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      その21


 ひとみちゃんの試合を観にいったことがきっかけとなって、ぼくはひとみちゃんの実兄の三原民吾さんとその後ひんぱんに交流するようになる。


 お話をするところは、いつも〈なかよしおともだち公園〉で、三原さんはそのさい、かならずウクレレを持っている。


 三原さんは午後の三時すぎくらいにふらっとあらわれることがほとんどで、公園内をぶらついているぼくにどこかで会えば、


「ああ、どうも」


 という感じで、お話に移行していくのだが、歩いたり、人間を観察したりしながらふたりでお話ししているときに、ふと、


「シャカシャカン」


 と爪弾くウクレレの音色というのは、まるでちょっと流れ気味の会話に新鮮でみずみずしいエネルギーをふきこんでくれるような、そんな感じのもので、ぼくは、


「三原さんて、ものすごくウクレレが上手なんだなぁ」


 とそのたびに感心しているのだけれど、どうやら界隈では三原さんのウクレレの上手さというのは知れ渡っているようで、ある程度の時間、ウクレレをシャカシャカ弾いていれば、五、六人はたいてい寄ってきて、三原さんの演奏に耳をかたむけている。


 この日、三原さんはめずらしくお昼すぎにブルーシートに横になって食休みをしているぼくのところにいきなりあらわれて、


「すばらしい」


 と寝っ転がっているぼくに眼をうるませながら握手をもとめてきたのだが、寝っ転がったままとりあえず握手をして、それから、


「よいしょ」


 と起き上がったのちに三原さんにブルーシートのスペースを提供してあげて、


「つるつるした小鳥また来てますね」


 といつものようにとりとめのない話をしていると、まだ一回も三原さんはウクレレを爪弾いていないのに、ブルーシートの近辺には四人の若者がいつのまにか三原さんの身振り手振りを熱心に観ていることになっていて、若者のうちのひとりなどは、ときにはげしい筆圧で、小さいノートに何かを書き込んでもいた。


 それでぼくはなんとなく疑問に思ったので、そのあたりのことを三原さんに、


「これはぜんたい、どういうのでしょうか?」


 ときいてみたのだが、この若者四人はなんでも「ポテトチップス」という名前のロックバンドの人たちなのだそうで、


「だからお揃いのスーツ着てるんだね」


 どうやら三原さんは、ときどきかれらにたのまれて、曲を書いてあげたりしているらしい。


 このあと、三原さんはぼくにかれらを紹介してくれて、


「リズムギター兼、ヴォーカルのUSUSHIO君」


「はじめまして。USUSHIOです」


「沢倉です。どうぞ、よろしく」


「ベースのNORISHIO君」


「こんにちは。NORISHIOです」


「こんにちは。沢倉です」


「それでかれはリードギターのCONSOMME君」


「ご紹介にあずかりました、CONSOMMEです。よろしくお願いいたします」


「よろしくどうぞ」


「で、最後にこの子がドラムのBAREISHO君」


「こ、こんにちは。ポテトチップスでドラムをたたいているBAREISHOです」


「こんにちは。なかよしおともだち第二グラウンドの沢倉です」


 ということになっていったのだけれど、そのあとは、なんとなく手持ち無沙汰だったので、今日たまたま京子がお昼に持ってきた大量のクッキー(手作り)を、


「つまらないものですけれど、よかったら、どうぞ」


 という感じでかれらに提供してみた。


 四人は最初、恐縮しながら、


「先生、このクッキーはいただいてもいいのでしょうか?」


 とまず三原さんにきいて、


「いただきなよ」


 と三原さんが言うと、


「いただきます」


 とそれぞれ言って、やっともぐもぐ食べてくれることになったのだが、


「じゃあ、おれも食べるか」


 とタッパーに手をのばしたときに一瞬目があったNORISHIO君に、


「三原さんに、ウクレレ、習ってるんですか?」


 と軽い感じで聞いてみると、


「はい。ウクレレとギター、そして音楽総体について三原先生からぼくたちは多くのことを教わっています。しかし先生はギターを習得したいのなら『指だけを見ていてはだめなんだよ』と言っておられますし、音楽的な感性をみがくのも『全体を見るんだ』とつねづね言っておられますので、ぼくたちは時間の許すかぎり先生をウォッチングして、全体を観ながら自分たちの音楽性を高めていこうと考えているのです」


 とNORISHIO君はこたえていて――そんなわけで、ここでようやくかれらが三原さんを見学している理由があきらかになったのである。


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