25
その25
家に帰ると、どの部屋の電気も消えていたので、おそらくみんなもう寝てしまっていたのだろうけれど、ぼくはヒデタ支那虎の歌謡ショーを観てきたばかりで、まだかなり興奮していたので、シャワーを浴びたあともすぐには就寝する気になれなかった。
というわけで、この夜はヒデタ支那虎の「みんな誰かとウイスキー」を聴いて、
「ウイスキーが飲みたいなぁ」
という気分にもなっていたので、親父のウイスキーを勝手にもらってすこしだけ飲むことにする。
それで誰もいない応接間の椅子にふんぞりかえって、ヒデタ支那虎の「みんな誰かとウイスキー」を小さい声で口ずさみながら親父のそのウイスキーをオン・ザ・ロックでちびちび飲むことになったのだけれど、そんなふうに一杯二杯とウイスキーを飲んでいると、なんとなくまたさっきまでの興奮が、ヒデタの熱が、ふたたびぼくの心のなかによみがえってきて、そんなわけでぼくは、テレビのチャンネルを××市民テレビに合わせたのちに軽く酔っていい気分になったいきおいの流れで観てみることにしたのであるが、いつもの行動哲学に背いてそんな酔ったいきおいの流れなんかでもって軽率に行動しているものだから、二階から姉が降りてくることを、降りてくる初期段階で察知することができなくて、
「あっ」
と気がついたときには、すでに姉はキッチンに入るドアを開けようとしていることになっていた。
で、ぼくは瞬時に状況を判断してまずテレビのスイッチをパチッと消し、それから観葉植物の陰というか観葉植物そのものになりきることによってどうにか難をのがれたのだけれど、しばらくたって、恐るおそる動いてみると、姉はキッチンにもその周辺にもいなかったので、
「あぶなかったなぁ……」
ぼくはウイスキーだとかを素早く片付けて、二階の自分の部屋に細心の注意をはらってもどっていった。
部屋にもどって五分もすると、ポコポコ、と部屋の襖をノックしたのちに、
「お兄ちゃん、ちょっと、いい?」
と京子が声をかけてきて、ちなみにそんな時、通常だったら「なんだよぉ」という感じでぼくはかなり素っ気ないのだけれど、ポコポコ、をきいた瞬間、姉かと思って心臓がドキドキィッとした直後だったからか、京子だとわかると急になんだか得した気分になってきて、
「まったく、さっきから、ビクつきまくってるぜ……」
まあそのようなわけで、部屋の向こう側にいる妹にたいして「いいよ」と今回兄貴は、やさしくこたえたのである。




