黒根古島奇譚 DAY12~13
いよいよ黒猫人民共和国独立交渉が日本政府との間で始まるが、宇宙人の力を借りて成功するのか?
DAY12
黒根古島は、、
空を見渡しても昨日まで島の周りを飛び回っていた飛行機は姿どころか音も聞こえない。静かで爽やかな一日になりそうだ。というのも、島の周り十キロ以内には交渉団を除く、一切の船艦、飛行体は入らないように日本政府に要請したからだ。もちろんその外側にはたくさんの飛行機と艦船が取り巻いているだろうが。こちら側の監視には五十機のピカピカ・ドローンが配置されていて、我々の許可なく十キロ以内に入った場合は問答無用に消滅させる(撃ち落とすのではなく、消滅がかっこいいと親父が言っていた)と警告を日本政府に連絡していたが、自衛隊がドローンを侵入させてきた。結果は、問答無用に見事に消滅させてしまった。これにビビったのか、政府はすぐに代表団を送ると言ってきた。また、昨日の宇宙船着陸も今日の来島もまだマスコミなどにも漏らしていないようで、沖縄にはA国の基地があるが、今回の黒根古島の地磁気異常は島に装置を置いての自衛隊の訓練であることを通告しているそうで、駐留A国軍も特に関心を示していないようだ。とりあえず、明日までは動きはないが素人の俺達としても準備をしておくため、項目を親父と相談することにした。日本政府にやってもらわなければいけないことが沢山あるのだから。
IS国首都
高層ビルの駐車場に一台の金ピカのロールスロイスが入ってきた。このビルのセキュリティは極めて厳重であるが、最上階の住人には咎めることをしたことは一度もない。もっとも、入口の顔認証装置が間違えなく住人であることを認証しているので、セキュリティもいちいち車を止めるような野暮はしない。ましてや今夜はお持ち帰りもあるようなので。車が指定位置に止まると、運転手とカップルが降りてきて、大型のキャリングケースを二つ持って、専用エレベーターの乗った。
DAY13
日本政府首相官邸危機管理センター
「黒根古島への代表団は到着しましたか。中継を繋いでください。」と一羽首相が危機管理センターの大きなモニターの前に陣取った。宇宙船ショーと自衛隊ドローン消滅はだいぶ効いたらしく、極秘裏に政府ナンバーツーである官房長官が少数のお供を引き連れてくることになった。本当は首相が行きたいと言ったそうだが、まだ、本物の宇宙人と断定できる証拠もなく、その宇宙人から指名された代表というのもチッポケな島の所有者で東京でサラリーマンをしていた時に略式起訴された前科者の胡散臭い五十男であることが理由だが、俺が考えてももっともである。先遣隊が宇宙船周辺の放射能汚染とか人体異常をもたらすものを調べて安全が確認し、代表団が着いたのはその三時間後だった。政府側の希望はヘリでの来島だったが、警備の都合ということで船できてもらうことにした。ツンパが言うには、たぶん那覇基地からヘリでヘリコプター搭載護衛艦まで行って、そこから高速哨戒艇に乗り換えるとのこと。政府からは官房長官と警護と補佐官という最低人数にすることで、お土産屋の食堂でもなんとか収容できそうだ。せっかく来てくれるんだから、ケツに島の名物である夜光貝カレーとA5級ビーフステーキを用意させておく。どうやって官房長官を説得しようかと色々考えてみたものの交渉事は百戦錬磨の政治家にかなうはずもない。まあ、こちらには宇宙人がついているから大船ならぬ宇宙船に乗った気持ちで交渉しようと覚悟を決めた。
深夜、日本政府首相官邸危機管理センター
「午前一時を回りました。みなさん、遅くにご集合いただきまして、恐縮でありますが、宇宙人騒ぎのあった黒根古島に行った官房長官が戻りましたので。では、官房長官、報告を願います。島の代表から要求があったとか?」と一羽首相。「では、報告いたしますが、私からは黒猫共和国代表からの日本国からの独立宣言とそれに関わる相手側からの協力要請。また、宇宙人に関しての詳細は同行いただいた未知愛博士からご説明いただきます。」「日本からの独立宣言って、どこが?あのちっぽけな島ですか?え、ははは、ははは。」首相が笑い出したので、そこに出席していた政府閣僚、防衛庁関係者、海上保安庁関係者もお互いに顔を見合わせながら笑い出した。しかし、官房長官は真面目な顔で、「代表の上地氏は、首相のおっしゃるあのちっぽけな黒根古島を領土として、黒猫人民共和国として独立いたしたい言っております。なにせ、後ろ盾は宇宙人ですから。もう、宇宙人の科学技術力はすでにご理解いただいていると思います。その独立宣言書は、お手元にお配りした資料を御覧ください。」資料には、俺等が黒根古島の食堂で話し合った黒猫共和国の独立宣言とそれに附則する日本政府への要求が書かれていた。
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黒猫人民共和国 独立宣言書西暦2025年10月吉日黒根古島・首都 黒根古島字黒根古
我ら、黒根古島の住民は、先祖代々より受け継がれしこの神聖なる島を、新たに交流を始めたシャトネビュロニアン(宇宙猫型知的生命体)とともに我ら自身の手で治め、未来へとつなぐ責任を担うため、ここに新たな道を選ぶ決断をした。
