黒根古島奇譚 DAY14~16
日本政府との交渉は不調に。そしてヒトミから意外な告白が。俺の正体も黒根古島のみんなに明かすことになり、事態は大きく動き出す。
DAY14
A国白邸大統領執務室
「IS国とIR国のいざこざもそうだし、UK国とR国もそうだし、IN国とP国もそうだし、こいつら、いつ箍が、外れるか、分からん。しかし、あいつらが全面戦争を始めても、A国は絶対に兵士出さん、ぞ。石油やレアアース、よこせば有利にしてやるぞとか、調停取引も面白かったが、結果はこう、だ。どいつもこいつも自分、勝手すぎるぞ。また、戦いを始めやがった。もうワシとしては、面倒、見きれ、なーい。喧嘩が、好き、なんだから放っておく、ぞ。とりあえずは我が国の武器が売れればいい。両方に売りまくれ。紛争調停より、しっかりカネを儲ける、ことに集中、だ。俺ファーストだぞ。
で、国務長官、なんだ?日本が宇宙人、と接触している、と。ワハハ、我が国はもう何十年も前から、そんな宇宙人とはお付き合い、しているーぞ。それがどうした。その情報はカネに、なるかぁー?」と大統領は口を尖らせている。
「さあて、カネになるかは大統領次第かぁー、と。嘉手納の我軍が、傍受したのでーす。我軍は、日本国領内の事象は、自衛隊に任せている、のですが、どうも自衛隊の話では、金ピカの宇宙船が飛んでいる、と言うので、金ピカ、にはご興味があるかと思いまして。大統領にはぴったりの、話題かと。」と相変わらずの太鼓持ちスタイルでよいしょするが、「そんな話は我が国にも山程あーる、じゃないか。その金ピカの宇宙人に金を貢にこっちまで来い、と言って、やーれ。」と相手にしなかった。
黒猫人民共和国官邸(食堂)
「一羽さんは当てにならないですね。黒猫人民共和国としてまず独立して、我々独自で交渉に望むというのはどうですか?戦争を阻止するためにも常温核融合炉は日本にも必要なものだけど、一羽さんの言うように条件がきつすぎたこともあって、決断できないでしょう。日本にだけ条件を緩めてあげるというのはどうでしょうか。地球連合への協力は良いから、独立だけ認めよと。
大泉官房長官は味方になってくれそうだし。まずは独立だけでも。」とツンパが言い出した。
「仮に独立承認してもらったとして、ちゃんとこっちの意見をわかってくれるっすか。なんか貰うもの貰ったら知らんぷりしそうな気がしますがね。」とケツが言うと。
「いや、まずは独立承認だ。日本が承認すれば、こっちも独自外交ができるだろうから。そのためには、日本政府に保障を求めた部分は内容を緩くしよう。ツンパ、OKだから進めよう。みんなも良いな。核戦争の危機を人類自らが解決しなければならない。そのためには、まずは対等に世界各国と平和に交渉するためには独立だ。宇宙人たちを頼るわけにはいかないからな。」
妥協はしたくないが、戦略としては独立しなければ宇宙人との友好国という立場が作れないからなと自分に言い聞かせて決断して、タバコを吸いに外に出るとポケットに入れたガラ携がなり出した。
家に戻ってしばらくするとツンパに連絡が入り、官房長官が一人で水晶玉から現れた。
「上地さん、いや上地代表、ツンパさん、ではなく、釈多さん(ツンパの本名)から内容は聞きました。条件の緩和の件、ありがとうございます。憲法改正をしないで、どうしたらご要望に添えるかを検討しています。今現在はアイデアですが、特別自治区国家という構想なら憲法改正をせずに、黒根古島を日本国の特別自治区に指定して、憲法の枠内での自治権を認めると言うものです。
名目は”宇宙的・国際的平和外交の実験場”ということで国内外の了解も取りやすいでしょう。これもジャストアイデアですが、国連平和構築支援事務所と宇宙と世界の平和共生に関する協力覚書などを締結すればそれをベースに世界各国と外交交渉できるようになるでしょう。どうでしょうか?
