5、彼は愛を見つけるの?➁
裏の広場についた一行。そしてクルーは、全員に向かって大声で話しかけた。
「このものは、罪を犯した。普通なら親子ともども、首を刎ねるところじゃが、儂は根が寛容にできておってな、母親は見逃してやる、じゃが罪は罪、償わねばならぬ、その体を使っての!ズグリ、犬をここへ!その少年の縄を解いてやれ!」
少年の縄は解かれた、逃げ出すそぶりも見せず、恐怖で歯が震え、そのこすりあわさった音が、カチカチとクラリネットのように聞こえた。
「よいか少年、儂と遊びをせんか?今からこの犬達と鬼ごっこをしてもらう。この犬達から逃げきれれば、お前の命、助けよう。罪も許そう。もちろん母親も、自由の身じゃ。じゃが逃げ切れなければそれまでとなる。どうじゃ、やるか?やらぬのなら儂が今ここで切り捨てて進ぜよう、やるなら今から10数える、その間に駆けだすのじゃよ。どうじゃ?」
王は、静かに囁くように、尋ねた。普通こういう場合、周囲の者たちが醜悪な笑みを浮かべるものだが、笑い声一つしないのがフォルトゥーナには、余計不気味に感じられた。当のフォルトゥーナ、今この場から逃げ出し、大声で叫びたい衝動を抑えるのに必死だった。
「なんじゃ答えられんか、まあ仕方ない、、、始めるぞ10・9・8・7・」
少年は動かない、いや動けない。
「6・」
少年は、我に返り、全力で駆けだした。
「5・4・3・2・1」
「犬を放せ。」
訓練された、5頭の犬は、あっという間に追いついた。まず最初の犬が、足に食らいついた。少年が転び、他の犬は腕や衣服に、食らいついた。
最初は、少年の赤い部分は少なかった。フォルトゥーナは、意外と大したことはない、これならもしかすると、助かるかもしれないと、淡い期待を抱いた。しかしそれは、間違いであった、3分ほどたったころであろうか、少年の足に骨が見えた、次第にはらわたが飛び出した。5分たつ頃には、少年だったものは、肉の塊になった。
その後、犬たちは満足したように、クルーのもとに返ってきた。犬達も、クルーも、」満足そうだった。
少年の母親は、気絶していた。
「いい犬だなズグリ!お前の犬は、やはり最高だな!」
「へえ、、、ありがとうございます、、、。」
さすがのズグリも、混乱していた。
クルーは、少年だった”もの”に近づいた。
「うむ、やはり今回も、なかったか。」
そう呟くとクルーは、今度はフォルトゥーナに近づいた。
「フォルトゥーナ、儂はな昔から不思議だったのだ、美しい人間は、必ず醜くなる、どんな美少年でも、戦場で死ねば、はらわたを、出して死ぬ、その姿はそこらにいる牛や馬と全く変わらん、では人間と動物を分けるものは一体何か、それは儂は愛だと思った、儂はそれから愛を探したよ、じゃがどうやら愛は、目に見えぬものらしいことが分かった、儂はあの少年が母を心から愛しているのが分かった、じゃから今回こそは、少年の体の中から、愛を見つけ出すことができるのではないかと、期待しておった、じゃがみつからなかった、、なんじゃフォルトゥーナ、その顔は、納得しとらんようじゃな、、」
フォルトゥーナ、クルーをものすごい形相で、睨みつけた。
「フォルトゥーナ、犬も人間も、本質的には同じじゃ。残忍なところ、狩りを好むところ、、そして誰が命令するかによって、その性格が大きく変わるところ、例えばこの犬達を、お前が命令したならば、少年には、何もしなかっただろう、だが儂が命令したからこそ、この犬たちは、少年を食い殺したのだ、人間も同じことよ、もし儂が今フォルトゥーナを切り殺せと、部下に命令したらこの者たちはお前を切り殺す、村を焼けと言えば村を焼く、じゃが犬と人間、決定的に違うもの、それはやはり愛じゃよ。」