下地鉄平を代表とする黒根古島の住民は、国家として日本国より独立し我々の宇宙の友人との交流から得た贈り物を有効利用し、地球世界の平和と人類、そしてありとあらゆる生物との平和共生の実現を全世界に向けて働きかけることが使命であると考える。世界の現状は核爆弾の拡散により一触即発の人類滅亡の危機に瀕していることは、共通の認識である。我々は、実際に滅亡まで残された時間がないことを親愛なるシャトネビュロニアンから警告され、その危機の深刻さを理解するにいたった。親愛なるシャトネビュロニアンは、地球の問題は地球の生物がコントロールすべしという考え方で、自ら手を下すことをせず、その危機を理解する人類代表に黒根古島在住の下地鉄平を選び、その危機を回避すべく地球人の自主努力に委ねる判断をした。そのため、下地鉄平が世界に平和を訴求していくために島の中立的独立が必要であると考えたものである。我が国を承認するためには、様々な手続きが必要ということは理解しているが、即時の日本国からの独立承認を求めるものである。
よって、我々は以下を宣言する。
一、本日をもって黒根古島は「黒猫人民共和国」として独立し、日本国からの政治的・経済的・軍事的統治を離脱し、黒根古島の伝統、ウマチー(御祭り)と信仰を礎とし、宇宙からの友人であるシャトネビュロニアン(宇宙猫型知的生命体)の援助のもと、地球滅亡の危機を回避するために島民の総意に基づいた民主的な平和創造国家を建設する。
一、その国家の目的は、喫緊の課題としての偶発的核戦争の防止を全世界に訴え、すべての生物のために真の平和を地球にもたらすことである。
一、さらに、我らはすべての民族、宗教、文化およびすべての生物の多様性と尊厳を尊重し、人類のみならず生物すべての平和的共生とその存続を実現するため、主に人類の国家、共同体に友好と協力を求める。
一、そのため我らは、宇宙の友人であるシャトネビュロニアン(宇宙猫型知的生命体)の技術と知識を等しく全世界の国家、共同体に提供する。
一、日本国との間に敵意は持たず、互いに尊重し合う新たな関係の構築を望む。
一、なお、宇宙からの友人が地球を訪れた目的は、人類とネコ属との共存の永劫的な持続を願うためであり、さらに黒猫人民共和国の活動をサポートをするためで、人類がシャトネビュロニアンに敵対するのではなければシャトネビュロニアンは人類の活動に直接干渉することはしない。
黒猫人民共和国は日本国に対して黒根古人民共和国の独立承認の感謝を表し、宇宙の友人であるシャトネビュロニアン(宇宙猫型知的生命体)から黒猫人民共和国に提供される「常温核融合炉」「三種の神器」を日本国に貸与するほか、世界平和貢献のため日本国の発言力を強化するために世界の金の十分の一にあたる二十トンを日本国に贈与する。日本国は世界の希望する国家、共同体へ日本国が黒猫人民共和国に代わり「常温核融合炉」と「三種の神器」を貸与できることとする。なお、我が国は日本国領内に位置することを理解し、我が国の主権が及ぶ領海は周囲三キロ、領空は周囲五キロ・上空百キロの範囲に限定することを明記する。
ただし、貸与にあたり以下の項目の実現に努力することを日本政府が保障すること。一、戦争・紛争の即時停止と核兵器の即時廃絶への積極的な外交努力二、地球上の人類が完全な平等の実現と生きる権利を行使できるような体制作り(すべての国家を統一する組織=仮称地球連合)を日本国が主体となって推進すること三、地球連合は、地球のすべての生物の生存権を認めそれを尊重する四、地球上のネコ属の完全な幸福な生活五、貸与物の実証実験を日本国の責任で実施し、その成果を発表する
附則、貸与物は地球連合樹立までブラックボックスとしてシャトネビュロニアンにより監視管理され、分解等の作業は行ってはならない。万一これに違反した場合は首謀者を特定し貸与を取り消す場合がある。
我らは生物としての生存の自由を愛し、地球の未来の世代のためにこの宣言を残す。
神々の加護と宇宙の友人であるシャトネビュロニアン(宇宙猫型知的生命体)と共に。
黒猫共和国 臨時統治評議会一同
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「おいおい、この書面はなんですか。宇宙のネコから常温核融合炉を入手したので、日本に第一号を貸すと。その代わりに黒根古島の黒猫共和国を独立国として認めろと。いったいなんですか、大泉官房長官、これは。今日は何月何日?エイプリフールは半年前に終わっていますよね。いいですか私のところに持ってくるということはちゃんと裏付けは取れているのですよね?だいたい、常温核融合なんて、科学的にもできるという可能性もないのでしょ。確か我が国でも研究したけど、諦めたという話を聞いたけどどうなの。」と危機管理室の大きな机の中央に大きな腹を乗せる勢いで一羽首相がエネルギー担当である内閣官房の杉原に問いかけた。
「実は、実物検証はまだなのでありますが。」と言って首相とは対象的な体型でスリムで背の高いのが自慢の杉原はメガネに手をかけて、科学技術庁や関連大学、企業から集めた情報をまとめたタブレットの画面をモニターに映し出しながら説明を始めた。
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「常温核融合炉について」
我が国では、1990年代に国家プロジェクトとして研究しましたが、成果が得られず終了、その後は研究会で独自に研究されていますが、まだ成果は得られていないようです。しかし、常温核融合炉が実現できるとすれば、以下のような大変革が起きると予想されます。