今、外務省内部でプロセスの確認をしておりまして、外務省から総理への意見書がでまして、総理の最終判断をいただくことになっていますが。」と官房長官が言った。
「すいません、アイデアは分かるんですが、それってまた時間がかかるんじゃないの?」とヒトミが横から突っ込んできた。ヒトミのテンションはまだまだ高い。
「ヒトミさん、首相のOKが出れば、内閣で決定し、国会の会期中ですから自治区法案を通すようにします。世界平和に寄与するということであれば、ましてや宇宙人さんとの連帯を図るということなら一月以内でやります。それから国連との橋渡しもしますから。ギリギリ半年以内ですか、、、、ただ、宇宙人さんが日本にいることを発表したら大変なことになりそうですが、、」と言う官房長官の目はヒトミからの反撃を予想して少し泳いでいたようだ。俺等は、そうなんだという感じ聞いていたが、そこをヒトミは見逃さなかった。
「駄目です。官房長官、私たちはすぐにでも他国との外交をしたいのです。一時でも早く、犠牲者を救いたいのですから。あんたらが当てにならないからこう言ってんのよ。小手先の変なことはしないでよ。一番は、心の底からの信頼関係でしょ。さあ、早く外務省と内閣府で検討して総理に決断させてよ。漢でしょ。あんたも。」とまた、ヒトミがまくし立てた。俺はさっきのガラ携の件を伝えることにした。
「官房長官はこの島を離れる時に、私にあなたを信頼してくれと仰ってましたが、どうしますかね。
すぐそこの海に国籍不明の海底人がいて、この島に上陸しようとしているようなんですがね。危ないので処置したいとシャトネビュロニアンは言っているんですが、まだその海底人に連絡はつきますよね。本当にあなた達は懲りないですよね。こんなバカなことには、あなたは反対してくれたと思っていますがね。どうせ、首相のゴマすりで防衛長官あたりが吹き込んだんでしょうが、すぐに引き返させないとこないだのドローンのように海底人は消滅しますよ。海の中でも効果は一緒ですから。隊員の命を落として良いんですか?」と俺が言うと、官房長官の表情が変わった。すぐに分かりました、中止させますからと言って部屋を飛び出した。
「ヒトミさん、外交をこれから世界に向けて開始というお言葉ですが、私らみんな素人ですぜ。最初は、島が独立すればあとは日本政府が色々やってくれて、こっちは何もせずに自動的に行くように思っていましたがね。ちょっと状況は私ら素人にはしんどい状況かと思うんすよ。
言葉だけならC国とK国とUR国は、キンとソンとオルガがいるから言葉だけなら通じると思っすけど、オルガさんはR国語を喋れるの?喋れる。でも外交知識もなしで肝心の交渉とやらは無理っすよ。専門家を雇わないとねぇ。島主は?」とケツが言うと、頼りない我が政府官僚予定者たちは一斉に俺を見た。ただ、ヒトミは策があるのか自信ありげに目を閉じていた。
俺はヒトミの席の後ろにまわり、ヒトミと二人きりで部屋を出て、例の井戸の方へ並んで歩き出した。一夜明けても、親父たちはキンキラキンの宇宙船のイルミネーションを消す気配がないようで、陽を浴びながら相変わらず七色の光で包まれている。
「何を言いたのかは分かっているわよ。出過ぎた真似だとは思うけどね。ファースト・レディが政治に口出しする国のあまりいい話は聞かないって言うのでしょう。でもね、私のアイデアを聞いて。あとはあんたがそれをどうするか決めてちょうだい。」
「ファースト・レディだって。お前がか。まだ、結婚もしてないんだぞ。」
「何をいってんのよ。F国なんて、籍なんて関係なくパートナーであれば、ちゃんとファースト・レディになれるんだから。知らないの?
それにさぁ、、、、」
そうだ、ヒトミに反論するという無謀なことをしている場合ではない。俺は俺としてしっかりとしなければ。
「はい、マイ・ファースト・レディ。恐れ入ります。ご助言ありがとうございます。まずは、ツンパとケツも入れてお前のアイデアを宇宙船の”ハモニャン”と作戦を練るというのはどうだ。宇宙人が決定に参加しなければ良いというルールだから、”ハモニャン”は機械で宇宙人じゃないからな。一緒に行こう。その前にみんなにいつのも仕事をするように言ってくる。いまのところ、みんな気に病んでもしょうがないだろうからな。」
首相官邸危機管理センター
「黒猫人民共和国の自治区承認で、対外的に日本政府がなんか頓珍漢なことをしているように見えるのは困りますよ。そのへんは、ちゃんと考えてあるのでしょうね。外務省?」と首相。
