来ちゃった
「お前ら、動くな」
衛兵たちが、この部屋にぞろぞろとやってきた。
嫌な気がしていた。
この区画は皇帝しか入れない。
だが、物理的に隔離されているわけではない。
禁を破れば、ション大将軍だって入れる。
やたら丈夫そうな鎧を着た男がひとり。
おそらく、あれがション大将軍だろう。
俺も剣には自信があるが、あいつには勝てそうにない。
そういうヤバい雰囲気が伝わってくる。
衛兵を見る。
宰相が死んだところを見ている者もいる。
俺たちを捕らえるだけなら大丈夫だと思ったのだろう。
でも、手が震えてるぞ。
ローラはニヤニヤしている。
俺が窮地に陥っているのを楽しんでいるらしい。
俺たちだけなら、いつでもリヴァイアサンに逃げられる。
でも、皇帝を置いてはいけない。
どうする?
コマンド
とりあえずむりょくか
▶じかんかせぎ
ローラのせんのうをまつ
しんだふり
にげる
「お前たち、ここが皇帝専用区画だと知っての狼藉か?」
「その言葉、そっくり返してやる」
ション大将軍、えらく強気だな。
「俺たちは皇帝の許可を得てここにいる。
お前たちは、誰の許可でここにいる?」
宰相の許可なのだろうけど。
「宰相の許可だ。そこの皇帝は、替え玉だ」
ほうら、そう来たか。
「朕は替え玉ではない。正真正銘、この国の皇帝じゃ」
皇帝は右耳の下のほくろを見せた。
よくわからんが、替え玉にはほくろがないってことだな。
「そんなはずは……。いえ、確かに皇帝陛下ですな」
「ならば即刻立ち去れ。
この区画は、朕が許可した者しか入れないことを忘れたか?
朕は替え玉と違って、宰相に権限を委譲などしていないぞ」
「はっ、ただちに……」
そう言って、ション大将軍は衛兵を率いて立ち去った。
とにかく、この国は俺の国の傘下になっている。
不安要素がなくなってなによりだ。
面倒なことが残ってたら、俺が引退する障害になるからな。
それにしても、何か忘れていた気がする。
何だったかな?
そういえば、ション大将軍は皇帝を敵視してたんじゃなかったの?
「洗脳の必要なくない?」
「あいつ何を考えてるかわからなかったのじゃ」
え?
そんな理由で洗脳するの?
酷くない?
だけど、ローラは洗脳の必要がないことを確認してから、脳内学習を実施した。
こいつも、容赦ないな。
でも、まぁ、これで皇帝がこの国を掌握したってことでいいのかな?
ローラは脳内学習中でヒマなのか、皇帝を連れて国庫を開け、金印を持ってこさせた。
昨日までに皇帝にサインさせた契約書に、金印を押していった。
え?
皇帝に押させるんじゃなくて、お前が押すのかよ。
なんというか、やりたい放題だな。
「この国は、水道はどうなっているの?」
「一部を除いて完備しとるぞ」
「皇帝陛下は、おられますか!」
誰かが、皇帝区画の前で叫んでいる。
「どうしたのじゃ……」
「国内の各地に謎の落とし穴が大量発生しました。
あちこちで落下事故が発生しています」
なんだか聞いたことのある流れだな……。
俺は以前、
「領内の全ての家庭に、井戸がある」
という「ウソ」をついた。
《フェイク》の力でついた「ウソ」は、俺の領地が広くなるたびに、新しい領地にも反映されてしまう。
だから、このエイジア皇国にも、できてしまったのだろう。
囲いもつるべもついてない雑な井戸が……。
落とし穴にしか見えない井戸が……。
俺は皇帝に事情を説明し、各地におふれを出してもらった。
謎の落とし穴は井戸なので、落ちないように注意せよと。
すまないね。雑なスキルで。
……まあ、これで終わればいいんだけど。
俺、記憶にはあんまり自信ないんだよね。
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次回
『忘れてた』
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