「エネルギー情勢の激変」・エネルギーのほぼ無尽蔵化:常温核融合が実現すれば、資源の枯渇という概念は大きく薄れるでしょう。・クリーンなエネルギー供給: 核融合反応は、環境負荷の低いクリーンなエネルギー源となります。地球温暖化対策は飛躍的に進展するでしょう。・エネルギーコストの劇的な低下: これにより、電気料金が大幅に下がり、人々の生活水準向上に貢献するでしょう。・エネルギー自給率の向上: 特定の産出国への依存度が低下し、エネルギー安全保障が大幅に向上します。「経済構造の変化」・化石燃料産業の衰退・新たな産業の創出・経済格差の是正「国際関係の変化」・資源争奪の終焉・新たな技術覇権争い・国際協力の新たな枠組み・開発援助の重点変化・核兵器の意義の変化「その他の影響」・宇宙開発の加速・海水淡水化の普及・科学技術のさらなる発展の可能性があります。
結論として、常温核融合炉技術が実用化し、世界すべての国が保有する未来は、エネルギー問題の解決、環境負荷の低減、経済発展の促進やエネルギー資源が原因の紛争がなくなるなど人類にとって計り知れない恩恵をもたらす可能性があります。一方で、既存の産業構造の破壊、新たな技術覇権争い、核兵器の管理など、多くの課題にも直面しますが、常温核融合炉のメリットが圧倒的に現在の人類の課題解決に寄与することは間違いないことを報告します。
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以上が常温核融合研究者と世界情勢分析専門家の見解であります。つまり、シャトネビュロニアンのいわゆる常温核融合炉が完成しているとなると、大まかに言うとですね、世界情勢は一気にほぼほぼ大きな変化をおこすと思われるのであります。しかし、これは我が国にとっては大チャンスとなる可能性が大です。出力等の詳しいスペックは分かっておりませんが、常温核融合炉を最初に使えるということは、資源の乏しい我が国にとっては他国にエネルギーを頼る必要が無くなるのであります。つまり、」と言いかけた時に総理が口を挟んだ。
「なんか、教科書みたいな説明でしたね。”つまり”は良いから、まずはそれが本物なのかどうかの判定を至急してくださいよ。そして、完成度合い、つまり、つまりって言っちゃった。それが、我が国にとって有用か、そして一番は我が国でそれを作ることが可能な技術なのかね。はやく、かの島に人を送ってことの真偽を確かめさせなさい。そうだ、何基を用意してくれるのかもだ。それに変な仕掛けがないことも確認してね。これが本物なら、あっちからこっちから文句言われながら原発をどうしようかという議論には終止符を打てるってことでしょう。作っちゃった原発をどうするかって問題は出るけどね。それより、この独立承認話はできるの?調べたことないけど、そこのとこはどうなの?」と法務大臣に向かって言った。「はっ、たしか要件が揃っているようで、一般的には認められないことはないと思うのですが。」と言った途端、後ろでPCを見ていた官僚がガバっと立って大臣に耳打ちした。「えっ、そうなの。さっきの話とちがうじゃないか。」と法相が戸惑いがちに首相をみた。「首相大変失礼しました。独立承認はほとんど不可能です。詳しくは、事務次官から報告させますがよろしいでしょうか?」首相がうなづくとさきほどの官僚がやや自慢げに立ち上がって説明しだした。「ご説明いたします。結論から申し上げますと日本国憲法を改正せずに、南西諸島の小さな島が日本から一方的に独立する法的手段は、現在の日本国法制下では存在しません。日本国憲法には「領土の不可分性」を明記した条文は直接的にはありませんが、地方自治法、自衛権及び国防の観点から領土の分離を認めることはできないと思われます。つまり、この場合は南西諸島の黒根古島ですが、こちらは八重山郡竹富町の管轄で地方自治法が適用されます。ゆえにどの地方自治体にも「独立する権利」は法律上与えられておりませんので、これを認めるには憲法の改正が必要となります。憲法改正となりますと、国会での発議、国民投票などを考慮しまするに、理論上の最短でも百日程度は必要かと存じます。以上、ご説明したしました。」「ということでありまして、彼らの求める即時承認は難しいかと。なにせ、憲法改正となると、この件だけでの国会審議は色々改正したいものがありますから、これだけ審議というわけには行かないでしょう。野党はもちろんのこと与党も絡んで数年かかることになるかと、、、」
そこに、官房長官が割り込んだ。「しかし、そうのんびりしているわけには行きません。核戦争が目の前に起こるのが分かっているのに、手をこまねいていては国民が危険にさらされるんですよ。特にA国基地を国内に持つ我が国にとっては。沖縄本島、岩国、横田、横須賀、三沢は必ず攻撃目標となっているはずです。さらに次は経済的目標として主要都市を狙うカウンターバリュー攻撃となればほぼ都市部は全滅しますよ。まずは状況把握を冷静にしていただきたい。総理として、この危機を世界に訴えるというお気持ちはありませんか?」「しかし、証拠はあるんですか?それも宇宙人さんが直接出てこないとなると、怪しげな日本人が言ったことをまるまる信じろってことですか。花札さんからなんて言われるのか?夢見ているのか、口出すなで終わるでしょうからね。無理ですよ。」と言った首相に、なおも官房長官は畳み掛ける。
宇宙人は本物か?