「いままで、宇宙人でありますシャトネビュロニアンの黒根古島降下と島民との接触及び島民代表上地氏からの黒猫人民共和国独立などは一切、外部に漏れておりません。もちろん、A国にも漏れていないと思われます。黒猫人民共和国も約束通り、何も発表をしておりませんことを確認しております。」神経質そうな外相が報告していると、ドンとドアが開き、官房長官が血相を変えて入ってきた。
「首相、潜水部隊を送ったのですか。それも住民を拉致しようとしたのですか?それとも抹殺しようとしたのですか?下地氏から妙な海底人が海にいると。引き返させないと部隊ごと消滅させると言ってきましたよ。彼らを甘く見くびってはいけませんよ。ドローンが消えた映像はご覧でしょう。すぐに作戦を中止させてください。防衛長官、聞こえていますか?」と首相の前で机を叩きつけながら言うと、首相が防衛長官に目配せをした。
「すいません、勝手なことをしたのは私です。すぐに撤退させます。失礼します。」と逃げ出すように席をたってセンターから出ていった。
「首相、潜水部隊の件はご存知だったのでしょう。警告されていなければ突入したとすると自衛隊員の命が失われる事になったのですよ。
まあ、何と言うか。他の方法を考えましょう。法相、準備はすぐにできますか?どうですか?」とすぐに冷静になった官房長官が言うと法相は首相の顔色を伺うように、
「準備と言っても。なんせ、黒根古島は日本国の領土ですから。そこが独立するというのは反逆的行為になるので、警察力で阻止できるものだという意見もあるのですよ。それに検討している時間がない。」と首相の顔色を伺いながら言う。
また、机を叩こうと手を上げた官房長官を首相が制した。
「分かったよ。法相も言っている通り時間が必要だ。二日とは言わんが一日猶予をくれと、話してもらえんか。たった直径一キロで住民が九人しかいない島を世界に認めさせる方法なんて。それも宇宙人と、セットで、うちゅうじん〜、」喋りは冷静だったが少し血が頭に上ったのか、顔が真っ赤になってきたと思ったら、口から泡を吹きながら気を失って机に伏せてしまった。
黒根古島:俺の家での会議
「海底人悪いよ。日本人も悪い人だったのかぁ?政府、どこでも一緒だよ。A国だってR国だって、私たちのC国だって、政府に反対する人、いつの間にかいなくなるよ。都合悪いと、消されるよ。権力者、みんな一緒だよ。だから自分たち守るため力必要なるけど、自分たちだけだと、そんな力ない。宇宙人さんいなければ、海底人攻めてきて、私らもう、消えた人たちね。
でもね、宇宙人さんいなければ独立の話、なかった。どっち幸せ、分からないよ。」キンが首を振りながら一言言いたげなケツを見た。
「悲しいっすね。官房長官みたいな人もいるけど。ひとりはなんとか信じられるかもしれないっすが、そこに繋がる人が同じ考えではないから色んなことが起きるんっす。私らは、政府からは邪魔者なんすよね。自分の地位を守りたい連中からすれば俺等なんて、地図の点なんですよ。消しゴムで消すか、消えなきゃ、島のところにエンピツで穴をあければいいと思っているんっすよ。何が悲しいって、その発想で俺等を消そうとしたっすから。」とケツがみんなに言い出した。
「ケツさん、凄い良いこと言った。素晴らしいわ。地図に穴を開ければいいって。テツちゃんとツンパさんはなんとか日本政府に独立だけでいいからもう一度交渉して。ダメなら独立承認してくれる国を探すしかないわ。あとは私がやるから。ってか、やらないと私の子どもが困るから。」とヒトミがなんとお腹に手をあててとんでもないことを言い出した。
「え、子どもってぇ〜。ねぇ、今、私の子どもが困るって言った?あんた、子ども、できているの?妊娠しているってこと?いつの間に〜。」と切り出したのは、アンチ・ヒトミのゴドーだ。それにはっきりとヒトミは頷いた。俺はギョッとした顔をしたのだろうか。ゴドーが場を仕切ってくれた。
「本当なの?医者に、、行けるわけないわよね。この島にはいないからね。ちょっと今が一番大事な時期だから、身体、大事にしてよ。アタシは妊婦さんのことはわからないけど、今一番安静にしてないとダメなはずよ。ヘリ呼んでさ、石垣の病院に行ったほうがいいよ。こんな独立話で右往左往していると身体に障るわよ。とりあえず、横になりなさいよ。ほら、お父さん、ボーッとしているんじゃないのよ。庭にビーチベッドがあるから持ってきなさいよ。」とゴドーは、看護師らしくヒトミが楽になれるように、あっという間に部屋の模様替えをバストとオルガに命じてやってくれた。
