8、ズルタン、初恋➁ 出会い
二人は、しばらく抱擁し合った後、あの夜のことを語り合った。
「兄さん、どうして僕は助かったの、あの人さらいどもは、どうなったの?」
「ズルタン、あいつらは死んだよ。」
「えっ!どういうこと!?何があったの?」
「俺は、お前と別れた後、父上に報告に走った、家に着くと犬舎のほうから犬達が、異常に吠えまくっていたんだ、その様子があまりに異様だった、まるでこの世の終わりみたいに、どの犬も吠え狂っていた、俺は犬達の目を見た、そうしたらどの犬も今までないような目をしていた、不思議なことだがなぜか俺はこの犬達を、解き放たなければいけないような気がしてきたんだ、、、怒らないでくれよズルタン、あの時のことを冷静に思い返し状況を考えてみれば、父上に報告することが一番先にしなければいけないことだ、、狂っている、しかも大切なウィドックス家の誇りともいえる、犬達を、しかもズルタンを一人残してきている状況で、解き放つなんてまるで僕らしくない判断だとお前は思うかもしれない、でも何か本能的にそう感じたんだ、それも強烈にね、僕は犬達に一言も命令しなかった、ズルタンを助けろと命じてはいない、いや命じる暇すらなかったんだ、解き放たれた犬達は、お前たちがいた方向に一目散に走って行った、まるですべての犬達が、一つの生命体のようになって動いた、あんな犬達の姿は今まで見たことがなかった、犬が動くのは基本指示を受けた後だからね、しかもうちの犬たちは訓練済みで、自ら動くことはありえないはずなんだ、特に最近犬の躾を担当しているのはこの僕で、自分で言うのも恥ずかしいが、僕は自分の躾けた犬に、自信があった、でもあの時の犬は僕の命令なぞまるで聞く様子もなく、君を助けに動いた、その姿はまるで王を助けに行く忠臣の姿のように見えたな、、」
「それであいつらはどうなったの?」
「俺は、今、起こったこと、それになぜ自分がこんなことをしたのか分からくなって、、その、、、情けない話だが、しばらく呆然としてしてしまった、、我に返り、急いで犬達の後を追うと、食い殺された、、人さらい達の姿と、倒れて傷だらけのお前を、見つけたというわけさ、犬達は、あんなに吠え狂っていたのがウソみたいに静まり返ってお前を守るように、取り囲んでいたよ。」
「さらわれた女の子たちは無事だったの。」
「全員無事さ。」
「よかった!」
「無茶しやがって、お医者様によると3か月は、絶対安静だと言っていたぞ、鼻と肋骨が折れてるみたいだからな、、、、お前が無事でほんとによかったよ。」
その時、ドアからノックする音が聞こえた。
「おや、誰だろう?」
フォルトゥーナが、ドアを開けると、たいそう器量の良い、快活な印象の16歳くらいの娘が二人立っていた。2人とも金髪で、金色の瞳を奇麗に輝かせ、フォルトゥーナを見つめていた。
「「昨夜は助けて頂きありがとうございます、フォルトゥーナ様。」」
二人の娘は、同時にフォルトゥーナに、お礼を言った。
「私達、親から聞きました、昨夜、にっくき人さらいから助けて頂いたことを、フォルトゥーナ様!なんでも犬を使って蹴散らしたんですよね!!!本当にありがとうございます!!!貴方は私達の王子様です!」
「あのちょっといいかな、、君たちは兄弟?」
フォルトゥーナは、困惑しながら尋ねた。
「「はい!!」」
「君たちを助けたのは、僕じゃないんだ、君たちの王子さまは、このベットにいるよ!僕の、世界一の弟でズルタンて言うんだ!」
フォルトゥーナは、笑顔で、そして誇らしげな様子で答えた。
「「ズルタン様、ありがとうございます。」」
ズルタンは、恥ずかしくなり真っ赤になった。
「ではフォルトゥーナ様、私達と一緒にお茶でもしましょう!母があなた様に、お礼がしたいと!ウィドックス家のフォルトゥーナ様と言えばこのあたりでは知らない人がいないほど有名ですもの、ぜひ昨日の話も詳しくお聞きしたいですわ!わたくし双子の姉のファルーシャと申します!」
