14
その14
ぼくの部屋にも京子の部屋にもテレビはないので、何かしら観たい番組があった場合は一階の応接間のテレビで観るしかないのだけれど、この晩の応接間には両親や京子にまじって姉もやはりくつろいでいて、そして案の定ヒデタ支那虎のワンマンショーを観ていた。
みんなテレビに集中していたので、夕飯は匍匐前進でキッチンまで進んで米びつ君に寄り掛かるような感じで食べることができて逆に良かったのだが、肝心のヒデタ支那虎のワンマンショーは、姉がいるためにいっしょに観ることは絶望的だったので、ぼくは米びつ君からサイドボード、サイドボードから廊下、という順で、受け身をとって転がりながら移動してまた家の外へ出て、それから両親や姉たちの視界に入らなくてなおかつテレビ画面が見える窓のところに顔をぎりぎりまで近づけて、どうにかヒデタ支那虎のワンマンショーを観たのだった。
ワンマンショーを観た翌日は、昨夜の余韻に浸りながら散歩コースをまわったのちにコンビニに行って菓子パンと牛乳を買い、また公園にもどってブルーシートをヤナギの木の下に敷いて朝食を取ったのだけれど、さすがに十月にもなると、
「温かいお飲み物にすればよかったかなぁ」
この時間はちょっと肌寒いことになっていて、だからぼくはこれから冬にかけての寒さ対策をそろそろ練っていかなければいけないなと思った。
肌寒かったために一瞬そんなことも思ったが、先ほどからの「ヒデタ支那虎の余韻に浸る」という状態は菓子パンを食べながらもまだつづいていた。
しかし胸にお手手を当ててよく考えてみると、ぼくはヒデタ支那虎のCDもカセットも持っていなかったし、曲名も二、三曲しかおぼえていなかったので、知識はほとんど無いにひとしかった。
「『サンキュー・フォー・ザ・ミュージック』はABBAのカバーだってことは知ってるんだけどな……」
それでもぼくは妥協せずにブルーシートに横になって午前中いっぱいヒデタに想いを馳せ、京子といっしょに昼飯を食べている最中でもプレーンオムレツをほおばりながら、
「お兄ちゃん、おいしい?」
「うん」
「おかしいな――きょうのオムレツ、ついクセで、また甘くつくっちゃったのに……」
ヒデタについて考えたのだけれど、やはりヒデタ支那虎関連の知識はとうぜんながら増えることはなく……それで、もうどうにもならなかったので、弁当を片付け始めていた京子に、
「なぁ」
と呼びかけて、
「ん? やっぱりオムレツ甘かった?」
思いきってヒデタにかんしてのアドバイスを求めてみた。
「ふむふむ――だったら図書館に行ってみるといいよ。お兄ちゃん」




