15、壺の中の蛇の愚かな戯れ
ズルタンの生まれ育った村を離れてもう3時間は経ったであろうか馬車は石と草しかないような山の中腹辺りを通っていた。雨上がりの空の雲の隙間から日の光がきらきらと馬車を照らしていた。
マキアはズルタンを初めて見たとき失望していた。自分の操り人形にするとは言え仮にも自分が仕える王なのだ。それ相応の器であると思えるような相手であって欲しいと思うのが人として自然な感情だろう。だがこの見た目がいかにも弱弱しい少年を見たときマキアは顔にこそ出さないもののかなり失望していたのだ。だがマキアも只者ではないこの3時間というもの仔細にズルタンを観察していたが悪くはないなと思い始めていた。もちろん間抜けという印象は消えなかったがズルタンの中にある不思議な生命力というか生存力のようなものを感じ始めていた。それは例えて言えばまっすぐに伸びきった3本の紐を取っ掛かりのない壁に投げつけたときなぜかその紐がどうゆう理論か知らないが引っかかってしまうような微細で不気味な生命力だがとにかくそのようなものをマキアはズルタンに感じ始めていた。
その証拠にズルタンは先ほどからわくわくした様子で外の美しい景色を見つめていた。正直に言うとズルタンは初めて村を離れたことに実際にわくわくしていたのだ。兄の死思い人との別れしかも王になるなどまるで現実離れした出来事が立て続けに起きているのにわくわくしているのは正直不謹慎と言われても仕方ないがズルタンはどこかこういう不思議な明るさがあるのだ。彼は何というか論理的に物事を思考していくのはまるきり苦手な人間であり常に抽象的ににしか物事を捉えていないようなところがある。例えばこれとこれの道具を使いこれこれのことをしろとズルタンが命令されたとしよう、彼はそういう作業はまるっきり向かず無能の塊と化すだろうしかし何か絵を自由に書いてみろと言われれば褒められないにしてもなかなか個性的な絵を描けるような人間でありもし幼少期から絵を練習していれば歴史に名を残すまでとはいかなくとも町でそこそこ有名な絵描きになっていたかもしれない。
彼の中で出来事はある種変則的に解体されしかもその解体の仕方もズルタン自身には全くコントロール不可能なのだ。例えるならもぐらたたきである、一つの穴を抑えてももう一つの穴からモグラがランダムに飛び出す。そのような一種独特な思考方法の持ち主なのである。この不思議な思考方法のおかげで普通の常識的な考え方の持ち主では発狂してしまうかもしれいな状況を乗り越えていた。いや乗り越えてはいない、ズルタンは確かに心にものすごいショックを受けていたが今は本当に空の美しさそして自分がいったいどうなってしまうのだろうと考えわくわくしているのである、その心が同時に存在しているのだ、そしてそのことを全てとまではいかないにしてもマキアはこの3時間で読み取り始めていた。
「ロス様お話しておかなければいけないことがございます」
マキアはさらに4時間ほどたってから口を開いた。ズルタンは何となくぼんやりと聞いている。
「あなたのお父上母君そして兄弟の半数は世間では病死ということになっていますが本当は暗殺されています」
「暗殺、、、誰に、、」
ズルタンはややうつろな目で答えた。
「北の王をご存じですか」
「何となく噂で聞いたことがあるなんでも盲人で無能な王だとか、、、」
「それは違います、、、15年前北の王ローカは大規模な侵攻を開始、しかしその途中で病死し侵攻は止まりました、しかしその息子盲目王ルロ・フェニックスは再び南への大規模な侵攻を計画しています、奴が無能だと民衆が信じ込んでいるのも意図的に流されているデマです、民衆に侵攻などない無能な王が攻め込んでくるもんかもしそんなことが起こっても大丈夫だとと思わせるための、、、しかも奴はこのルオーニス王国を内側から崩壊させようとかなりの間者を送り込んできています。お父上が暗殺されても世間では病死ということが公然と信じられている異常な事態はすべて北の王ルロの仕業です」
「でもさすがにみんなも気づくんじゃないの、、暗殺なんて」
「意外と民衆というものは騙しやすいものです、上が回覧板で病死と言えば病死と信じ込みます、人間は個人個人はとても賢いですがまとまると急に知性を失います。回覧板と噂話の世界観でしか民衆は生きていませんそのような相手をだますのは案外たやすいものなのです」
「そういうものかな、、、」
「ロス様あなたが今から向かうのはそういう陰謀ひしめく蛇の巣です、王宮の人間を人間と思わないでください、奴らは人をだまし保身や自らの利益だけを求める蛇なのです、すれ違うすべて人間があなたを殺しに来ていると考えていただかないとあなたは1日いや1時間と生きていられないでしょう、今あなたが話している私ももちろん蛇、信用してはいけません」
ズルタンはどこか現実離れした話をぽかんと呑気に聞いていた。
「北の民は屈強で強くしかも最近は力を蓄えていると聞きます、もし侵攻が始まれば8万の軍勢が一斉に南下を開始します、私はそれを防ぎたいしかしこのルオーニス王国が動かせる兵は3000が限度ですそのため他国と連携することが肝心です、西の大国と現在連絡を取り合っていますが向こうも調略が進んでいるらしく溝は深まるばかりです、そこであなたの力が必要ですロス様、これ以上ルオーニス王国が混乱すればそれこそローカの思う壺です、あなたが正当な後継者となればルオーニス王国も一枚岩となり近隣諸国を繋げやすくなるというわけです、ですがそれももはや手遅れかもしれませんしかし私は諦めたくない」
マキアの声は震えていた、まるでこれが自分の使命だと言わんばかりに。
「でもちょっと待ってよ、、、なぜ僕が皇子だってわかったのさ、、、当時のことを知っている人は少ないはずじゃ」
「クルージストーですどこで知ったか知らないが奴が私に教えてくれたんです、ルオーニス王国には4人の有力者がいます東に一人西に一人南に一人北に一人そのうち3人はすべて北の王に飲み込まれています、しかしクルージストーだけは奴は何か別の考え方で動いています、、、私も奴が何を考えているか全くわかりません、、、なんでも愛の求道者を自称しているとか、、まあ理解不能ですしかし奴は私にあなたがルオーニス王国の正当な後継者であることを書簡で教えてきました、信用はしてはいけませんがほかの奴よりはまだましでしょう、南は肥沃な土地が多く小麦が収量も一番多いです兵も最大の1000人を動員できる地域ですこの南の国を治めるクルーが向こう側についていないということがまだ救いなのかもしれませんね、奴はおかしな奴ですがしかし領民には税の取り立てが少ないため慕われております、ただ罪を犯した奴には異常に厳しいところがありますがね」
辺りはすでに日が落ち薄暗くなっていた、ズルタンは窓に映る自分の姿を眺めていた。