俺はヒトミの言葉の意味をまだのみこめていないまま、ただただ、無理やりベッドに寝かされたヒトミの顔を見ていると、ゴドーが「ほら、みんな邪魔だから、早く部屋から出なさい。ほらほら見世物じゃないんだから、、、」と言って俺とヒトミを残して全員を部屋から追い出し、最後にゴドーが静かにドアを締めて出ていった。
「身体、辛くないか?まさかだけど、まさかなぁ。」とヒトミの手を握りながら、言葉を探すが、当然ながらいい言葉が出てこない。
「さっき検査薬で調べたの。ちょっと早いようだけど。でも妊娠したことないけど、なぜか、その前からそうだと分かったのよ。身体は少し変だけど、なんか逆に力が湧いてきたようでさ。気付いたときにとっても幸せな気持ちになったんだ。テツの子どもで良かったなって。あんたに先に言わずにごめんね。どうも二人っきりだと言い出せそうもなかったから、みんなの前で思い切って言っちゃったよ。」ヒトミはそう言いながら起き上がり、俺の頭に手を回してきた。
金ピカの宇宙船:親父に質問
ヒトミと話を終えてから、墓から宇宙船に戻って俺は親父に会いに行った。ヒトミの妊娠を疑っているわけではないが、実は東京にいた頃、離婚した妻との間に子どもができなかった。妻は検査に行って俺の精子がないことで妊娠させられないという話を医者から聞いていた。ちょうどその時、俺の浮気がバレた。妻は俺に愛想をつかせて離婚。親父にこのクローン身体が妊娠させる能力があるかどうか聞いてみようと思ったのだ。
「なんとニャ。ヒトミちゃんにお前の子どもができたとニャ。それは目出度いがニャー。なんで子どもができるのかニャ。お前の身体は、セックスはできても子どもができないようにしてあったんじゃがニャ。まさかニャ、、、他の、、、」と親父が言ったと同時に俺も気がついた。
「まさか、ヒトミが俺以外の男とするわけがない。たしかに島に来てから俺は二度だけ。まさか、ひょっとして俺になった金城さんか?金城さんだって俺と同じで子どもはできないのじゃないか?」と言うと、親父がクローンマシーンの設定を確認して申し訳無さそうにこう言った。
「急いでいたし、こんなこと滅多にないがそこの設定だけがお前用のデフォルトオフではなくて、オンになってなニャ。どうしたんニャろ。しかし、金城さんがいたしたとしても、身体はお前の身体なのだから精子もお前のDNAでデザインされているからその子達はお前の子どもニャ。安心しろニャ。金城さんを責めるでないニャ。
おミャーは分からんだろうが、ネコ属の世界では、メスが発情するとオスは断れんのニャ。金城さんの場合は、ネコ属からヒト属クローン化してすぐだったからニャ。ネコ属として反応してしまったのニャろ。
そして発情期に複数の相手とするのは当たり前だからニャ。人の基準だと問題かもしれんがニャ、みんなの子どもニャ。正直言うとワシラはヒト属のような嫉妬というのがないからニャ。」と照れくさそうに親父は言った。
「その子?、俺の子ども〜だってぇ。。」
俺の中でヒトミへの愛情と金城さんへの嫉妬が入り混じり。たしかに親父の言う通り、たぶん俺のDNAで作られているはずなんだし、ネコ属では当たり前だろうが、どうも人間の常識というか愛している相手をとられたような。ましてやヒトミからすれば相手は俺だった訳だし。悶々としていると親父がこう言った。
「子どもは、シャトネビュロニアンとヒト属の混血になるが、理論的にはヒト属にクローン変換しているから精子も同様に変換されているはずニャ。つまり、純粋にヒト属の子どもとして生まれるはずだとニャ。
とわ言え、実は自信がないがニャ。こんなケースは初めてだからニャ。ということは、シャトネビュロニアンとヒト属は親戚になるのニャんて、想定していなかったが目出度いことニャ。
そうだ、金城さんのデータにアクセスして、金城さんがお前になっていた時間の記憶を消しておくからニャ。ならいいだろうニャ。なんならあの日のお前の記憶の金城さん関連を消してやろうかニャ。」と言われたが、いや大丈夫だと言って断って、墓からでてタバコを吸い込んだ。
ヒトミのアイデアをみんなに説明して了解を取らねば。アイデアが気に入らなくて島に残らないやつも出てくるかもしれないが。問題は山積みなのに、タバコの煙はきれいな夕焼け空に消えていった。
北極海・C国潜水艦掻氷元帥号
「A国潜水艦右手後方、R国潜水艦左手後方、追尾確認。」
「彼達暇人也、追尾永遠。彼達忘却、心境安定。寒冷身体忍耐限界。吾、司令室降下」艦橋からいくつかの氷山が流れてくる様子を見ていた寒がりの艦長はそそくさと司令室へ降りていった。