「では、彼らの言っていることがどこまで本当かを検証したいと思います。首相がご心配の常温核融合炉はここにはありませんが、現地には今日から専門家が入って、性能テストを行うように共和国側にも私がネゴ済みであります。さて、シャトネビュロニアンが本物の宇宙人であるかどうか、島に同行していただいたトキオ大学の未知愛博士からご説明いただきます。博士は長年に渡って宇宙人とのコンタクト方法について研究されているこの分野における我が国トップクラスの研究者でいらっしゃいます。ではどうぞ。」異様に盛り上がった白髪のリーゼントに、サングラスにオールドスタイルの黒のスーツ、黒の手袋でPC付きの電動車椅子をコントロールしながら博士が現れた。モニターには猫型バスと人と握手しているシャトネビュロニアンの姿が映った。「どうも、ご紹介預かったトキオ大学のドクター未知愛でっす。まずは、この宇宙人、外見はスタートレックのスポック氏のようでしたが、私の彗眼からは擬態、つまーり!変装でありまっす。色々質問しましたが、私の研究では、宇宙人は雌雄同体というのがほとんどであると。つまーり!雌雄同体ということがわかれば宇宙人であるかどうか確定できたでしょう。しかーし!かの個体は無口で答えてくれませんでしたのでっす。しかーし!私の研究で本物の宇宙人かどうかを判別するもう一つのテストがありまして。そのテストとは、つまーり!存在論的違和感であります。宇宙人は無口でしたが、一言だけ、彼らを地球語で表現するならシャトネビュロニアンと申しておりました。つまり、シャトはフランス語で”猫”、”ネビュロニアン”は少し解釈が難しいのですが、直訳すると”霧の中の住民”となりまっす。私の解釈としては、霧は宇宙の霧、つまーり!星雲となりまっすのだ。」博士はだんだんと力が入ってきたようで、”つまーり!”を言うたびに手を大きく上に突き出すように喋りだした。「つまーり!シャトネビュロニアンは”星雲の猫民族”なのだ。なんと奥深いワードでありまっしゃろか。その響きから星ぼしが今にもここに溢れて来るようではないかぁー。つまーり!彼ないし彼女、否、かの雌雄同体かも不明な個体は確実に宇宙を流浪するボヘミアンなのだ。つまーり!存在論的違和感が満載であるのだ。つまーり!」と言ったところで官房長官が割って入った。「博士、大変貴重なご意見を賜りました。ありがとうございます。では、ここで博士にはご退場いただきまして、はい、あちらから。どうぞ、お願いします。」博士はまだ言いたりなかったようで「つまーり!そおーり!つまーり!」と二度三度と手を上にローマ風敬礼をしながら係員に車椅子を押されて出ていった。
「では、シャトネビュロニアンが無口な真の宇宙人であることは、博士のお話でお分かりいただけたと思います。私も実際に五分程度しか同席いただけなかったのでありますが、お名前を聞いたら”ト、ラ”と一言だけおしゃってましたが、いかにも宇宙からの来訪者だったと思います。なお、どこから来たのかというありきたりの質問に関しては日本語で、”宇宙のど真ん中”、どうやって来たのかは”宇宙船”で、何しに来たのかは”地球の猫族の研究”とだけ。ただ、その過程で”地球人が危うい”と気づき、人類の代表として選んだ”上地氏にすべて”を託したとのことでした。なぜ、上地氏なのかについては、黒根古島が良い島で”彼がいた”から彼にしたというお答えでした。それに加えて、シャトネビュロニアン及び上地氏から日本国に贈り物として預かってきたものを持ってきなさい。」すると、三人の官僚が一つずつ、黄金に輝く剣と聖杯に金板を持って入ってきた。官房長官は博士のフォローになっていないフォローをして、早く話題を変えようとお土産である三種の神器の説明を行うことにした。「シャトネビュロニアンが三種の神器と呼ぶものです。どれも金と我々には未知の金属の合金でできており、専門家に見せたところ、詳しい調査はまだですが、剣の強度テストをしたところ、強度は現在最強の素材と言われているタングステンやインコネルの百万倍以上ではないかと専門家は言っております。地球上のものではないことは自明だと。また、金が入っていることから劣化の恐れもないというとてつもない価値のあるものだろうと。まずは、金色の土台に刺さっている剣は彼らの説明によると生命共鳴という特殊な機能を持っているようですが、現在調査中であります。これらは伝説のアーサー王の剣”エクスキャリバー”との関連もあり英国にも問い合わせしております。なにせ、相手は宇宙人ですから、もしかするとタイムトラベルしてアーサー王と会っているかもしれませんので。この剣が何を象徴しているかと聞きましたら、アーサー王の伝説とはちょっと違うようで、岩に埋まった剣は岩から抜けない。つまり、剣を抜かずに平和を得るということだそうです。さて、金杯ですが、ここに大さじ一杯の水を入れてしばらくすると。」と官房長官が水差しから金杯に水を入れて、一分もたたぬうちに、金杯を満たすように緑の草が出てきた。