見知らぬ王子
「ダウト王国から独立したと聞く貴国が、
真に独立国なのか、
まだダウト王国と通じているのかを
確かめる目的がございました」
「我が国リベル王国も、
現在ダウト王国と交戦中だ。
当然、物流も国交も止まっている」
その言葉を聞いた相手は、
安堵したように表情を緩めた。
「それを聞いて安心いたしました」
「申し遅れました。
私はアスヴァル王国軍、
第1艦隊司令、
オコソトノ・ホモヨロヲと申します」
全部「オの段」なのね。まぁ、覚えやすいけど。
「是非、我が国と共にダウト王国へ立ち向かっていただきたい」
「話は承った。まずは詳しい話を聞かせてもらおう」
オコソトノ・ホモヨロヲ司令の特徴的な名前は、
後に思わぬ騒動を引き起こすことになるとは、
俺はまだ知らなかった。
艦隊司令というより、王族らしい気品を纏っている。
とてもキレイな顔立ちだ。
体つきもいい。女性にもてそう。
俺たちが外交の話を続けている横で、
女性たちから「キャ~」という黄色い歓声が上がる。
我が国の国民は、脳内教育の影響で、
BLという知識まで得ていた。
その名前と見た目が原因で、
なぜか国内でBL本が流通することになる。
ちなみに、俺まで登場人物になっているらしい。
しかも、俺は「受け」という立場らしい。
……受け?
なんとなく意味は分かる。
でも、そんなに頼りなく見られているんだろうか。
まぁ、その騒動はまだ先の話なのだが。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「それにしても、変わった旗ですね?」
え? 旗?
また俺の知らないところで国旗まで決めたのか?
港の周囲を見渡す。
かつて独立前に使っていた「ロドス領」の旗だ。
随所にネコがデザインされている。
かなりかわいい。
いや、とてもかわいい。
だけど、全然威厳が感じられない。
いいのか、あれで?
「あ、あぁ。斬新だろう?」
「は、はぁ……」
話を振ってきたくせに、司令は返答に困っていた。
そこで、急に話題を変えてきた。
「さきほどの外交官の方は、国王陛下の伴侶なのですか?」
姓が同じなので、勘違いされたらしい。
「はい、その通りです。ホモヨロヲ殿下」
「違……」
言いかけた瞬間、ライナに口を塞がれた。
「外交上の方便だって……」
耳元でそっとささやく。
「本当にそれだけか?」
「そうよ、別に下心なんてないんだから……」
なぜか少し頬を赤くして目をそらす。
後ろではエリナが、俺の服の裾をぐいぐい引っ張っていた。
「それにしても殿下だと? 司令の間違いでは?」
ライナに小声でツッコミを入れる。
「あの人、王族だから殿下でいいのよ」
やっぱり王族だったか。
エリナはまだ俺の裾を離そうとしない。
服が伸びそうなんだけど。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「せっかくですから、国内を案内いたしますわぁ~」
突然、ローラが現れた。
たたかう
まほう
▶ まかせる
にげる
面倒なので、任せることにした。
ホモヨロヲ殿下は、ローラと面識があるようだった。
ローラは地下鉄に乗せるという名目で、乗り組み員の顔写真を撮影した。
ローラに顔写真を撮られると、タブレットには、
SNSのように、
顔写真の横に心で考えていることが表示されていくのだが、
ここでは、触れないでおこう。
だって、あいつ、俺の言うこと聞かないから。
いきなり、不穏分子を「ダウトォ~」と言って抹殺しないことを祈ろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地下鉄で、港から城に移動した。
城の1階は、貴賓フロアになっていた。
金やオリハルコンをふんだんに使用し、
細かな細工の彫刻や絵画が、他国の人の度肝を抜く。
というか、いつの間にこんなものを……。
はじめてみるはずなのに、
彫刻も、絵画も、どこかで見たような気がする。
転生前、図鑑とかで見たようなデザインだ。
もしかして、これは、それを真似た贋作?
ふとローラを見ると、
絵画の値札を、
俺と目が合った瞬間にはがし始めた。
100ガルド。
ちらっと見えた値段は、意外と安い。
100均か!?
たぶん、思いっきり「印刷」なんだろうな。
というか……適当に安物を買ってきたのかよ。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
今回来たのは、偵察目的だろうから、
食事でもてなして、
敵意のないことを知ってもらうだけで良いだろう。
「ベスティア王国軍幹部のローラ司令に、
ここまでしていただき、ありがたく思います」
やっぱり、既知の間だったか。
「全然、かまいませんわぁ~、殿下」
「それより、いつ陛下になるおつもりですのぉ~」
「ご冗談を。陛下はまだ健在ですし、
私の兄たちは、自分より優秀ですので……」
王族の話題は、あまり触れてほしくない話だったのか、
ホモヨロヲ殿下は、軍事関連の話に話題を変えてきた。
「ダウト王国は、
クフィール王国と協力関係にあるらしいのです」
「それは、こちらでも把握している」
「クフィール王国とダウト王国は、
貴国リベル王国によって陸路を絶たれています。
それでも、なぜか物流があったのです。
ダウト王国に、勇者が移動してきたのです」
「え?」
先日「クフィール王国と勇者は瞬間移動できない」
という「ウソ」をついた。
ダウト王国内の魔術師が瞬間移動させる分には、
勇者でも移動できる、みたいな抜け道か?
でも……
距離がありすぎる。
そんなこと、可能なのか?
一体どうやって?
その答えは、予想外だった。
「夜間に飛行船が貴国リベル王国上空を飛行して、
物流を可能にしているらしく……」
「なんだってぇ!?」
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次回
『消える飛行船』
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