19、私の理由
「そういえば素朴な疑問なんだけどマキアってなんでそんなに忠誠心があるの?ルロに協力しちゃったらいいじゃん」
沈黙が気まずくなったズルタンは珍しく自ら口を開いた。
「だってルロはこの国の賢い人をほとんど取り込んじゃたんだろ、なんでマキアは取り込まれなかったの?」
「私には私なりの理由があるんです」
マキアはズルタンと目を合わさず通りを行く人々をどこかぼんやりと眺めていた。その姿にどこか少年のような純粋さを感じた。
「少し昔の話をしましょう、、、あれは私が5歳の頃だから、、35年前ですね」
ズルタンはマキアの顔をまじまじと眺めた。40歳にしては老けているような気もするが体付きは若々しくみずみずしい印象を与えた。
「私はもともと貧民街に生まれました、物心が付いたときには私は道で物乞いをしていました、、、そんな時にあのお方アラーニ・ルオーニス様と私は出会ったのです。あのお方は貧民街を視察している途中でした、そんなルオーニス様に私は嚙みついてしまったのです」
「嚙みついた!それは言葉でってこと?」
「文字通り歯で噛みつきました、、、その時私はもう5日も何も食べておらず気が変になっていたのです」
「でも王に嚙みついたら処刑とかされちゃうんじゃないの?マキアは大丈夫だったの?」
「普通なら即処刑ですがアラーニ様は違いました、、、私は気を失い、気が付いたときにはベットの上に寝かされていました。傍にはアラーニ様が、、、私を不憫に思ったのか看病を施ししかもアラーニ様自ら私に粥を、、、」
「へえ、、、」
「そしてこうおっしゃいました”すまんのお、、、儂の統治が悪いせいでおぬしのような明日の食にも困るものを生み出してしまったのだこれから貧民街には定期的に炊き出しを行うとしよう”としかもそればかりか私を学校に通わせていただきました」
「、、、」
「私はルオーニス様にこの生涯を使っても返しきれない御恩があります、これが私がルロに膝を屈しない理由です」
ズルタンはふとアラーニとはどんな人物だったんだろうと思った。そんなことを考えていた時馬車の窓がノックされた。
「マキア様お持ちしておりました、例のものです」
「ご苦労」
どうやらマキアの部下らしい男だ。小さなお菓子箱をマキアに手渡した後すぐに去って行った。
「今のは誰?」
「私の友達ですよ、、、名前はサヴィンスヘッド」
「サヴィンスヘッド、、、変わった名前だねもしかするとマキアが貧民街にいたときにできた友達だったりするの?」
「、、、、、、ロス様城に行く前に少し寄っていくところがあります」
「(無視された、、、)寄っていくところ?」
「ええ少し用がありますのでロス様はその間馬車でお待ちください」
「分かった」
それから5分ほどして馬車は城の近くにある豪奢な屋敷の敷地へ入って行った。
「では」
そういうとマキアはお菓子箱をもって馬車を降りた。ズルタンは一体どんな用事があるんだろうと考えた。
「うーんお菓子箱を持って行ったてことはティーパーティーでもするのかな、、、でもマキアがお菓子なんて食べるかな、、、あの顔で」
ズルタンはマキアが上品にお菓子を食べ紅茶をすすっているところを想像した。
「ぷっくあっははは!そんな柄かぁあいつー」
マキアはドアの呼び鈴を鳴らした。メイドがドアを開ける。
「マキアシュポスが来たとケニヒト殿にお伝えください」
「今すぐ呼んでまいりますしばらくお待ちください」
マキアは虚空を見つめている。
「(俺もついにここまで来てしまった、、、俺がやっていることは本当に正しいことなんだろうか、、今ならまだ、、、いや、、、だめだだめだ相手はあのルロなんだぞ!侵攻はまじかに迫っているんだぞ!俺がやらなきゃ誰がやるんだ!)」