「シャトネビュロニアンの説明によりますと、この金杯は”ルミナ・カリス””光の聖杯”と呼ばれるもので、キリスト教の聖杯、イスラム教の泉、ヒンズー教の聖なる壺、そして仏教の甘露鉢のようなものだと。そして”ルミナ・カリス”から伸びてきたこの草は、自己再生型ナノ植物というものでその土地に適合した形で自己再生して繁殖します。彼らがかつて訪問した不毛の惑星をテラフォーミングするために開発した植物で、現在の地球温暖化による砂漠化を止められる植物といえます。シャトネビュロニアンが大変に好むことから”猫命草樹”と呼んでいます。この草はネコにとって栄養豊富なだけでなく毛玉取りにもなるそうです。非常に乾燥に強い種で水をかけるとご覧の通りに一気に発芽します。また、水が多くなれば繁殖を止めるか水を茎に蓄える仕組みを持っています。他の植物の生息環境に侵入することはないため、固有種の保全にも配慮されております。さらに一週間後にはある程度の間隔で樹木として成長して、日陰を作ってくれます。もちろん他の生物にとっても食用や飼料にもなるそうですから、一石四鳥であります。それらに関しても現在、実際人間にはどうなのかを栄養成分分析等を検証中であります。そして、三番目の金色の板には、日本語で黒根古島島主である下地鉄平氏を人類の代表とする旨が浮き出すホログラム文字で書かれております。また、地球生物の共生への希望が書かれておりますので、ご一読ください。なぜか言葉がすっと入ってきます。ここに正義の言葉を語れば、それは人々にすぐに伝わると。これはそれ以上の機能はないようですが、重さは五キロ。下世話なお話ですが、時価にしますと、約九千万円になります。また、金に関係することとして宣言書にあったように、この他に純金二十トンを日本政府に贈呈してくれるということで、これは約三千五百億円になります。まずはこれら三種の神器の一つ一つ手にとってご確認ください。」剣は見た目は重そうだったが、実は軽くて簡単に折れ曲がりそうだった。力自慢の首相や自衛隊幹部が剣を折ろうと力を込めるが、曲がる気配するない。この材料で飛行機や艦船を作ったら無敵になると誰かが言っている。
かたや聖杯の植物はいまや、テーブルいっぱいに広がりだしたが、係官が水を注ぎ足すとその動きは止まり、マジックを見せられたように首相以下閣僚たちは呆然とするしかなかった。それを片付けると係官の一人が黒猫共和国のネーム入りの紙袋をテーブルにのせた。「あとは黒根古島特産の夜光貝カレーと最高級ビーフであります。たいへん美味しいのでぜひ、お試しください。」と官房長官が言うと、出席者は手に取り品定めを始めた。
その様子を見て、官房長官は次官に目配せをすると、ドアが開きサングラスをした女性自衛官が布に包まれたものを大仰に捧げ持ち、部屋へ入ってきた。「カレーもビーフも大変に美味しいので、どうぞ遠慮なくぜひお持ち帰りください。さて先程の技術ですら驚嘆すべきものでありますが、こちらの水晶玉のような装置を御覧ください。」と自衛官が首相の眼の前に直径三十センチの水晶玉を置いた。その瞬間、部屋全体に鮮明なホログラム映像が再生が始まった。部屋全体が映像に包まれるその迫力に全員が一瞬のけぞった。
首相官邸危機管理センター
映像というか、眼の前にはそこに人がいるようにしか見えない。内容はこれからの地球の危機がどのように始まり、どのように終わるのかをまるで、記録映画のようにシミュレートしたもの。なんと映像の説明は、無口のはずのミスター・スポックがしている。各国の首脳のやりとりや、戦争地域のリアルな状況。そして核爆弾の現状と核のボタンを押す最初の人間の姿も。部屋の空間に展開されたにも関わらず、映像が脳内で再生されたかのようにはっきりと記憶に刻みつけられた。「内閣情報調査室、防衛省情報本部、外務省国際情報統括官組織に検討させましたが、危機が逼迫している可能性を誰も否定できないどころか、現在入ってきている我が国でも少数しか知り得ない最高級機密情報そのものがいくつか確認されました。この新たな情報を内閣情報調査室のAIに解析させましたが、実際にこの内容が起こり得る確率は、九割以上となっております。シャトネビュロニアンの情報収集力と分析力、恐るべしであります。もちろんこのシミュレーションの国々とテロ組織も特定できるように指示しております。レポートは明日にはできるかと。三種の神器もそうですが、どうもシャトネビュロニアンは黒猫人民共和国を通じて人類滅亡を阻止したい意図を持っているようだと考えておりますが、首相のご見解はいかがでしょうか?世界の核保有国は九カ国、約一万二千発の核爆弾があります。NATO各国はある程度信頼できますが、その他の国は、、、、、また、さきほどの映像にもありましたようにテロリスト組織にも渡っていると考えたほうが良いと思われます。世界情勢がこれだけ不安定な現在、いつ誰が核兵器を使わないとも限りません。あと偶発的な、つまり現場の判断での開戦というのもありえます。私は外務大臣当時から、正直、核戦争に相当の懸念を持っておりました。また、我が国の脆弱な原子力発電所の危険性もあり、この常温核融合炉と三種の神器を提供してくれるという申し出は受けるべきと考えます。そして、日本こそが核戦争を世界から無くすようにすることができる唯一の被爆体験国であり戦争の醜さを知っている日本に生まれた政治家として、この問いかけを本当に真剣に検討すべきと考えます。特にA国との関係で我々が遠慮していた状況を大きく変化できますし、贈り物が我が国のエネルギー、食糧の自給など大きな変化を与えてくれるものと信じますが。」と官房長官が珍しく、首相に意見をした。
