいビビビビィーッを感じて――それでとにかくぼくは、この女の子とオーバーオールにたいして、いますぐ求愛しなくては、と思ったのだ。
「きみのことが好きだ」
「わたしも」
「名前は?」
「玲子。あなたは?」
「沢倉たくみ」
それからぼくたちは抱き合って〈なかよしおともだち公園〉の第二グラウンドの芝生の上を転がりまくった(遠くから「ほら、すごいごろごろしてるよ」とママにおしえる子どもの声が聞こえた)。
そんなふうにしばらくローリングしたのちに、ぼくは玲子といっしょに玲子の実家へ自転車で向かうことにした。




