15話 潜入準備とお風呂
瑛二たちが『桜』を発足させた翌日、朝食を済ませた後、荷物をまとめて車両へと乗り込む。
瑛二が無線を取り、各車両へと声を飛ばす。
『それでは各車両、続いて下さい』
各車両が瑛二の乗る車両を先頭に進む。その日は道中、特に問題なく進み、瑛二の予想よりも先まで進むことができた。
その日は、魔族たちが陣地を構えている場所から20キロほど離れた場所で野営をすることとなった。
「野営の設営、完了しました」
1人の隊員がそう瑛二に報告する。
「ご苦労様でした。夕食までの間は、自由時間にすると各員に通達して下さい」
「承知しました」
その隊員は、そう言って足早に戻って行った。
一方、瑛二は設営された司令本部テントの中に入って行った。そのテントの中には、既に瑛二以外が揃っていた。ちなみにこの中にいるのは、分隊長以上の役職の者達である。
「皆さん、どうやら揃っているようですので、これより明日の作戦に向けた会議を行います」
明日の作戦とは、魔王軍の動向に関する調査である。
「まず、明日は全体的な偵察を中心にします。調査内容は、彼らの目的地・そこへ向かう目的・構成人数・武装・武器の種類です。そして2日後に各小隊に別れての調査となります。それでは、各小隊の調査内容について説明をします。まず第一中隊第一小隊第一分隊は───」
次々と各分隊が呼ばれて、大凡の調査内容の説明をした。
「──以上が、各分隊の調査内容となります。その調査内容が達成できるのであれば、やり方は問いませんが、くれぐれもやり過ぎたりしないようにお願いします。もしも失敗する可能性があるのであれば、一番成功確率の高いやり方を取るようぎして下さい。私からの偵察調査に関しては以上となりますが、今の説明で何か質問や意見のある方はいらっしゃいますか?」
すると、この場にいる中で、瑛二達異世界人以外で唯一若い中隊長である、第四中隊長のマルセル・ミア大尉が手を挙げた。
「どうぞ」
瑛二が一言そう言って、マルセルが瑛二に質問をする。
「なぜ、我々第四中隊は、現場への偵察調査ができないのでしょうか?」
「あなた方は、第七大隊の中で唯一の医療中隊です。そんな部隊が前線に行かれては困るのです。ですので、もしも他の小隊や分隊に負傷者が発生し、この司令本部まで運ばれてきた場合には、その方の治療をし、負傷者などがいない場合には、この陣地の警備に当たってもらいたいのです」
「では、もしもその治療の関係で、我が中隊の全員が治療で警備に人員が割けない場合は、どうするのですか?」
「先程の説明の通り、もしもそうなった場合には、他の警備に当たっている第二中隊第二小隊および第三中隊第二・三小隊が第四中隊の分の警備も行いますので、問題ありません。あくまでも第四中隊の第一優先は、負傷者の治療であり、警備はついでなんです」
「……分かりました。では我々は、負傷者が発生した場合には治療に全力を尽くし、負傷者のいない場合は警備任務を行います」
「ご不満でしょうが、よろしくお願いします」
瑛二は、今一度そうマルセルにお願いした。
「承知致しました。副連隊長」
マルセルは、瑛二のそのお願いを了承した。
「あ、言い忘れていましたが、今回調査する場所というのは、城塞都市ですので、調査員には全員魔族に変装してもらいます」
瑛二のその言葉に皆同様する。なんせ彼らは今まで、魔王軍は野営をしながら王国の王都まで来ていると思い込んでいたからだ。だが、実際のところは、城塞都市に拠点を置いていたのだから、そりゃあ、彼らも同様してしまうのは当然のことだろう。
そして、それぞれの部隊の代表が、瑛二が用意した変装用の魔族変装道具一式を受け取った。
「ミア大尉の他に、質問や意見などがある方はいらっしゃいますでしょうか?」
暫しの静寂がテント内に流れる。
「どうやらいらっしゃらないようですので、これにて会議を終了致します」
会議が終了すると、会議で決定したことを自分の部隊にも通達するために、それぞれの隊長がテントから出て行き、テント内に残っているのは、瑛二と沙織、そしてイーディスとメアリーの4人だけとなった。ちなみに榛名と達也は、この陣地周辺の偵察のため、会議に参加していない。
「沙織さん。このテントに誰も入らないよう、看板の設置とイーディスさんは、者音結界をお願いします」
「「承知しました」」
沙織が看板を設置するために一旦テントの外へと出る。そしてイーディスが遮音結界を展開するために詠唱を始めた。
『風属性第三階梯魔法サイレント』
詠唱が終わると、テントの中に透明な結界が展開された。これで、テントの外に声や音が漏れることはない。
そして沙織もテントの中に戻ってきた。
「沙織さん、イーディスさん。ありがとうございます。ニコラさん、もう出て来てもらって構いません」
すると、影の中からニコラが出て来た。
「やっと外に出られたわ。やっぱり影の中は、過ごし難いわね。それで瑛二殿は私に何の用かしら?」
「影の中から出ていたときがありましたよね?そのときに得た情報を貰えたらと思い、お呼びしました」
「驚いたわ。気付いてたのね」
「なんとなくですが」