首相は、「しかし、貸与の前提に次の条件がついているじゃないか。この条件は、日本だけでものめない話だぞ。官房長官、これを読んだのか、無理だよ。地球連合だと。どの国ものめるわけない。自分の国がなくなるようなものだよ。政府首脳が、花札大統領やショーチン大統領たちが納得するわけもないし、それに日本国民だって納得するわけがない。それに今の経済体系だけでなく国家体制そのものがなくなるのだぞ。世界的には金やレアメタルとエネルギーが有り余ることで無価値となり、世界の経済規律が破壊されるではないのか?株はどうなる?いままでの資産はどうなるのだ。どうやって国民に説明するのだよ。独立させるには憲法改正の問題もあるし。無理筋すぎますよ。」と頭を振りながら官房長官を見た。官房長官はすでに覚悟を決めているようで、「一時的には、世界的に混乱が起きるでしょう。まずは核拡散防止条約に加盟している国々から説得してみてはどうでしょうか?国連は大国によって機能不全に陥っていますから、国連に頼らず一つ一つ潰していくことで。ただし、一番危険な地域には思い切った手を打つしかありません。地球連合と言っても、この貸与によって、エネルギーも食料も各国で自給自足できますから、国そのものが解体されるわけではありませんし、自国が自国でエネルギーや食料で自立できるなら他国を侵略する理由のほとんどがなくなると思われます。一番の肝は、経済と食糧の不安を無くすことで実現できる安定した平和志向の政権作りに寄与することで、地球規模の平和交渉というものにつながると思います。これがネコ属と人属が共存していくためにシャトネビュロニアンが望んでいる核心だと思いますが、実は我々も内心望んでいることではないでしょうか。すぐにこの交渉テーブルに乗ってくる国は南米、アフリカ、アジア、太平洋の数十カ国になり、地球規模の平和運動となると外務省でも分析しております。さて、シャトネビュロニアンは我々とは直接交渉しない、つまり対話も行わないと表明しており、我々の交渉窓口は黒根古島の上地氏となります。上地氏とお話しいただけますか?お繋ぎします。」と言って、首相の反応を見た。
俺の外交デビュー?
俺は、少々どころか大変にあがっていた。いきなり首相と話せだと。官房長官の無茶ぶりだよ。黒根古島の食堂のテーブルに東京に送った水晶玉と同じものが置かれ、危機管理室の様子が映っている。テーブルには宇宙人の姿のままの金城さんや島民全員とヒトミも一緒に水晶玉から映し出される映像を見ている。官房長官と黒根古島の俺の家で話しあって、意外にも官房長官は理解が早かった。独立承認は相当検討の余地はあるが、戦争の危機に関しては、すぐに日本国政府として世界に呼びかけたいと。そして、複数の国の名を出した。その国々と日本をモデルケースにして、実際にこの話を進めたらどうかと。それには俺も、実は宇宙船でみていた親父もビックリした。親父は官房長官が離島してから、政治家は信用できないニャと言ったが、官房長官が言った国々なら可能性があると。そして、周辺国ものりやすい状況だと。だから、話を進めるキッカケになるなら、彼と組まない手はないと。あいつが嘘をついたら、すぐに消滅するぞと脅しておけと笑いながら言った。俺も親父の意見に賛成だ。それも俺が動くのではなく日本国が主体的に動いてくれるならそれに越したことはない。しかし、政治はなんて回りくどいことなのかと思いながら、一夜漬けで猫脳”ハモニャン”から仕込まれた情報を例の水晶玉に話しかけることにした。「一羽首相、どうもこんにちは。このたびは私ども独立宣言を検討していただけることを光栄に思っております。黒猫人民共和国の代表を務めさせていただいている上地鉄平と申します。さて、早速ですが本題に入りたいと思います。私ごときのちっちゃな島の住民が、独立なんてチャンチャラおかしいとお思いでしょう。いや、ご否定なさらずとも、私が首相であれば私もそう思いますよ。実際、馬鹿げた話なんですから。でも、私たちにチャンスをくれませんか。すでに水晶玉でご覧頂いた通り、核戦争の危機は間近です。こちらではあと一年以内と予測しております。実はシャトネビュロニアンは、それに備えて地球の猫たちを地球から退避させようとしておりました。私がそのことを知ったのは、ほんの一週間前のことです。私は知らなかったのですが、実はこの黒根古島の直径一キロの地下が二百年前からシャトネビュロニアンの秘密基地であったのでした。