王様、引退のために憲法を作る
「選挙の前に、憲法を作ろうと思います」
目の前のメンツは、何を言っているんだという顔をしている。
代官、エリナ、ライナたち。
ついでに、先日選んだ国王代理もいる。
「裁判をするにも、法律を作るにも、憲法がないと困るからな」
だから、裁判官も、議員も、それからだ。
「誰が作るのかな?」
エリナが聞く。
俺は皆の前で、両手を広げた。
「このメンバーで作ろうじゃないか」
「憲法なんて作ったことないんだけど」
「奇遇だな。俺もない」
そりゃ、そうだ。
今まで、俺たちの国は王様がひとりでまわしてきたのだから。
「何を決めるの?」
「これはやっちゃダメということを書く」
「たとえば……」
たとえば……かぁ。
「人を殺してはいけませんとか、人のものを盗んではいけませんとか……」
「なるほど」
「権力は国民のために使うとか……」
「うん、いいんじゃない」
「すべての人は平等だとか……」
「王様は別でしょ」
「そうか? 王様以外はすべての人は平等……ならいい?」
「うん」
「国王は一生やめちゃダメとか……」
代官のひとりが、そんな提案をする。
「いや、やめないけど」
「ですよね」
代官たちは一様に安堵した表情をみせた。
「でも、引退はするよ」
「「「どっちなんですか」」」
「俺が目指しているのは、お飾りの王様だからな」
「……」
かといって、今すぐ辞めるわけにもいかない。
だからこそ、少しずつ王様の仕事を減らしていくのだ。
「井戸にゴミを捨てちゃダメとか……ですかね」
代官がそう言う。
「は?そんな人いるの?」
「結構多いようです。川のように流れると思ったらしくて」
「まさか、そこで水も汲んでるの」
「はい」
「マジか……。じゃ、それも入れようか」
「人の定義も必要でしょうな」
かつて俺の執事をしていたスミスさんが言う。
「定義?」
「国によっては人なのに人と扱われないものがございます。獣人や、エルフなど」
なるほど。
ローラや、エリナの類かな?
「うむ、そうじゃな。妾も人と扱われなくては困る」
ミカンだ。
いつの間にか会議に参加していた。
「ミカンは何種になるの?」
「妾は、ネコ種かな?」
「いやいや、ふつうのネコじゃないでしょ? 化けネコ? ネコもどき? ネコ魔王?」
「う~ん。化けネコではないのぅ。もどきと言われるのは心外じゃし、魔王でもないのじゃ」
「ミカン、ローラ、エリナ、自己申告でここに書いて」
白板を指さす。
3人は、自分の種族と思われるものを書き出す。
猫又、神種、エルフ……。
「ふぅ~ん……っていうか。神なの? ローラ」
「みなさん、あがめてくださいますわぁ~」
ただのファンの皆様があがめているだけなのでは?
確かに白い羽根を持って空も飛べる。
神出鬼没の謎の動きをする。
「じゃ、こういうことでいいかな?」
猫又、神種、エルフ、獣人も等しく人として扱う。
と白板に書いた。
「いいと思いますわぁ~」
「あとは……働ける人は税金を納めてね、とか」
「うん」
カチャ、カチャ……。
何の音だろうと思ったら、ペンで遊んでいる者がいる。
子どもか!
その横では、スマホをいじっている。
「国民は政治に参加して……とか」
「もう、ここまで挙げたのが憲法でいいじゃん?」
とライナ。ちょっと口調も荒い。
「早く終わらせろや」という意思がひしひしと伝わってくる。
気がつくと、一部の代官が、無限に首をコクコクさせていた。
目も半目状態だ。
どんな夢を見てるんだ?
今回のメンツでは、ここまでが限界のようだ。
「最後に、『国の運営は会議で決める』を……追加します」
そうとも。
これがないと、俺は引退できない。
「うん、いいんじゃない」
彼らは、今日のような会議を連想しているだろう。
だけど、俺の本音はそこじゃない。
ホントは会議ではなく、議会と書きたかった。
でも、その言葉を使うと反対されそうな気がした。
まぁ、どっちも一緒だろう。
反対は出なかった。
あとは、これを後ろ盾にしようじゃないか。
「じゃ、とりあえずこれを憲法として、まずは裁判官を選んでいこうか」
「裁判官は選挙で選ぶものじゃないと思うけど」
エリナが言う。
あれ?
日本ではどうしてたっけ?
そういえば、選挙じゃなかったな。
「試験か……!?」
「うん」
司法試験なんてやったこともない。
ましてや、作り方なんてわからんぞ。
「ベスティアではどうしてるの?」
その試験問題を使おうじゃないか。
「ベスティアでは裁判官はいませんわぁ~」
「憲法と法律と常識を学習済みのAIを使ってますわぁ~」
「な……!?」
「それ、どのくらいの予算で使えるの?」
とエリナ。
「年間このくらいですわぁ~」
「うん、わかった。それでいこう。後で契約書持ってきて……」
あれ?
俺の意思は?
そんな俺の心を読んで、ローラが言う。
「旦那様も言っていましたわぁ~」
「なんて?」
「サインをするだけのカンタンなお仕事ですと……」
そう言ってケラケラと笑った。
確かに言った。言ったけど……。
とりあえず、これから裁判のお仕事からは解放してもらえそうだ。
憲法の公布は代官たちに依頼済み。
会議中に半分以上の代官の意識が飛んでたのが気になるが、大丈夫だろう。
数日中には、各地に報せが届くだろう。
それが行き渡ったら、次は議員を集める。
法律を決め、行政をまわしていく人たちだ。
これで少しは、俺の仕事も減るはずだ。
……たぶん。
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次回
『犯人の名前は、アーク・リベル』
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