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その12
そんなぼくの熱い視線に気がついたのか、タカシナさんは、おっちゃんから、おっちゃんが空けてくれた三角の隙間に足を入れてすわっているぼくのほうに視線を移してきたのだけれど、そのとき首をかしげる向きを左から右に変えて、
「わたし、困ってるんです」
という表情をした。
それでぼくは手に持っていた『従妹ベット』をまずフランス文学のコーナーにもどして、それからポケットよりおもむろにティッシュを取り出したのちにそいつで〝極細綿棒〟をつくって、おっちゃんのお鼻周辺を、
「こちょこちょこちょこちょ~」
とやってみたのだけれど、まったく起きる気配のなかったおっちゃんも、さすがにこの感触には、
「ハ、ハ、ハクショーン・コネリー!」
と飛び起きることになって、ちなみにハクショーン・コネリー後のおっちゃんは寝起きのためか、大音量で謎の唸り声を発しつつのびをしてはいたのだけれど、それでもスニーカーをはき、上掛けにしていたウインドブレーカーを羽織ると、やがて思いのほか軽快な歩き方でどこかへ去って行ったのだった。
「ありがとうございます。助かりました」
「あれだけ寝言も言ってたんだから、起こしたっていいよね」
「あの人、どうやっても起きないんですよ。いい人なんですけどね」
「知ってるんですか?」
「ええ――図書館のスタッフに同じクラブに入ってる子がいるんです」
「クラブか――運動系かな……」
「でも、いい方法知りました」
「ティッシュ綿棒のこと?」
「うん――仕事仲間にも申し送りしておこうかな」