そして、今、すぐに起こり得るこの危機を警告するため彼らが黒根古島の私にコンタクトをとってきました。地球が核戦争で滅びる危機が来ると。シャトネビュロニアンとしては、ネコ属を退避させようとしたが、考えてみたら地球のネコ属は人類と一緒に進化してきている経緯から、ネコ属はできるだけ人類といることが幸せなはずだ。たまたま黒根古島にいるお前を代理交渉人とするから世界に話せと。単に警告を言っても単なる脅しとしてしか信用されないだろうから、シャトネビュロニアンが持つ常温核融合炉と地球を助ける三種の神器を貸す。それで交渉をなんとかしろと。無茶振りですよね。でも、その危機が現実なると真っ先に殺されるのは、罪もない私たち庶民です。死ぬのは嫌だと。私たちは考えました。現時点では地図のシミでしかない力ない私たちが声をあげてもどこの国家にも信用されるわけもないことを総理は十分ご認識だと思います。今の世界の政治システムでは、世界を動かすためには国という器というか格が必要だと。そこで我々の独立国を作り、それで世界と交渉することを提案したいのです。国の理念を持ち、対等に世界と対峙したいからです。ですので、まず、日本国に独立を認めていただきたい。そして、戦争を無くす機会を与えてほしいのです。このちっぽけな島を独立させても、我々になんの利益もないことはおわかりいただけますよね。だから、一緒に平和を訴えませんか。」俺は自分の知恵のありったけで言葉を絞り出していた。
すると首相は、「私も政治家の端くれでありますから平和を実現したいのは、私も同じです。人が人を殺すようなあんな戦争を二度としてはいけません。しかし、おっしゃるとおり、現実は政治体制、宗教、そして人種・民族などが原因となり各地で紛争が起きております。それがキッカケで恐ろしい核戦争が今まさに起きる可能性が高いということも理解できます。それを止めたいというお気持ちも十分理解できますが、そちらの条件が、あまりにハードルが高すぎます。まず、日本政府が独立承認をするためには、日本固有の領土である黒根古島を分離することになりますが、これを認めるためには憲法改正が必要になるのですよ。最短だって、つまり国会審議がスムーズに行ったとしても、三ヶ月。しかし、ご存知のように憲法改正には、他に審議しなきゃいけない項目が多くてですね、黒根古人民共和国の独立という前代未聞のことですから。つまり黒根古島を認めると、例えば沖縄や北海道が独立とかできるようになっちゃうのですから。黒根古島だけを特例にするということが憲法にそぐわないのはご承知いただけると思いますが。これが一番で最大のハードル。二番目のハードルが地球連邦でしたっけ?失礼、地球連合ね、世界の今の政治家、いや、権力者と言いましょうか。話がややこしくなるのでとりあえず、私は除いてくださいね。地球連合になることで、彼らの地位はどうなるか誰もが疑心暗鬼になるでしょう。彼らが今の地位を簡単に離すとは思えません。実は今の民主主義も権力集中型です。もちろん共産主義も独裁主義も権力集中型。あなたやシャトネビュロニアンの方々の考え方は、権力の集中自体を弱体化させようとされているように思いますが、いかがでしょうか?たぶんこの過程で独立運動とか革命とかで紛争や弾圧とかが起きるでしょう。つまり、あなた達がお考えの平和から逆に遠ざかる可能性だってあると思いますよ。なので、独立は諦められて、他の方法を考えませんか?たとえば、、なんかいいアイデアはないのかね。みなさん。」と首相は思考停止したまま机に並んでいる閣僚や官僚に問いかけたが、みんな下をむいたまま。俺がまた喋ることになった。「確かに民主主義が良い制度だったと思っていますが、国民の百%が参加しなくなっている。たった国民の三割が支持すれば多数となり、多くの国ではとてつもない権力が手に入る。思想・信条も分断の時代となって、同じ国の中でも極端な考え方でまとまりません。しかし、最近の選挙は極端な意見が好まれるようで、分断を煽るような結果を国民が選んでいるようです。特に世界の大国と言われる国は、民主的に選ばれたはずのその国のトップの考え方が世界の人々の脅威になる時代になってしまいました。民主主義を唱えた人たちもこの事態は想像もしていなかったでしょう。また、大国だけでなく異民族や異教徒、そして難民や移民を嫌い、排除のためには暴力や戦争を容認する国民が多くなってきた。核を持たない国でも、首相のおっしゃるとおり、政治家が疑心暗鬼になり恐怖心を煽ることで国民も疑心暗鬼になる。でも、よく今の状況を考えてください。石礫を投げて相手を脅していた時代は、まだ対戦同士が傷つくだけだった。だけど、核戦争となると対戦国だけではなく、全く関係のない国も直接破壊ではなくとも放射能汚染や核の冬による異常気象でひどい目にあうことはご承知でしょう。恥ずかしながら、被爆国である日本の政府はA国に遠慮したのか核軍縮を口にしても何もしていませんね。