「わたくしは、マルーシャです!行きましょうフォルトゥーナ様!」
「いやちょっと、、だから君たちを助けたのズルタ、、うわっ、ちょっと引っ張らないで!」
フォルトゥーナは、半ば強引に連れていかれた。
現実とは残酷である、ズルタンも恰好こそつかなかったが、彼女たちを助けた第一人者なのだ、しかしフォルトゥーナは世間の評判が良いため、フォルトゥーナこそが、人さらいから、少女たちを助けた英雄だということでイメージができ上っていった。事実、娯楽の枯渇しているこの村で村人たちの語る噂話や世間話の中には、フォルトゥーナのみが登場し、ズルタンという少年の名が語られることは、ほとんどないに等しかった。
ズルタンは、寝室に一人寂しくポツンと残された。ズルタンは、窓から悲しく空を見つめた。この事実は、あの人さらい達に殴られた時以上の痛みを、ズルタンの中に引き起こした。
その後、3日間兄は、家に帰ってこなかった。おそらくあの兄弟の家に泊まりに行ったのだろう。
人さらい事件から6日が経った。ズルタンの回復は遅く、骨が少し複雑に折れているのか、なかなか、痛みが引かなかった。
そんなある日の朝のことである。その日は、家にズルタンの他に、誰もいなかった。兄は家庭教師に出かけ、ズグリは出張、ラシケスは買い出しに、出かけていた。ズルタンは、自分でミルクを器に注ぎ、パンとソーセージを自分で切り一人さみしい朝食を、送っていた。ミルクを飲むと、口の中の傷口に染みた。
そんな時だった、玄関の方から呼び鈴が鳴った。
「兄さんが帰って来たのかな、、、でもこんな時間に、、」
ズルタンは、痛む肋骨と、足を引きずりながら、玄関に向かった。
「どなたですかー」
返事がなかった。
「どなたですかー」
また返事がなかった。
「どなたですかー」
また返事がなかった。ズルタンは、不安になった、よからぬ妄想だが、もしかしたらあの人さらい達の仲間が、復讐に来たのかと思った、そんな思考が頭に芽生えだすと、ズルタンの心臓は飛び上がった。
「(まずい、、、もしそうなら、、今僕は、けがをしている、、ヤバい、犬達を、、、嫌もし囲まれているとしたら、、ヤバい、、)」
そんな考えが頭を支配しかけたときだった。
「あのー、、」
ドアの、向こうから、少女のような声が聞こえた。
「あのー、、えっと、あのー、、」
またしても少女の声だった。ズルタンは、胸をなでおろした。
「どなたですか。」
しかしまだズルタンは、鍵を開けなかった。ズルタンは、6日前の恐怖体験で、かなりの疑心暗鬼になっていたのだ。
「、、て、てが」
ドアの、向こうの声は言った。
「手が?手がどうしたんですか?」
ズルタンは、ますますわけがわからなくなった。少女が、手を怪我でもしたのだろうかと思った。
「て、、て、、その、み、、手紙を渡しにきました!」
ドアの向こうから吹っ切れたような声が聞こえた。
「手紙か!なんだそれならそうと、早くいってくれたらいいのに!」
ズルタンは、鍵を開けた。
目の前にには、少女が立っていた。身長はズルタンより10cmほど小さく体も細身の少女だった。髪が以上に長く、腰まで伸びているのが印象的だった。顔もその長い髪で隠され、ほとんど見えないほどだった。だが美しい髪だった、自然に風になびき、太陽の光をキラキラと反射していた、ズルタンはそのあまりの美しさにしばらく見入ってしまったほどだった。
「あの!こ、、これ手紙で、、す」
少女は、恥ずかしそうに手紙を渡すと、足早に去って行った。
「ちょっと待ってよ、名前ぐらい!」
少女はこちらを、ちらとも振り返らず、行ってしまった。
「なんだよ、急にきて手紙って、しかも誰宛の手紙だよ。」
だがその手紙は、誰宛のものかすぐに分かった、小さな可愛らしい字でズルタン様へと書いてあったからだ。