今回の航海の目的である氷割り浮上のためにはもっと氷が厚いところまで行かねばならないが、新造船のテストも兼ねてだから焦りは禁物だ。しかし、艦長室に戻って一人になると自分は決して失敗しないといえるだろうか。その不安か、寒さのせいなのか手を震わせながら「失敗不許可。絶対不許可。吾可能。絶対吾可能。」と艦長は何行何行も航海日誌に呪文のように書き並べていた。
DAY15
首相官邸危機管理センター
首相の倒れた原因は、過労による脳卒中で応急措置も治療開始も早く、大事には至らなかったが、当分の間は入院となった。その日の新聞、TVは首相倒れるの見出しで埋め尽くされて、官房長官は大忙しとなった。独立話は立ち消えるかと思われたが水晶玉に連絡が入った。
「すいません、ご存知だと思いますが首相が病気になりまして私が代行しています。首相がお倒れになったことありまして、独立承認の件はやはり時間がかかります。これでも法治国家なので、国会というハードルがあります。なので、なんとか特別自治区ということではいかがかと。それなら国家戦略特区法でいけそうです。」と首相代理をやらされて寝てないのかひどく疲れ切った顔で水晶玉から浮かび上がった。それを見ながら口火を切ったのは俺ではなくヒトミだった。
「官房長官、お疲れのようですね。分かったわ。自治区の話はお断りします。と言っても敵対関係になるということではないの。そうね、今までの話が無かったようになるということかしら。」と言って少し考えるような表情で話を切った。
「話がなかったことになるとは?」官房長官は少しうんざりしたような顔になった。
「官房長官、本当に申し訳ないけど一つお願いがあります。前に官房長官が仰っていた私たちを独立承認してくれる可能性があるという国を紹介してほしいの。その国にすぐに独立承認をしてもらいたいから。
どうやってって?こっちがかれらのところへ行きます。黒根古島は漂流します。どうやってって?分かるでしょ。
飛ぶのよ、飛ぶの!島ごと飛んでいくのよ!国名はひょっこりひょうたん島って言うわけにはいかないから、そうね、流浪の平和民・ノマディアよ。流浪の平和民・ノマディアよ!」とヒトミの声がセンターに響いた。
水晶玉から映される映像は、センターの中の連中を見据えるようにボブスタイルの金髪を束ねたヒトミの表情で、彼女の意思の固さを現していた。その目に負けたのか、「わわ、、分かりました。あちらの国がこれを理解できるかどうかわかりませんが、交渉してみます。すぐにやります。」と諦めたように官房長官が言った。周りでは官僚たちが蜂の巣をつついたように飛び回り始めた。
DAY16
食堂の島民会議:意外な展開
島の九人の住人とシャトネビュロニアン二人が食堂に集まった。
尻尾をつけたネコ顔のままの”タマ”親父と金城トラさんも宇宙船から久しぶりに出てきた。
「さて、総会という訳では無いけど、始めるか。
一昨日説明した通りにこの島は日本から出ていくことになった。黒猫人民共和国の日本からの独立を目指していたけど、それには時間がかかり過ぎる。そこで官房長官が地球の反対側にあるM国を紹介してくれた。その国は大統領が大きな権限を持っているから、受け入れ可能性高いと判断した。地球の反対側だがな。なんせ、この島ごと飛んでいくから大事になる。家畜たちの問題もあるから、その辺を親父、ではない”タマ”さんから話してください。」
「二日前かニャ、ヒトミちゃんが宇宙船に来て、島主の子どもを身ごもったとニャ。目出度い話ニャ。ヒトミちゃんは、産まれてくる子どものためにも地球を滅ぼしたくないから、でも独立話は立ち消えだしどうしたら良いのか相談に来たのニャ。ヒトミちゃんが言うには、日本政府を諦めて他の国に認めてもらうには、この島をそこに持っていくしかないから、宇宙船ごとこの島を飛ばしてくれないかとニャ。もちろん可能ニャ。
正確に言うと飛ばすということではなくて、マイクロブラックホールを使った瞬間移動、物理的に大気の中を飛ぶわけではないから、風もないし高度で低温になるということもないから安心しろニャ。一瞬で目的地につけるから、猫も牧場の家畜たちも一緒にいけるのニャ。それに他国の領域を飛んでいかないから、日本国領海を出たときに他国から拿捕とか攻撃される心配もないのニャ。
つまり、黒根古島が局所地震のせいで海に水没してなくなったように見えるのニャ。これなら日本政府も良い言い訳ができるニャろ。それに誰も関心もない島だから言い訳する必要もないかもニャ。ケツさんの良いアイデアじゃニャ。