今の今まで日本国として何もしてこなかったですよね。首相は、権力者は変わらないとおっしゃいましたが、では、何人の人が死ねばその人たちは変わるのですか。俺は、あえて俺と言います。俺は、今の権力者という方々は、自国が核で攻撃されて初めて気がつくのだと思いますよ。それでは遅いよね。そして、自国は核から守られているから安心なんて考えている核抑止論は、テロや戦争で核爆弾が使われた瞬間に崩壊するでしょう。IS国とIR国の戦争だって、兵器能力が上がっているから先に仕掛けたほうが勝つのですよ。開戦ヨーイドンで戦争する時代はとっくに終わって、奇襲が戦勝の第一条件。さっき一年後の世界を見たでしょ。本当に核が使われるんだ。そして核で報復が始まるんだ。だって、使うために核があるんでしょ。それが連鎖して地球が壊れるんだよ。お願いだから、分かってくださいよ。ただ、俺も俺の島の連中もシャトネビュロニアンたちで一生懸命、馬鹿なことかもしれないけど、どうしたら良いのか考えたんだよ。たとえ、一度核爆弾を阻止できたとしても、それは根本治療の先送りでしかない。根本から問題を解決して人々が平和に生きていく方法を提案しなければいけない。このままでは、国、民族、宗教の代表である権力者たちが、近い将来に対立する国、民族、宗教を排除するための行動を繰り返す。その元は、多くは貧困や妬み、そして格差です。そして一番のリスクはそれを煽り、自己正当化を妄想する権力者たちです。
いつまで経っても自分たちの内なる強欲の恐怖に怯えながら生きていくことが良いのですか?日本がその連鎖を終わりにすることを世界で最初に宣言してくれませんか。死にたくないし、殺したくもない。人が人として生まれたら、たとえどこで生まれようと、生きていこうと人としての生を全うできる地球にしてほしいんですよ。お願いします。」俺の声は危機管理センターの中でどう響いたのだろうか。虚しい思いでふっと息をついたその時、ヒトミが水晶玉を両手で相手の頭を掴むように喋りだした。「もう、嫌になる。本当に嫌になるわ。あなた達、そして私もだけれど、楽しく生きることの権利ってのがあることを忘れていたんじゃない?死が近づいて始めて、生きたいと。いや、見ず知らずの人が発射した他国の核ミサイルに殺される道理がないと思ったって遅いよ。私は生きたい。テツと一緒に生きたい。この島のみんなと生きたいし、本土にいる知り合いも死んでほしくない。ましてやこれから生まれてくる子どもに悲しい思いをさせたくない。いや、日本の国民、世界の人々がこれ以上、おバカさん政治家の国同士の権力争いに巻き込まれて、死ぬなんてありえないでしょ!どこの政府の皆さんもいざとなれば核シェルターに逃げられるでしょうがね。でもね、シェルターを出られることになったとしても、すべて滅んだ命のない世界にでてどうするの?いい加減にしなさいよ。一羽さん、すぐにA国、R国に行きなさいよ。なんなら宇宙船で連れて行ってあげるから。何分で行けるんだっけ?金城さんじゃない、、、宇宙人さん。東京まで一分で、A国首都なら三分もあれば行けるそうよ。なんなら、今から首相官邸の上に行きましょうか?ほら、何を躊躇しているのよ。あんたが平和をつくる人になるのよ。漢になる最後のチャンスだよ。金玉があるなら、今から行くから覚悟決めろ!できないなら、いますぐ、黒猫人民共和国の独立を承認しなさい。あんたがやらないなら、私らがやるから。」と最後は水晶玉に顔をつけて怒鳴った。
東京の水晶玉はヒトミが叫んでいる映像がホログラムとなって、全員の眼の前に大写しとなった。クロップトップ姿の胸の隙間から乳房が覗き込めそうで室内のほとんどの人たちはまたまた仰け反った。
「一羽です。お嬢さん、お嬢さん、怒鳴らなくても。え、あ、ふむ。お嬢さんという表現は撤回いたします。見た目の判断、大変に失礼しました。女性の方、お名前は。で、良いのかな?あ、はい、ヒトミさんですね。宇宙船で東京にいらっしゃるのですか?上地さんのお話もヒトミさんのお話も理解しているつもりですが、ちょっとだけ検討する時間をください。A国に連絡なしに行くものなにですので、それに宇宙船というのも含めて検討いたしますので。そうです、それにハードルの高い独立承認も含めて色々考えてみますからね。しっかりと全力で可及的速やかに対応したしますから。」と言って、一羽首相は防衛長官と連れ立って外に出ていった。
別室で二人だけになった一羽首相は、「防衛長官。まだこの件は、ここにいる人以外は知らないのだよね。マスコミも在日A国軍も知らないのでしょ。オーケーです。それとあなたの提案の黒根古島に潜入させる作戦は進んでいるの?」「はい、まもなく作戦が始まります。海から潜水部隊で文字通り潜入します。島民しかいない島ですから制圧は簡単かと。」と防衛長官。「防衛長官進めてください。海からの奇襲なら制圧できるでしょう。それに宇宙人の警戒能力がどれだけあるのか、どんな反応があるか分かるでしょう。」
やはり、こいつらは信用できない。




