郷に入っては……
「え、これに着替えないといけないの?」
お尻に革のクッションがついている変なデザインのズボンだ。
ライナたちも、すでにそういうズボンを履いている。
「やっぱり聖国について何も学習してないじゃない」
「どゆこと?」
「あの本、最後まで読んでないでしょ」
う……。確かに途中で読むのをやめてしまった。
「どこまで読んだの?」
「信仰に関わることを笑ったり、疑ったりしちゃいけないとこまで」
「はぁ……。最初の部分だけじゃない」
俺が着替えている間に、ライナがルシャマ聖国について説明してくれた。
「この国では、常に誰かが尻を叩かれてるの」
「なんで?」
「ちょっとしたことで厳罰になるから」
「それで、このズボン?」
「そう」
この国の服は尻の部分に革を貼りつけている。
叩かれても破れないようにしている。
なんならクッションまでついている。
「あと、座ることや、横になることを禁じているわ」
「足が地面から離れたら、厳罰になるから」
「座れないの?」
「そう言ったじゃん」
ほぼほぼ立ったまま生活するのか。キツイな。
「三角形に近い椅子をまたぐようにして座るそうよ。
だから、この国の女性はスカートをはかない」
三角形って、三角木馬か!?
「それで、お尻のクッションが役に立つのか」
「そうみたいね」
「この際、足が地面から浮かない高さに調整すること。
足が浮いた状態で、もたもたしてると厳罰になるからね」
「食事は天を仰ぐような姿勢で、いただきますの合図。
その姿勢をやめた時点で、ごちそうさまの合図。
すぐに食事が片づけられちゃうから注意してね」
「マジか」
「水はどうなるの。上向きで飲める自信ないんだけど?」
「無理ね」
「水分を含む野菜や果物を食べることで補うそうよ」
「なんだそりゃあ~」
「これをおかしいとか笑ったりしたら厳罰になるんだからね」
「最初に聞いておいて良かった」
「それじゃ、着替え終わったようだし行きましょうか」
お尻にクッションがついているので、何だか着心地が悪い。
「あ、そうそう。挨拶は頭突きだからね」
「は?」
「相手のおでこを狙って頭突きする必要があるわ」
「え?」
ライナが頭突き態勢に入っている。実践する気か。
「相手がこういう態勢の時は動かず受けに徹してね」
コツンッ
「痛くない」
「挨拶なんだから当たり前でしょ。
相手の鼻や口にあたると厳罰になるから注意してよね」
何それ怖いなぁ……。
不安を抱えながら、俺たちは帆船型電動船でルシャマ聖国に向かった。
変な挨拶が当たり前の国へ……
港が見えてきた。
中世の港町という雰囲気だ。
ここのところ、津波や火災でボロボロになった港しか見てこなかったので、すごく新鮮だ。
かなり儲かっているらしく、店がまえなども豪華だ。
誰かの銅像まである。
人も多く行き交い、賑わっている。
あちこちで頭突きしあってるのは、シュールで笑いを抑えるのに困ってしまう。笑ったら厳罰なのだ。
見ていると、頭突きはどちらか片方がすればいいらしい。
両方で頭突きをし合う必要はないのね。
道のあちこちで尻を叩かれている人がいる。
尻叩き棒は、大きなハエ叩きのような形をしていた。
パァン……。
叩いた音はとても大きい。
でも、面で当たるので痛さを抑えてるらしい。
叩かれてる人が恍惚の表情を浮かべているのを見て、さらに笑いをこらえるのに必死だった。
本当に不思議な街だ。
格好のいい服を着た高齢の男性が出迎えてくれた。
ここもライナが先導する。
「出迎えありがとうございます。
こちらは、リベル王国の国王アーク・リベル様です」
「アーク・リベルだ」
「外交官のロイス・ミルズと申します。ルシャマ聖国にようこそ」
さっそく頭突きを受けた。
コツン!
さすが熟練の頭突きマスター。
失敗のない的確な頭突きだった。
「歓迎の宴を設けております。こちらへどうぞ」
案内された先は、公園のような場所だった。
あれぇ? 屋内じゃないんだ。
「この国は屋内での飲食は禁じられてるの」
ライナが小声でささやいた。
「雨の日でも」
「うん」
今日が晴れていて良かった。
食事はベビーカステラサイズに小分けされ、
手前から順に口に入れていくらしい。
上を向いて食べるので、手探りで食べることになる。
これが結構むずかしかった。
もし、のどに詰まったらどうする?
水も飲めないんだぞ。
大丈夫か、俺。
--------------------------------------------
次回
『笑ってはいけない』
--------------------------------------------
お読みいただき、ありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけましたら、
★や【ブックマーク】で応援していただけると、
今後の創作活動の励みになります。




