7、ズルタン、初恋①
あの悪夢のような日から、5年の月日が流れた。
15歳になった、ズルタンの、性格はあまり変わらなかった。相変わらず友達と森に行き、仕事をめんどくさがりながらも、真面目にこなした。体は少し大きくなり、身長は150cmほどの身長になった。毎日の仕事で筋力も少しつき、同世代の男子と腕相撲をしても、簡単に負けないほどになった。
フォルトゥーナも、18歳になり、立派な美少年へと成長していた。彼は賢かったので、家庭教師をして、お金を稼いでいた。手が空いたときには工芸品を作り、それを売る商売もした。特に貧乏な家庭には、資金援助をし、無料で勉強も教え、工芸品の作り方も教え、お金の稼ぎ方を教えた。彼の口癖は「いいかい、お金に困ったら絶対に僕に言って、いくらでもとは言えないけど貸すから。生活に困っても絶対に、絶対に、盗みはやってはいけないよ。」と言って、あの日の恐ろしい話を、昨日のように語るのだった。
ズグリは、あの日以来、少し性格が優しくなった、なぜだか知らないが無口になり、ズルタンを罵倒することもなくなったし、それどころか「ズルタン、腹減ってないか」とらしくない、ことも言うようになった。この5年間でめっきり老け込み、頭は白髪だらけになっていた。ズグリは65歳になっていた。
ラシケスは、まったく変わらずいつもの無口、無表情だった。年齢も、時の流れを感じさせぬほど変わらなかったし、その仕事ぶりも相変わらず有能なままだった。
穏やかに日々が過ぎていある日、また事件が起こった。それは、ある生暖かい夏の夜のことだった。
ズルタンは、寝つきが悪く、特に夏の暑い日には、夜になると涼みによく、外に散歩に出るのだった。
その日も、夜になりベットに転がり込んだが、例によってなかなか寝付けず、カンテラを持ち、外に出ようと思いドアを開け廊下に出ると、兄がいた。
「ズルタン、僕も行くよ。なぜだか寝付けないんだ。」
ズルタンとフォルトゥーナは、外に出た。いつもなら、家から遠くまでいかずに、家の裏手にある広場で、寝転がって星を見ることにしていたが、今日は、兄がおり、しかも風も妙に生暖かくなぜかじっとしているのが、嫌になり珍しくこの日は、少し遠くまで歩くことになった。
二人は、無言のまま特に喋らず、なぜだか無心に歩き続けた。ズグリの家は、集落から徒歩で5分ほどだった少し、離れたところにポツンと浮き出るようにあった。村に向かう、小道に出たとき、異様なものを目にした、それは鉄格子のついた、奴隷を運ぶ専用の檻を乗せた馬車だった。
「お兄さん、なんだろうあれ?」
「カンテラの明かりを消せ!ズルタン、あれは人さらいだ!」
そういうとフォルトゥーナは、急いでカンテラの明かりを消した、ズルタンも慌てて、息を吹きかけ消した。二人は草陰に隠れた。
「最近北部で、子供の行方不明が多いと聞いていたが、警戒が厳しくなりこっちにきやがったんだな!くそっ!」
「どうする兄さん、助ける?」
「当たり前だ!もう子供が、悲しい思いをするのはうんざりなんだよ!」
ズルタンは、兄を見てギョッとした、暗闇でよくは見えなかったが、目がぎらぎらとひかり、その目は怒りに満ちているように見えた。
フォルトゥーナは、今すぐ駆けより馬車の中を、確認したかったが「人さらいが周囲に見えないため、迂闊に近寄らない方がいいな」と冷静に思考した。
「ズルタン、君が、いや僕が屋敷に戻り、父上に報告してくる、ズルタンはここから動かず見張っててくれ、もし何かあっても、絶対に動くな!」
「待って、、兄、」
フォルトゥーナ、ズルタンが何か言おうとする前に、風のように屋敷に走っていった。その姿は、ほとんど我を忘れているかのように見えた。
「なんだよ、、くそ、、、」
ズルタンは、悪態をついたが、それは精一杯の虚勢であり、本当は怖くて堪らなかった。ただでさえ風の生暖かい、不気味な夜にしかも、偶然人さらいに出会ってしまったのだ、彼は散歩に出たことを後悔し始めていた。しかもタイミングの悪いことに、ちょうど人さらい達が、馬車に集まってきた、確認できるだけでも3人はおり、全員今さらってきたであろう、子供たちを肩に乗せ馬車の檻に放り込み、カギをかけたところだった、子供たちは猿轡をかまされているのか声を上げず、体を縛られているため身動きもとれない様子だった、人さらい達は、全員、がたいがよく、顔はよく見えないが、どうやら布をかぶって、顔を隠しているらしかった。
「お兄さん、、早く来て、、」
ズルタンは、怖さのあまり半泣きになり、俯いた。視線の先に大きい蛇がいた。
ズルタンは、叫び声をあげてしまった。
人さらい達が、音を聞きつけてこちら側に歩いてくるのが見えた。
「(やばい、、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばすぎる。)」
あまりの恐怖に、ズルタンは胸が張り裂けそうになった。
