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その19
少年野球やチビッコソフトボールを熱心に観にきている種族のなかのとくに阪急ブレーブスの帽子を好んでかぶっているオヤジたちはたいていファミリーレストランなどで謎のマダム相手に、
「うーん、あの子は伸びるね。インコースのさばきかたが最初からできてる。ほら、ああいうのは、おしえてできるものじゃないから」
とコーヒー一杯で語っていたり、少年野球の練習試合などでノーアウト二塁でバッターがサードゴロでセカンドランナーを三塁に進められなかったりすると、その子にコーヒーの空き缶を灰皿代わりにしながら、グチグチ一時間ちかくも野球の戦術論を説いたりしているが、ひとみちゃんにさそわれて観に来ることになった「なかよしおともだち女子ソフトボール団VSぶっとびボヴァリーズ」の試合には、そんなオヤジはどこにも見あたらなかった。
「あっ! 沢倉さん。観にきてくれたんだぁ」
「うん。でも、ひとみちゃん。今日、出場できるの?」
「もう足はだいじょうぶだから、いつもどおり、三番、センターで、先発出場するの」
先攻後攻をきめるジャンケンに勝ったひとみちゃんのチームのキャプテンは、審判に、
「じゃあ、後攻で」
と言って、後攻めをチョイスすることになっていたので、
「お願いしまぁす」
とお互いあいさつしたのちのひとみちゃんは、そんなわけでグローブを持ってセンターの守備位置に走っていくこととなった。
「プレイボール!」
という審判の雄叫びのあとの初球に相手の先頭打者はいきなり八十年代の青木功選手を彷彿とさせるパンチショットのような打法でアウトローのボール気味のストレートをパチンとセンターにはじき返していて、
「あっ! これはおそらくセンター前へのクリーンヒットだぁ」
とヤナギの下で観戦していたぼくは一瞬そう思ったのだけれど、センターを守っているひとみちゃんは躊躇なく前に突っ込んでくると、そのヒット性の打球を地面すれすれでダイレクトキャッチした。
で、そのあと受け身を上手くとりながら一回転したのちに、ボールが収まっているグローブを空に高く突き上げて審判に、
「ダイレクトでーす」
とアピールし、アピールされた審判もちゃんと見ていたようで、すんなり、
「アウト!」
ということになったのだけれど、味方の選手やその関係者が、
「ナイスキャッチ!」
とか、
「素晴らしい! ひとみちゃん」
と手を振って、ひとみちゃんも、
「ありがとう」
と帽子を取ってグローブといっしょにそれにこたえたりして、みんなはしゃいでたいへん盛り上がっている最中、ぼくは新倉美子の歌う姿をはじめて見た修行僧のようにヤナギの下で立ち尽くしてしまっていて、相手の攻撃が三者凡退におわって、ひとみちゃんたちがベンチに帰ってくるころにやっと、
「ぶっとびボヴァリーズの背番号19の選手、あさ美お姉さんよりさらに色気あるな……」
と声が出たのだった。