今後のことだが、前も話したと思うがワシラは直接ヒト属と交渉はしない。唯一の窓口はチミたち島民ニャ。チミたちに協力するだけで、ワシラは前には出ないことが条件だということは忘れないでニャ。その条件のもとで、ワシラはヒトミちゃんの計画を全面支援するのニャ。」
「どうだ、みんな。これで安心したかニャ。あれ、”タマ”さんの癖がうつった。さっきの説明のように予定通り行けばこの島は明日の午後に消滅することになる。そして目的地である国との話がつけばそこからが本当のスタートだ。ただ、さすがにもうついていけないと思う人は、話から抜ける最後のチャンスだけど。」と言うとみんなが頷いている。どうも抜けたいやつはいなかったようだ。しかし、ケツが手を挙げた。
「島主、変な質問いいっすかね。島主、さっき”タマ”さんのことを親父って言いませんでした?それに時々ニャというし。
いや、どうも前々から気になってたんすがね。ツンパさんも言ってたっすが”たま”さんの声と島主の声がそっくりだと、それに”タマ”さんのネコ顔だけどよく見ると島主に顔も似ているでしょ、本当の親子みたいに思ったっす。」とケツが突然言い出した。
「えっ、そんなことは、、」と俺が口ごもるとすかさずゴドーも「ケツさんもそう思っていたの?アタシたちもなんか似ているって思っていたのよ。照じーは昔から知り合いでしょ?知っていたの?」と畳み掛けるが、照じーは演技なのか寝たフリをして返事をしない。
照じーの弟子であるキンとソンが、「しっしょう、しっしょう、起きるですよ。ぼくもそう思っていたよ。しっしょうの顔も、よく見ると島主に、似てるあるでしょ。」寝たふりの照じーの肩をこずくと”タマ”親父がたまらず、口を開いた。
「ふむ、仕方ないニャ。照じーや息子からは答えづらいだろうからワシが答えるニャ。確かにテツちゃんはワシの息子ニャ。ワシラの身体は宇宙船のクローンプリンターというものでヒト属に合わせて作られているというのは前に宇宙船で説明したニャ。本当の身体は冬眠カプセルの中ニャ。
金城さんもテツちゃんも照じーも今の姿はクローンプリンターで作ったものニャ。この四人は全員シャトネビュロニアンじゃニャ。」
と言ったところでゴドー、オルガ、バストが反応しお互いを見合った。ゴドーが、「ピーンポーン!島主はシャトネビュロニアンだとすると。じゃあ、ヒトミちゃんの子どもって、シャトネビュロニアンと人類との混血になるの?あっらー、大変よ。ヒトミちゃん知っていたの?」とヒトミの顔を見ながら心配そうに聞いた。
するとヒトミが立ち上がって座っている俺の肩に手を置きながら、俺も初めて聞く話をしだした。
「うん。といっても昨日だけどね。島を飛ばすというアイデアを相談に行ったときに”タマ”さん、つまりお父さんから話してもらったの。テツちゃんが一人でお父さんと会ったあとよ。テツちゃんが墓からでてきたあとにそっと入ったの。」と親父の顔を、そして俺の顔を見ながら、
「親父さんがテツちゃんと私を心配して言ってくれたのだと思う。テツちゃんがシャトネビュロニアンだと。でも、子どもは心配ない。ヒト属として産まれてくるはずだと。ただ、万一がないとも言えない。その時はショックだろうが、その時はシャトネビュロニアンとして立派に育てると。ネコ属は、どんな産まれでも差別も区別もしないから安心しろとね。
その瞬間はちょっとショックだった。けど、私が地球人と宇宙人の混血の子の母になると思ったら、すごく嬉しくなって。なぜか涙が一杯出て。
ゴドーさん、バストちゃん、心配しないでよ。テツちゃんのことを愛しているし、お父さんも優しいし大好きだから。どんな子だって私の子どもには変わりないのよ。シャトネビュロニアンとして生まれてきても構わないわ。
ここに来るまでは正直、戦争のことなんてどっかのお話だと思っていた。でも、島に来て政治の世界を垣間見たし、戦争に巻き込まれるなんてとんでもない。どっか誰かのために死ななきゃいけないなんて。お金や権力よりももっと大事なのが、人の生きる価値と権利だと思った。それを守るのは、自分のためじゃなく、この世界に生きているたくさんの人のためにもなるのだと。
こんな我が儘な私だけど、みんながいたから、そして子どもができたから今の私になれた。みんなが私の誇りだし、そして産まれてくる子どもの誇りになるはずだから。そして、みんなとノマディアで地球のみんなの平和を作りたいから、一緒にやろう。本当にお願いします。」
ちょっぴり涙を浮かべたヒトミがそう話し終えると食堂はみんなの笑顔と拍手が溢れた。俺はその拍手に俺がヒトミをもっと大事にしないといけないと反省した。そして、俺が言いづらいことを言ってくれた親父にも心の中で感謝した。
漂流国家ノマディアの代表は?