「(どうする、、戦うか、昔に比べれば筋力もついた、、いや何を馬鹿なことを、、相手は子供とはいえ、軽々と人を持ち上げていた、戦っても勝てるわけがない、、なら逃げ出すか、、いや追いつかれるだろう、、待てよなんであいつらは歩いてこっちに来てるんだ、、、、、そうか!奴らもこっちが何者かよくわかっていないし、、位置もよくわかっていないんだ、、幸い、ここは草が生い茂っている、、普段よく通る道だから、夜でも僕は、難なく動ける、、向こうはたぶんだけど土地勘はないはずだ、、となれば暗闇に潜み兄さんを待つ、、これが一番いい、)
不思議と、冴えた考えが浮かんだことを、ズルタンは少し嬉しく思った。ズルタンは少し移動し、身をかがめた、人さらい達は、もうズルタンと10メートルも離れていなかった。人さらい達の、話声が聞こえたが何を言っているのかまでは、聞き取れなかった。しばらくは、小さな話し声だったが、やがてだんだんと話し声が大きくなった、ズルタンの耳にも罵声が聞こえるようになった、どうやら金の取り分か何かで言い争いになっている様子で、今にも殴り合いが起きそうな雰囲気になってきた。
普段のズルタンなら、絶対に思いつきもしない考えが頭に浮かんだ。
「(今この隙に、子供たちを助けてあげよう!)」
なぜこんなことを思ったのか不思議でならない、この少年はいつも能動的に行動することは滅多になく、受動的にしか行動できない性なのだ。自ら進んで行動したことを何かしら答えろ、と言われれば、言い淀み、小1時間は考えた挙句、結局答えられないほどなのだ。だがこの瞬間は、なんだか不思議とすべてがうまく進んでいるような気がしたし、先ほどの、いつものズルタンにしては、冴えた考えが浮かんだことで、少しいい気になり、しかも自分の作戦がうまく機能しているように錯覚してしまったのだ。もちろん全体を通してみれば、足元の蛇におどろいた、どんくさい少年なのだが、ズルタンは今自分が何か英雄になったような、気さえしてきていたのであった。しかもおあつらえ向きに、人さらい達の口論は、一層激しくなっていった。
ズルタンは、そろりそろりと草むらを中腰になり移動し、奇跡的にいくつかの偶然が重なって、子供たちが捕らえられている、馬車までたどり着いた。中を確認してみると3人の子供達がおり、どうやら全員女の子らしかった。2人は、気絶していたが1人はどうやら、意識があるらしく目があった、髪のとても長い女の子で、瞳が涙で潤んでいた。
「落ち着いて、僕はズルタン、君たちを助けに来たんだ。」
ここまで見てみれば、完全に英雄だが、ここでズルタンは、とんでもないことに気が付いた。鍵がかかっており檻を開けられないのだ。やはりどこか抜けている男なのである。
「(しまった!なんでこんなこと思いつかなかったんだ!僕の馬鹿!)」
ズルタンは、内心悪態をついたが時はすでに遅く、タイミング悪く人さらい達の口論の熱も冷め、その内の一人がまたタイミング悪く、ズルタンを視界の中に捕らえたのだった。
「てめーなにしてやがんだ!」
人さらいの、一人がズルタンにものすごい速さで近寄り、ズルタンを殴りつけた。ズルタンは、吹き飛び地面に倒れた、鼻から血が噴き出し、全身が泥まみれになった。
「てめーだな!さっきの音は!」
ズルタンは、襟を掴まれ持ち上げられた、そうしてまた力の限り殴られた。今度は、肋骨が折れたような気がした、ズルタンは虫の息になり、あと一回殴られれば確実に死ぬ寸前だった。
「(だめだ、、僕の馬鹿、、、なんて間抜けなんだ、、僕はフォルトゥーナ兄さんみたいに器用な人間じゃないってことを忘れるなんて、、僕はなんて馬鹿なんだ、、)」
消えゆく意識の中で、ズルタンは、走馬灯のようなものを見た。なぜだか知らないがそれは、ある城の中で自分が寝ている景色だった。周囲にはズグリと王冠をかぶった王様ような人物が見えた。その王様と思われる人物がズルタンを優しい瞳で見つめる、そんな走馬灯だった。
「(なんでこんな時に、なんだこんな景色今まで見たことないぞ、ああそうか僕はもう・・・)」
ズルタンは、意識を失った。
気が付くと、ズルタンは、ベットの上にいた、見知らぬ天井だった。横を見ると、フォルトゥーナが手を握ってベットにもたれ、寝ていた。
「(ここはどこ、、僕は、人さらいに殴られて、、ああそうかここが天国か、、)」
ズルタンの意識は、上の空だったが、突然顔と胸に激痛が走った。
「(ここは天国じゃない、、この痛みは、、生きてる、助かったんだ!)兄さん!」
ズルタンは、叫んだ、フォルトゥーナが目を開けた、途端にズルタンに抱き着くなり泣き出した。
「馬鹿!草むらに伏せてろと言ったじゃないか!なんで、、なんで、動いたんだ!」
「ごめん兄さん。ごめんなさい。いけるかなと思っちゃたんだ。」
「いいんだ、いいんだよ、ごめん俺も取り乱した、、お前を失ったかと、死んだらどうしよって、でも生きてる、ズルタンが生きてる、ありがとう神様、、ありがとうズルタン生きててくれて、、」




