逃げた先にも仕事がある
「ひどい! 私のことは遊びだったのね?」
ライナが、半分棒読みのようなセリフを吐く。
しかも、ペロっと舌が出ている。
同じセリフを使いまわすのは、やめて。
俺の意思に関係なく、結婚式は終わってしまったが、俺は部屋が別々になるように手配していた。
ドアで繋がってはいるが……。
今、ライナにそのことを責められているのだけど、伝わってこないよ。そのセリフでは。
「右の部屋と、左の部屋、好きな方を選んでね」
「じゃあ。私は、こっち……」
エリナは素直に従った。
ライナは、納得していない。
でも、もう一方の部屋に押し込んだ。
ガチャ。ガチャ。
両方のドアにカギをかけた。
「ふぅ……」
ガチャ。ガチャ。
両方のドアのカギが開けられた。
え?
「合鍵くらい持ってるわよ」
うん。まぁ、そうだよね。
まぁ、ふたりとも来てしまったのなら仕方がない。
「ふたりに相談がある」
「何?」
こいつらを巻き込んで、かねてよりの計画を実行してみよう。
そうだ。引退計画だ。
そのためには、俺がいなくてもすべてまわっていくと実感することが大事だと思う。
だから……
「旅に出ようかと思うんだ」
「新婚旅行ってこと?」
「まぁ、表向きはな……」
「何よ。歯切れが悪いわね」
「俺たちは、この世界のことを知らなすぎる」
「うん」
「だから、船を作って、この世界を知る旅に出たいと思う」
俺がいなくなれば、誰かが代わりに動く。
そうやって、次のリーダーが育っていくものだ。
逆に、俺がいつまでも居座っていたら、次のリーダーは育たない。
「その間、この国はどうするの?」
「大丈夫だろ?
税収もそこそこあるし、食糧にも困っていない。
もう、飢えている領民も見かけないし、子どもを売る親もいなくなった」
「まぁ、そうね」
もう一押しが必要か。
「もしものときは、ベスティア王国の傘下に入ってもいい」
「え?」
「というか、もう既にほぼほぼベスティア王国じゃん。
この前の脳内教育以来、教育も、言葉も、通貨も、国の防衛システムも、ベスティア王国に頼りっきりになってるし……」
「そう言えばそうね」
というか、もう、ミカンによろしくって預けたい気分だよ。
「だからさ、新婚旅行という名目で船を作って……。
できれば、頑丈で、もしものときは戦える船を……」
「それだと不審船だよ」
エリナのツッコミが入る。
「あ、そうか……。
それじゃ、無駄に装甲だけ厚い民間船なら、大丈夫かな」
「うん、いいんじゃない?」
エリナのOKが出た。
ライナは、そもそも不審船とか装甲というのが何かわかってないため、特にツッコミがない。
「エリナ、この前のお金の残り使ってもいい?」
「うん」
「それじゃあ、俺たちだけの船を作ろうぜ!」
こうして、俺たち3人は、俺たちだけの船づくりのため、いろいろ欲しいものを出し合った。
俺は大きくて超絶頑丈、台風でも揺れない船。
加えて、現代式の生活家電を備えた船。
さらに、真水と電源に困らない船。
エリナは野菜菜園と養鶏場が欲しいという。
アニメが見られるシアタールームも欲しいなぁ。
ライナは、大きなお風呂と広い運動場が欲しいという。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
あとは、どうやって作るかだが……。
ローラに頼んでも、こっちの言うことは聞かないと思うので、ミカン(ベスティア王)経由で、ローラに頼むことにした。
「船じゃと?」
「新婚旅行に行きたいんだ。できれば世界一周の旅に」
「ほぅ、おもしろそうじゃの」
「でしょう。
それで、こんな感じのものを実現したいんですけど……」
……と願望を書き留めた紙を見せる。
「ローラに頼んでほしいなぁ……と」
「え? どうしてじゃ?」
「え、ダメですか?」
ミカンは、少し考えてから、こう言った。
「いや、そうじゃなくての。
お主の能力の方が、あり得ない船が作れると思うての。
特に、この揺れないとか、水と電源に困らないとか。
装甲だけ超絶厚いとか……ふつうじゃと無理じゃないかの」
「なるほど……」
もっと、ありえないくらいのこと書きまくって、
俺の能力で、ポンと作った方がスゴイのが作れるか。
自動運転付き潜水艦
最高速度 時速500km
最高深度 2000m
全長500m
高さ10階建てビル相当
超絶頑丈でこの世界の武器では傷つかない
食糧と真水と電源に困らない
などなど、ロマン仕様を書きまくった紙を用意した。
先日、3人で話し合った仕様も書き込んだ。
せっかくだから、抜けがないようにじっくり考えよう。
しかし、その考えが間違っていたと知るのは、あとになってからだった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「え?、王様がそんなことを……」
「そうなのじゃ。留守中、お前らだけで切り盛りするのじゃぞ」
「それは、不安です」
「大丈夫じゃて」
不安になった代官は、王の執務室を訪れた。
王は不在だった。
机の上の紙を見かけた。
「? なんだろう。これは……」
代官は、その紙にいくつか加筆した。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「さぁ、作るぞ」
俺は、エリナ、ライナを連れて港に来ていた。
俺の、いや、俺たちのロマン満載の船を作るためだ。
俺は、紙を手に
「この紙に書かれたものを全て実現する船ができる」
というウソをついた。
澄んだ不思議な音が脳内に響いた。
空気が一瞬入れ替わる感覚がした。
発動したようだ。
うん、間違いなく発動している。
だって、それは目の前にできあがっていたのだから。
ロマンを詰め込みすぎたせいか、クジラにしか見えない外観になっていた。
船とは気づかない外観と指定したせいかな。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
早速、乗ってみよう。
船に向かって手を差し出すと、筒のようなものが出てきた。
その中を歩き、乗船が完了すると、筒は無くなった。
中は超絶広かった。
家電も充実。食べたいものが何でも作れる。
人工芝の運動場もある。広いお風呂もある。
他にも要望したものが、ほぼほぼ揃っていた。
後は、出発のための準備だな。
しかし、思ったより、皆の反応は良かった。
「留守中は、お任せください」
という代官たちの声に押されて、出発の準備も整った。
こうして、出港したのだが……
=王様、至急、執務室へお越しください=
という艦内放送が流れる。
すると、目の前に執務室のドアが現れた。
どうやら、このドアは俺がどこにいても、呼び出されると目の前に出現する仕掛けらしい。
執務室に入ると、山積みの書類が待っていた。
さらに、書類を自動で送れる仕組みや、テレビ会議ができるシステムまで揃っている。
どうやら、王の執務から逃げ出すことはできないらしい。
それどころか、寄港地の指定と、外交日程まで組まれていた。
「どうして、こうなったぁ~」
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次回
『港に何があった?』
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