「みんなにいままで黙っていて、申し訳ない。正直、俺がネコ属だと知ったのは井戸に落ちて親父に救われた時だ。それまでは、当たり前に人として生きてきたし、それに平凡な大した人生ではなかったのは、みんなも知っているだろう。それに、みんなとこの島でのんびりと楽しく働ければと思っていたのも。
井戸に落ちなければ、こんなことにもならなかったかもしれなかった。でも、地球の危機を知ってしまって、そこから突っ走ることになって。みんなを騙して巻き込んだようでずっと申し訳ないと思っていたけど、すまん、謝る。
こんな俺だけど、産まれてくる子どもの親として、ヒトミと、そしてみんなと一緒に地球の命を守る旅をしたいんだ。よろしく、頼む。みんな。
そして、今日から俺はシャトネビュロニアンの”テツ”として生きることにしたい。俺がヒト属の代表というのは嘘があるからね。なのでヒト属代表は、新たにここにいるみんなから選んでもらいたいんだ。方法はみんなが納得できるならそれでいいと思うから。」と俺。
「島主、いや”テツ”さん。でいいのかな?では、”テツ”さん。ヒト属代表はシャトネビュロニアンが選ぶのだと思いますよ。シャトネビュロニアンが信頼のおけるヒト属を選ぶのが当然でしょう。それで良いだろ?」とみんなの顔を見ながらツンパが言った。
「賛成だわ。”タマ”さん、”トラ”さん、”テツ”さん、選んでください。ね、ヤギちゃんもOKよね。」ゴドーも言う。
俺は親父の顔を見た。それを親父は分かったようで、「じゃあ、ワシラが選ぶのは、ヒトミちゃんニャ。妊娠しているから大変だと思うが頼めるかニャ?皆さん良いニャロ。」というと「異議なし、賛成!」の声と拍手がヒトミに贈られた。
「ありがとう、お父さん、”トラ”さん、”テツ”ちゃん、みんな。やらせてください。頑張ってみる。だけど、みんな手伝ってよ。」
「もちろんですよ。私たちだって、このままの状況を放っておくことはできないじゃないですか。ましてや、世界の首脳たちを説得するなんて凄い仕事ができるんですよ。可能性はゼロじゃないんだし。危機を目の前に逃げ出す輩はここにはいませんよ。」とツンパがオルガの手を握りながら力強く言ってくれた。さすが、酔っ払い副社長だ。
「ツンパさんの言う通りだと思います。時間はそんなにないし。私も短い人生色々あって、結局、牛の世話しかできないまま生きてきたけど、この島に来て牛と過ごせる時間があるということが本当に贅沢だと思ったの。
だって、私が癒やされてきたんだから。みんなだけでなく牛やヤギやもちろん猫ちゃんがいて、私がいるのだと。一つ一つの生き物が繋がっているんだとね。それが壊されるのは絶対に嫌です。だから、この世界を壊させないためにノマディアで頑張ろうって。すいません、私の言いたいこと分かります?普段、喋る方じゃないけど一言言いたくて。」と普段無口なバストが言うとソンとキンが大きく頷いた。そして、他のみんなも頷いた。
「じゃあ、ヒトミさん、これからの役割を決めませんか。首席交渉役・水晶玉と金板担当はヒトミさんに。広報・IT・常温核融合炉担当は私、ツンパが。三種の神器の剣担当はケツさん、聖杯・テラフォーミング担当は牧場組と漁業組。ってことでは。もちろん、島主も手伝ってくださいよ。」ツンパが言ったが、そこでケツから異論が出た。
「ちょっと待った、流浪の旅国家、ノマディアという新しい概念の国は、地球の平和を創ることが目的の国でしょ。空を飛ぶだけで平和を訴えられませんか?常温核融合炉、三種の神器も良いけど、そんなもんで釣るのは、どうなんっすかって思うようになったんすよ。
たしかに世界にエネルギー革命を起こせば色々変わると思うけど、俺の意見だけど、先に平和の合意がなければ、貰った国と貰わない国がケンカしそうなんっすけどね。ヒトミさんが日本政府に”漢”になれと言ったときの言葉を世界に響かせましょうよ。理解してくれる国を一つづつ訪れて、説得しましょうよ。半年あれば毎日一カ国で百八十カ国行けますよ。国連加盟国数が百九十三だから、ほとんどカバーできますよ。それがノマディアじゃないんすか?どうですかね。」とケツが熱く語った。
「確かに!でも、もう一度考えを整理しよう。」ヒトミが立ち上がって提案した。
「平和を指導者達、いや政府のお偉いさんに話して納得してくれたとしても、それでそこの国民になんの得があるか。つまり、世界が平和になるのは良いけど、平和になると自分たちはどうなるのかを知らせる必要があるわ。偉い人達はそれが実績になるけど、民は平和だけでは飯は食えないってね。
そのために核融合炉と三種の神器はあるのだと思うの。ネコ属の基本的な生きるスタンスは、食って寝て遊んで、食って寝て遊んで。それができるなら、当たり前だけど嬉しいよね。小さいけどそれが本当の幸せってことじゃない。そのためには、エネルギーと食糧はいるのよ。
