港の先に広がる世界
シャーッ……シャーッ……
ネコ獣人のゴロちゃんが爪を研いでいる。
ネコの爪とぎって、伸びた爪を整えるためにするんじゃなかったのか?
どう見ても、切れ味を上げるために研いでいる。
ゴクリッ。思わずツバを飲み込む。
そんな設備まで港にあるとは……。
いや、違う。これは港の設備じゃない。
それよりも、まずは、ゴロちゃんから離れなくては……。
「ローラ、船で行き来できるところについて教えてくれん?」
これは、この場を離れるための口実だ。
「しかたありませんわぁ~」
ローラはキョロキョロあたりを見渡す。
俺は知っている。
この港には、白板もなく説明がしにくいことを……。
「それじゃ、ゴロちゃん。また、後で……」
そう言うと、ローラは俺たちの手を取った。
ゴロちゃんの目がギラリと光った。
その爪は、さっきより鋭く見えた気がする。
ゾクリとしている間に、俺たちは城の会議室に瞬間移動した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、帰ってきた」
とことことやってくる銀髪の幼女はエリナ。まだ8歳。
《フェイク》でファリス・ロドスの姿になっていた頃、死にかけていた彼女を助けて以来、すっかり懐かれている。
俺が会議室の椅子に座ると、エリナもちょこんと膝の上に乗ってきた。
代官たちも席につく。
……が席に座らず、俺の後ろに回って頭をなで始めるヤツがいた。
「うん、アークはかわいい、かわいい」
幼馴染のライナだ。赤いポニーテールの弓術士である。
独立を機に、俺は昔の顔へ戻した。
その変化を一番喜んだのが、ライナだった。
俺が他の人に撫でられていると、エリナは不機嫌になる。
仕方ないので、俺がエリナの頭をなでなでする。
「あんた、エリナに甘いわねぇ。ホントに幼女趣味なんじゃないの?」
「失礼な、そういう趣味はないぞ」
「アークは、私にぞっこん。髪色も私と同じにしてくれた」
エリナが火に油を注ぐ。
とりあえず、話題を変えよう。
「それにしても、ここは見晴らしがいいな」
遠くにあるはずの海まで、良く見える。
この城はローラが建てた。内部は現代の日本のような作りになっている。
地上50階の高層ビルだが、最上部だけは城の尖塔のような造りになっていた。
屋上には、何に使うのか知らないアンテナまで何本も立っていた。
さて、ローラの説明の準備が整ったようだ。
ローラはナニワ頭部のプロジェクタを使い、地図を表示した。
ナニワというのは魔王軍の機甲師団長だ。
ネイティブな関西弁で話をするロボットだ。
今は、魔王の命でここに駐留している。
ちなみに、ローラも魔王軍の幹部だ。
「今回出来たリベル港がここですわぁ~」
またローラが勝手に、リベル港という名前をつけた。
おそらく、今決めたのだろう。
ローラは人前でこういうことを平然とやり、既成事実にしてしまう。
「魔王領の港がこの辺ですわぁ~」
「宿敵、クフィール王国は海に接してる部分が、高い山にふさがれて未開拓なので、海を使えば安全に輸送できますわぁ~」
クフィール王国は何かと難癖をつけ、うちに攻撃してくる。
……だが、エリナの生まれた国でもある。
何か理由があって母親と俺の領地へ逃げ、母を失ったあと、俺が拾った。
「最初に交易を目指すなら、魔王領がおススメですわぁ~」
「そうだな。カレー、カレー、カレー、ラーメン、ポテチとかあるしな」
魔王領には、ローラが再現した現代の食べ物や日用品が山ほどある。
「カレーばかり言いすぎですわぁ~」
「アーク、カレー好きすぎ……」
エリナがツッコミを入れる。
ラーメンとポテチも言ったんだけどなぁ……。
「隣の隣国、アスヴァル王国の港がこの辺ですわぁ~」
アスヴァル?
ファリスだったころ、舞踏会でそこの姫に会ったな。
「何が買えるの?」
「オリハルコンと、ウサギやオオカミの毛皮が有名ですわぁ~」
「なるほど、それで、ネコの毛皮だったのか」
「ネコ皮?」
「いや、ダウト王国の舞踏会でアスヴァルの姫に会ったんだけど、なぜか全身ネコの毛皮を着てたんだ。しかも、全部本物だと自慢してたんだが」
「「あぁ、なるほど……」」
あの姫の奇行は、知れ渡ってるようだ。
「アスヴァルの港に向かう途中でダウト王国の領海を通りますが、ここもクフィール王国同様に海に接する面は高い山か、砂浜で港がないので、船は出してこれませんわぁ~」
ダウト王国は、独立前に俺たちが所属していた国だ。
今では敵対関係にある。
「さらに大きく海を渡るなら、火薬と……。いえ、それはまだ早いですわぁ~」
なんだか物騒な単語も聞こえた気がした。
でも、今は港と交易の話が先だ。
……まぁ、いいか。
「交易を考える前に外交官とか、政府の役職を決めるのが先だと思いますわぁ~」
まぁ、それもそうか。
その頃。
陸続きの隣国クフィール王国では、
次の侵攻に向け、切り札の準備が進められていた。
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