笑ってはいけない
「なんてこった。ちゃんと本を読んでおけばよかった」
俺は今、牢屋に入れられている。
ライナが俺を解放するために動いているらしい。
それまでの間、我慢だ。
便器とベッドが一体化していて、布団も毛布もない。
なんか、嫌だな。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
食事は、なんとかのどに詰まらせずに済んだ。
変な食事のルールを無事にこなして、ホッとしたせいで気が緩んでいたのは否定しない。
この国についての説明本は、
なんかヤバい世界に引きずりこまれそうな内容だったので、
ほとんど読まなかった。
そんな俺に呆れたライナから、重要な部分だけ聞かされていた。
食事のあとに、何かあるって言ってたな。
確か……
「全員が食事を終えると、神に挨拶する儀式があるわ。
最初に神官が言うので、同じフレーズを繰り返してね」
……という感じだったか。
同じ言葉を繰り返すだけ。
楽勝じゃないか。
「さぁ、皆さん、神に感謝の祈りを捧げましょう」
そう言って、両手を天に掲げて大声で言った。
「それな!」
ちょ……。何それ!
皆も続いて言う。
「「「「「それな!」」」」」
やばい、ツボに入ってしまった。
笑いがこらえきれん。
なんだよ「それな」って。
この国の人にとって、「それな」は神への祈りの言葉だ。
でも、俺は転生者。
日本で祈りの言葉に「それな」なんて使うわけがない。
ギャップすごすぎ……耐えられるわけがない。
ガマンした。ガマンしたんだけど。
ひとたびツボに入ったものをこらえるのは無理だ。
「うわははははは……」
声に出して笑ってしまった。
周囲の目が一斉にジロリと降り注ぐ。
やばい。やっちまった。
ここでは、神聖な儀式を笑ったりすると、重罪になる。
本来なら、即刻尻叩き100回とかになるのだが、
こうして笑った者は初めてなので、
それでは済ますなという声が多いらしい。
なので、刑の執行は一旦保留にされ、対応が協議されている。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「出たまえ」
俺の刑が決まったらしい。
手かせを引っ張られ、そのままついて歩いていく。
途中、血の付いたギロチンとか、
やばそうな道具があるのを目にしたが、
スルーしていった。
やがて、広場に出た。人がいっぱい集まっていた。
罵声を浴びながら進む。
十字架がある台の上に上がっていく。
火あぶりとかにされるんだろうか。
俺のスキルで「殺されない」と「ウソ」をついてるが、
キズはつくんだよな。
黒焦げになって生きてるってのは困るな。
でも、そこはライナたちがなんとかしてくれるだろう。
十字架に貼りつけられる。
なにか「ウソ」をついて回避するべきか?
いや、まずは、ライナたちを信じよう。
幸い、口はふさがれなかった。
いつでも「ウソ」の力で逃げられる。
「それでは、刑を執り行う」
俺の周りに屈強な男たちが集まってくる。
「はじめ!」
男たちは、俺をくすぐりはじめた。
な、何これ。
俺、そういうの弱いんだけど……。
「うはははは……」
後で聞かされたのだが、「百笑いの刑」と呼ぶらしい。
くすぐられて笑っているところに、
生卵を100個ぶつけられるというものらしい。
この国の宗教はよくわからん。
生卵は最初こそ痛かったが、最後の方は笑いすぎて、それどころじゃなくなっていた。
どれくらい経ったのか、もうわからない。
男たちが離れていく。
やっと刑を終えたらしい。
くすぐられすぎて、変なスイッチが入った気がする。
なんというか……「くすぐられるのに弱くなった」みたいな。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
刑を終えて回収に来たライナが、おもしろがって俺をつついた。
「あなた、ここが弱いのね」
「うは、うははは……」
エリナも俺をつついた。
「ここも、弱かった」
「ちょ、やめ、うはははは……」
刑は終わったはずなのに「百笑いの刑」は、まだまだ続くらしい。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
こうして、俺たちはルシャマ聖国での外交を終えた。
俺の中では「お笑い聖国」という印象になった。
もう二度と行きたくないかな。
次は、エイジア皇国の皆さまを送るとしますか。
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次回
『異文化交流は、トイレから』
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