例えば、そうね、例えば国が海に沈み込むT国では、平和があっても海水面の上昇は止められないわ。そう、地球温暖化そのものを止めないと無理でしょうね。
でもね、私たちの常温核融合炉でできる海水の淡水化、そしてテラフォーミング技術でサンゴ礁の上にマングローブの人工林を作って、そこを新たな農地と居住地にするとかって考えられるでしょ。あとは養殖漁業や観光とか、海を活かした事業を考えられるし。世界からボランティアにアイデアを提供してもらうとか。国土が水没して移住しかないと言われるT国民に希望を持ってもらえるでしょ。
それがあって始めて平和ということが実感できるのだと思うわ。ただし、T国は二番目にしたいの。
最初の交渉国は色々問題があってハードルが高いかもしれないけど、その国に私たちのしたいことを理解してもらえれば他の国々への説得が楽になると官房長官も言っていたわ。大統領の権限が大きいから独立承認が早くもらえる可能性が高い国。
宇宙から”地球の眼”と呼ばれている場所のある国。その国でデモンストレーションして私たちがなにをできるのかを見てもらうしかないわね。
その国が私たちを承認してくれれば、インターネット上に地球連合を作って世界の国や叡智に集まってもらうのよ。そうね、”ハモニャン”に事務局機能をしてもらってね。”ハモニャン”、このアイデアはどう?」と水晶玉に話しかけた。
「ヒトミさん、お任せください。世界の様々な国の問題を共有して調整させていただきますので、ノマディアの皆様は交渉に専念してください。」と”ハモニャン”が応えた。
「みんな、さっきツンパさんが言った役割分担で各国の状況に合わせた提案ができるようにしてね。分からないことがあれば”ハモニャン”に聞いてね。言葉の問題も”ハモニャン”が同時自動翻訳してくれるしね。」
「さあ、みんなの出番だニャ。ワシラは裏方でサポートするから、心配しないでニャ。思ったことを誠意を持って語れば、必ず心は通じるはずニャ。」と親父。
「よし、官房長官の連絡を待って、M国に行こう。」ヒトミをどれだけサポートできるかが俺の役割になった。シャトネビュロニアンとして一緒に交渉に望むこととしよう。
M国・大統領自宅官邸
「大泉首相代理。お話は分かりました。宇宙人が日本に来たというお話は分かりました。ミスター大泉、あなたとの今までのお付き合いがなければ、到底信じがたいお話でしたがね。いろいろな資料を見せていただいたことで理解しました。
では、シャトネビュロニアンと共同体の方々、ノマディアにはこうお伝えください。
我が国の中部に”地球の眼”と呼ばれている直径五十キロの同心円状の地形があります。隕石衝突ではなく、地殻変動と浸食でできた地形ですが、眼の中に瞳があって私は宇宙から見たことはないですが、見るとまさに眼そのものです。
私は遠い昔に宇宙人の方が作ったのではないかと思っていますが、科学者が言うには自然にできたものだと。シャトネビュロニアンの方のご意見はどうでしょうか?
事実はどうであれ、”地球の目”で”宇宙の方とその友好団”と対話ができることは全世界に平和を伝える、まさに象徴的な出来事になるでしょう。
私が大統領でいるときにまさか宇宙の友人ができるとは、光栄の限りです。なおかつ、宇宙の友人と国交を結ぶ最初の国になるという栄誉も国民は喜ぶでしょう。
そして、一番重要な私たちの使命が、地球から戦争を無くし、人々が幸せになるために生きていける地球を一緒に作ることだと。
大泉首相代理。本当はあなたがこれを実現したかったのではないですか。残念でしょうが、代わりを私がやれたら存分に褒めてくださいね。アラーに全ての賛美あれ。そしてノマディアにも祝福を。」とスリムな体型のイスラム教徒である大統領はテレビ会議の画面の官房長官に笑顔で語りかけた。
「悔しいですが、褒める準備をしておきますよ。ノマディアの人々とシャトネビュロニアンは、信用できる方たちです。そして、私たちが創るであろう世界平和に期待を持っています。本当によろしくお願いします、大統領閣下。」と言ってTV会議のスイッチを切って、水晶玉に話しかけた。
「とりあえず、自分ができることはやってみました。ただし、前にもお話したようにM国は、平和国家とは言いづらい部分がありますから、説得するにはハードルは高いと思いますよ。でも、ヒトミさんとノマディアのお仲間ならできると思っていますよ。自分が貢献できないのは大変残念ですが。よろしくお願いいたしますよ。」と水晶玉に語りかけた官房長官はふっとため息をもらしたが、すぐに気を取り直し外務省官僚にこれからノマディアが訪れる予定の他の核兵器防止条約加盟国への交渉を指示した。
つづく




