海に浮かぶもの
「行くしかないか……。どう考えても、嫌な予感しかしない。」
正直、気は進まない。
でも、ハトを使って事前に寄港する約束をしているらしい。
「はぁ……」
俺は大きなため息をつきながら、
エリナとライナを連れて格納庫に向かった。
「行くしかないのか……」
「アーク。しつこい」
わかってるよ。気が進まないんだよ。
例の帆船みたいな見た目の船に乗り込む。
これ、何か名前つけた方がいいよね。
ミカンが用意したものだし、ローラ(ローラ・タルテ)もからんでそうだから――
「この船は、オレンジタルトと名付けよう」
「何それ?」
「アークがいいんなら、なんでもいいよ」
ライナも、エリナも辛口評価だ。
=船体名:オレンジタルト。登録しました=
という艦内放送が流れた。
このクジラ型母艦の人工知能が反応したらしい。
どこでも音声入力とは、至れり尽くせりだな。
「クジラの方は名付けないの?」
「う~ん、それじゃリヴァイアサンにしよう」
「どういう意味の名前?」
「海に住む強いヤツ……だったと思う」
「なるほど」
エリナは、転生者なので話が伝わる。
「そんなのいたっけ?」
ライナには伝わらない。
=母艦名:リヴァイアサン。登録しました=
という艦内放送が流れた。
またも、リヴァイアサンの音声入力が反応したらしい。
ヘイ!と、オッケーとか言わなくても反応するんだ?
俺たちは、オレンジタルトの操舵室に向かった。
ご丁寧に①②③と順番が書かれたレバーが用意されている。
①のレバーを引く。
船が大きくせり出して、後ろの隔壁が閉じる。
②のレバーを引く。
クジラ型の母艦が浮上し、クジラの口と内部隔壁を開ける。
水がザァ~っとクジラの口の中に入りこみ、船が浮く。
操舵可能になった。
③のレバーを引く。
クジラの口からオレンジタルトが出て、クジラは沈んでいった。
こうして、オレンジタルトは、第1寄港地に向かった。
第1寄港地の名前は、ハリケーンと言う街らしい。
何、それ? 自虐ネタなの?
街は無残に壊滅していた。
大嵐で発生した津波による被害のようだ。
大嵐って、ローラがクジラ型潜水艦の性能試験か、嫌がらせのために起こしたヤツだよな。
責められないといいんだけど。
向かっていくと、海にかろうじて浮いている人たちをみかける。
「救助しないと……」
思わず、言葉が出てしまった。
=了解しました。救助行動を開始します=
人工知能が反応しちゃった。
船の後部がパカっと開いて、ゆっくりバックしながら、
浮いている人を周囲の水ごと飲み込んでは、
水だけ吐き出して、人や物を回収していく。
よくわからんが、器用な仕掛けだ。
港に着くまでの間に、
100人ほどの人や、同じくらいの数の物を回収した。
とても下衆な考えかもしれないが、
多少は恩を売れるだろうか?
ライナは助けた人たちに、
バスタオル、衣類、毛布、あたたかいスープなどを配っていく。
それはいいんだが……。
タオルにも、衣類にも、毛布にも、
スープの入ったマグカップにも、
俺の顔と名前が印刷されていた。
いつの間に、そんなの用意した?
バスタオルは、まだいい。
パンツや靴下に、顔の印刷は必要?
パンツは、お尻の方に俺の顔が……。
靴下は、踏まれる面に俺の顔が……。
俺の役目は、汚れ役?
でも、濡れて体温を失いかけていた人たちには、
とても好評のようだった。
ハリケーン港に寄港したいのだが、
桟橋とかが嵐で壊れているようだ。
オレンジタルトは、ゆっくりバックで港に近づき、
コツンと港に当たると、船の後部が大きくパカっと開いて、
開いた部分が港に乗り上げて、
船から港へ降りられるようになった。
こうして、流された人たちと共に入港すると、
拍手喝采で迎えられた。
なんだか、自作自演のようで申し訳ないのだが。
港では、アスヴァル王国外交官 ウクスツヌ・フメユルウが、出迎えてくれた。
フメユルウは、なんだか顔が赤い。熱があるようだ。
時々、お腹をさすっている。調子も悪そうだ。
こんな時に、仕事をさせて申し訳ない。
フメユルウから、来訪と救助のお礼を兼ねたパーティの申し出があった。
俺は復興を優先して欲しいと断った。
本音は、外交の仕事をしたくなかっただけだが。
しかし、それが、よろこばれた。
まだ、海や川に流された人や物がいるらしいので、
その回収を手伝うことにした。
その中に、やばそうなものがあった。
なんでこんなものが……
ネズミがたくさん浮いていた。
伝染病が流行ってないか心配だ。
加えて、クフィール王国の飛行船の残骸も浮いていた。
どうにも、連中の作為的なものを感じる。
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次回
『そんなこともあろうかと……』
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