平和な街に落とし穴
「誰か、手を貸してくれ~。誰か~」
こんな声が街のあちこちから聞こえてくる。
「一体、どうしてこうなった?」
ことは半日前までにさかのぼる。
リベル港に帰った夜。
ローラによる再教育が一斉に実施された。
旧ダウト王国の人々に、読み書きや計算などの一般常識まで脳へ直接叩き込むのだ。
意識がそれに占有されるため、誰も何もすることができない。
俺もこのタイミングで《フェイク》を使った。
「リベル王国には、落とし穴はない」という「ウソ」をついた。
澄んだ不思議な音が脳内に響いた。
空気が一瞬入れ替わる感覚がした。
成功したようだ。
夜が明け、街を見回ってみると、商売人が増えていた。
「そこの方、占いをしていかないか?」
どこかで聞いた声だと振り返ると、旧ダウト王国の国王が怪しげなローブをまとっていた。
「私にはすべての未来が手に取るようにわかる」
それにしては国の運営失敗してたな。
「明日のことでも、10年後でも、何でもわかるぞ」
いや、あなたには無理でしょ。
俺は、スルーして、他の店を見て回った。
「さぁ、いらっしゃい。おいしいよ~。食べてっておくれ~」
今度は旧ダウト王国の王子だった。タコ焼きを売っている。
試しに買ってみたら、めちゃくちゃ美味しい。
この味なら十分流行るだろう。そんな才能があったとは思わなかった。
隣では、旧伯爵令嬢がやきそばを売っていた。
こちらも美味い。しかも、商売人としての姿が堂に入っている。
一夜にして王族や貴族が平民に変わってしまった。
しかも、誰一人として死ぬことなく、それぞれの適性に合った仕事に就いている。
とても優しい出来事に見える。
だが、彼らの記憶はどこまで残っているのだろう。
大切な想い出まで失われていないといいのだが。
そんなことを考えながら街を歩く。
街は、とても平和に見えた。
しかし、街では時々、騒ぎが起きていた。
「誰か、手を貸してくれ~。誰か~」
街のあちこちで、深い落とし穴に人が落ちている。
何か同じ経験をしたような……。
あ!
井戸か!
以前、「領内のすべての家庭に、井戸がある」という「ウソ」をついた。
それが《フェイク》によって、新領地にも及んでしまったらしい。
しかも、なぜか井戸には落下防止の囲いも、つるべも、ポンプもない。
そりゃ、落ちる人もいるか。
俺は人を助けながら、井戸について説明して回った。
彼らは川の水に頼っていて、井戸を知らなかったのだ。
新しい代官にも説明したので、あとは任せよう。
ふぅ。
朝、街を見に出たはずなのに、すっかり夜になっていた。
スマホのベスティア王国ニュースを見ると、
ローラ様ファンクラブの会員が、数万人一気に増えたらしい。
え?
多すぎないか?
旧ダウト王国の国民って、数万人だったような……
ローラ。再教育でファンクラブ増やしてないだろうな?
ないよな?
まぁ、いいか。気にしてもしょうがないことだ。
・ ・ ・ ・ 翌 日 ・ ・ ・ ・
美術館や博物館は、なかなか充実した。
王族や貴族の屋敷には、無駄にためこまれた美術品や工芸品がありすぎて、展示するものを選ぶのに困ったくらいだ。
遊園地は従業員を募集中で、まだ稼働前。
国立病院も建物は完成したが、医者が育っていない。
医療を学び、実践する場として使いながら、数年かけて育てていくそうだ。
一気に医者を育てるオプションサービスもあると言われ、心が揺らいだが……我慢することにした。
道路、地下鉄、運河も旧ダウト領まで整備され、上下水道も整った。
さて、旧ダウト領の整備は、こんなところでいいだろう。
そろそろ、次の外交に向けて、次に行く国の勉強が必要だ。
なにせ、一度も行ったことがない国に行く。
事前にハトで、連絡をしてくれているが、ある程度、前知識を入れておくべきだろう。
次に行く国は、ルシャマ聖国だ。
過去に、そこに行った者が書き留めた本があるらしい。
「読め」と言わんばかりに、俺の机の上に置かれている。
ライナたちは、すでに熟読済みらしい。
『ルシャマ漫遊記』
この国は絶対神ルシャマを強く崇拝しており、軽口でも神をバカにしたり、笑ったりすると厳刑に処される。
厳刑といっても、金属棒や茨のムチで100回叩かれるくらいだ。
これが実に気持ちいい。クセになってくる。とても気持ち……
「……」
こいつ大丈夫か?
そっちの方に目覚めた人なんだろうか?
俺はそっと、その本を閉じた。
違う知識を植え付けられそうな気がした。
面倒な国ということは理解した。
しかし、行くことはもう決定事項だ。
気がすすまないが向かうとするか、その国へ。
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次回
『海賊は合法です』
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