マキアの心の葛藤に比して体は冷静そのものだった。彼は生まれつきの鉄面皮なのである。そんなことを考えていた時ルオーニス王国宰相ケニヒト・イングリッツは階段からドタバタと降りてきた。
「おおおマキアかマキアか!よよっよく来てくれたなまあなんだ立ち話はなんだっつまあそのあれだ、座って話そうまっなんだその奥に行こう、うんっ!うん!」
顔面は蒼白、手や膝も震えているこの小太りの中年男を彼を知らない人が見たなら狂人か精神異常者かと勘違いしたかもしれない。普段は威厳たっぷり落ち着き払って椅子に座り政務をこなしているこの男は今人生で一番といってよいほど気が動転していた。
二人は応接室で互いに向かい合って座った。
「マキアお前は私がなぜこんなにも動転しているのかと思っているだろうな、、、マキア頼む!このケニヒト一生の頼みじゃ頼む!娘を探してはくださらんか!もう2日も家に帰っておらんのだ!」
「(屑がルオーニス様を暗殺しておいて、、、あの時あんたはそんなに狼狽しなかったぜ)それは大変ですね!」
「そうなんじゃよ!いいところに来てくれた!まさに天の助けじゃ!お前の情報収取能力は天下隋一じゃ、、お前の力を使い娘を探し出してはくれんか」
マキアは心の奥底から愉悦を感じていた、この男のあまりの狼狽ぶりに先ほどの葛藤ははるかどこかに行ってしまっていた。
「(やれやれこの前来たときは俺をゴキブリかウジ虫みたいに見てたのによ)ケニヒト殿が私を評価してくださることはうれしいですが私も万能ではありませんよ」
「そんな心細いこと言わんでくれ!頼む!この通りじゃ」
ケニヒトはマキアの手を掴み汗ばんだ手で揉みしだいた。
「ケニヒト殿にそこまで言われてしまっては、、、わかりました、、、このマキアシュポス命を懸けて探させて頂きます」
「マキアぁあありがとう!ありがとう!」
ケニヒトの目にはうっすらと涙が滲んでいた。
「ところでお菓子を食べませんか?ちょうどいいものが手に入りましてね」
ケニヒトは怪訝そうな顔した。
「お菓子なんか食っとる場合か!さっさと探しに行かんか!」
「まあ落ち着いてくださいよ旦那!こういうときほど落ち着いた方が娘さんが見つかりやすくなるということもありますぜ!」
「何という口の利き方だ!儂がこんなにも懇切丁寧に頼んでおると言うのに!チッ!クソ!」
「そんなんだからルロの野郎にころっと騙されちまうんですよ」
「はっ」
ケニヒトは今更ながら違和感に気付いたのだ。マキアの目が異様に据わって野獣のようにギラギラひかっていることに。
「マキア、、、お前、、、」
「まあお菓子を食べましょう、、、何しろこんな機会なんて滅多にありませんからな」
ケニヒトはもう一つの違和感に気が付いた。箱からほんのり生臭い臭いがしているのだ。
「貴様いったい何をしたのだ、、、貴様!」
「まあ開けてみてください」
ケニヒトはおそるおそる箱を開けた。中には少女のものと思われる耳が入っていた。
「ひっ!」
「ティオラちゃんでしたっけ、、ほくろの位置を確認してみてください三角形の少し変わったほくろなんですね」
「鬼畜だ、、貴様鬼畜だ!人間ではない悪魔だ!」
「あんたには言われたくはないがな、まあ私もいろいろ言いたいことがあるがそれを今言うと日が暮れちまう」
「貴様!要求はなんだ!」
「頭の回転が速くて助かりますな、、ご安心ください娘さんは生きています、今はまだ、、、実はある人物を王にしたいので公式なあんたの推薦文の作成、ルロの情報、アラーニ国王皇子皇女の死の正確な真相、宰相の辞任、私が指定した場所への国外逃亡ざっとこれだけやってもらいましょうか、、、おっと妙な気は起こさんことですなお分かりかと思いますが私に何かあればその時は、、、、、」