「納得いきません、これはとても愛を探し求める行為には、見えない!」
フォルトゥーナは、反駁した。
「儂に、言い返したのはお前が初めてだ!いい度胸をしておる!ますます気に入った!よかろう!なぜ儂がこのようなことを、始めたか特別に話してやろう!儂の父は、鞭打つのが好きな男だった、奴隷、馬、羊、自分の妻、そして儂、まさに鞭に憑りつかれた男だった、少しの失敗でも父は、儂を木に縛り付け、時には朝から夕まで、鞭打つこともあった、父はこれが愛だと、お前を愛している、お前の将来を思ってお前を鞭打つのだと言っておった、まだ小さかった儂は、わけもわからずただ嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった、やがて父が死に私がジストー家の当主となった、やがて結婚し、息子が生まれた、儂は父がそうしたように、息子に鞭を加えた、だが、だが、フォルトゥーナよ、息子は儂を血走った目で睨みつけた、その目には愛など宿っていなかった、ただ憎しみしか感じなかった、ある晩のこと、息子は儂が寝ている部屋に飛び込んできてこう言った「あなたは、永遠に愛を知らずに死ぬ」その次の日、息子は、首を吊って自ら命を絶った、それ以来は儂は愛を探し求める、求道者になったというわけだよ。」
フォルトゥーナは、「息子さんは、正しいですね、あなたは愛など知らずに死ぬと思いますよ」と返した。
「手厳しい!ますますお前が気に入った!儂と来ぬか!儂の後を継いでみんか!戦場で万の兵を動かしてみぬか?」
「お断りします!」
フォルトゥーナは、力強く答えた。
「残念じゃ、仕方ない帰るとするかの、、すまんのズグリ掃除は頼むぞ、、」
そう言って、クルーは去っていった。
フォルトゥーナは、絶望した、恐怖した、そして怒った、だがそれらの感情が一気に押し寄せ危うく意識が飛びそうになった。しかし彼は、その朦朧とする意識の端で、とんでもないものを見た、ズルタンが2階の窓から食い入るように、少年だった肉塊を見ていたのだ。フォルトゥーナは、なぜだか知らぬが走った、そしてズルタンのいる部屋に飛び込むなり、彼の目を塞いだ。万事すべて終わって手遅れだというのに、なぜだかそうしたのだ。
「駄目だ!ズルタン!見ちゃだめだ!今のことは、忘れるんだ!」
「面白かったね兄さん。人が犬に食われるのを、見るのは。」
瞬間、フォルトゥーナは、ズルタンを、力の限り殴りつけた。生まれて初めての、暴力だった。ズルタンは、吹っ飛びベットの上に倒れ込んだ。
「何てこと言うんだズルタン!なんてことを!なんてことを!なんてことを!」
「なんでさ、確かに残酷な光景だけど兄さんも、面白かったんじゃないの?」
ズルタンは、極めて純粋な、口調で問うた。
「面白いもんか!お前は、どうかしてる!お前もあいつと同じ悪魔だ!」
「そっかな、、いやそっかもね、確かにそうかもしれないな、でも兄さんは、本当に面白くなかったの?」
「当たり前だ!」
「じゃあなぜ、あの場所から逃げ出さなかったの、なぜ見ていたの。」
「それは、そうするしかなかったからだ!」
「でも兄さんは、目も閉じていなかったじゃないか、なぜ目も閉じないし、顔もそらさなかったの、本当は内心楽しんでたんじゃないの、兄さん少し前に王都で公開処刑を見たと、僕に言ってきたね、その時なぜ見たの、そんなに人が死ぬところを見たくないのなら、見なければいいだけじゃないか。」
「それは、、、とにかく、、とにかくそれはそれだ!」
フォルトゥーナ、飛び出し自分のベットに突っ伏して泣いた。涙がとめどなくあふれた。底のない暗闇に飛び降りたみたいだった。