普通の人間は“影空間”の中のことはわからないため、その“影空間”に誰が出入りしたのかはわからないのが普通だ。わかるとすれば、かなり“影空間”を含めた空間系のスキルや魔法に長けた人物だけとなる。しかし瑛二に限っては、特殊であるため、そういった空間感知は造作もないのである。
「そう。それで確か“影空間”から出てたときの報告についてだけども、行っていたのは、さっきまで話題に上がっていた魔族領の城塞都市“イロサナフ”の街中の様子を下見していたのよ」
ニコラのそんな報告にその場にいた全員が驚愕する。
「ニコラさん。独断行動はできるだけ控えて下さい。貴女はもう1人ではなく、私の諜報部隊である『桜』に所属する諜報員です。ですので、これからは私に一言相談してからお願いします」
「ええ、わかったわ」
ニコラはそう返事をする。
「では、その下見の報告をお願いします」
そして、ニコラが魔族領の城塞都市である“イロサナフ”の報告をする。
「まず初めに言っておくけども、これは数時間だけの結果だけっていうのを前提に聞いてちょうだい」
「もちろんです」
「それじゃあ、話すわね」
“イロサナフ”での話をする。
魔族領に位置する城塞都市“イロサナフ”。そこは、ゼルフォート王国領との国境付近に位置している。その“イロサナフ”の中は、ゼルフォート王国領との国境が近いとはいえ、その街の中にいるのは基本的に魔族である。だが最近では、人間の行商人なども入って来ている。また、魔王軍としての考えは、前王が亡くなった今、ゼルフォート王国との友好条約を結ぶ考えを示しており、ゼルフォート王国に魔王軍が向かっているのはそのためである。
「これが、私が“イロサナフ”に行って入手した情報よ」
「魔王軍の動向を探るのが今回の任務でしたが、その目的がわかってしまえば、任務は終了ですか?」
「いえ。その目的が違えばゼルフォート王国が大変な事態に成りかねないので、それが本当かどうかを調べる必要があります。ですが、ニコラさんの下見のおかげで、調べる範囲は絞り込むことができました。ですので、これで終わりたいと思います」
ニコラの報告の内容を聞いたメアリーが疑問形で瑛二の方を見る。瑛二はそんなメアリーの言葉を否定しつつも、的外れではないことを遠回しにそう言った。
「ところで瑛二様。この後は如何なされますか?」
突然、沙織が瑛二に対してそう質問をする。
「そうですね。皆さんの食事の準備をした後に、お風呂に入り、食事を済ませた後、少しばかりの準備を行ってから寝ようと思っています」
「そうですか。でしたら我々は先にお風呂に入って来てもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
そう言って女性陣は、テントを出て風呂が設置されている大型テントへと向かった。
「……そういえば、ニコラさんも一緒に行ってしまいましたが、大丈夫でしょうか……」
ニコラが沙織たちと一緒に風呂に入りに行ってしまったことに疑問を持ちながらも、食事の準備へと取り掛かった。
沙織たち女性陣が一旦、自分たちの着替えを取りに行き、風呂が設置されている大型テントの中の脱衣所へと入る。
「今日は、いつもよりも疲れたわ」
ニコラは、自身の服を脱ぎながらそう言った。
「それは、自分でやったからではないですか?」
「そうです。上司である瑛二様に一言の相談もなく、独断で行ったのですから、あれぐらいで済んで良かったと思うべきだと思いますよ」
イーディスとメアリーの姉妹が、ニコラのそんな一言にそう言う。
「そこまで言う必要はないじゃない。私は良かれと思ってやっただけよ。それに、私のおかげで調査範囲が狭まったんだから、もう少し優しく言ったっていいじゃない」
そんな2人の言葉に対して、ニコラがそう言葉を返した。
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて下さい」
このままではマズイと思った沙織が3人の間に入る。
「沙織中佐は、どう思う?」
「ニコラさんの方が問題がありますよね!」
「沙織様は、この話を聞いて、どのようにお考えですか?」
「そ、それは……」
場を宥めるつもりが、3人に予想外にそのように詰められ、言葉を詰まらせる。
「とりあえず、一旦お風呂に入りませんか?服を着ないまま脱衣所に居ては、風邪を引いてしまいますので」
沙織の言う通り、現在この場にいる全員が服(下着も含め)着ていない状態である。なので、早く体を温まらせたいのだ。まぁ、沙織の本心としては、この場から逃れて、少しでも最善の答えを見つけるための時間が欲しいだけなのだが……。
というわけで、沙織の提案というか、本来の目的である風呂に入るため、浴室内へと入る。そして、体を洗って湯船に浸かる。
「それじゃあ、沙織中佐。さっきの話に戻るけど、どっちが正しいと思う?」
ニコラが沙織にそう尋ねる。沙織としてはこのまま忘れていてほしかったが、仕方ないと諦め、自分なりの答えを言う。
「これはあくまでも、私なりの考えになりますが、根本的なことでは、イーディスさんたちの方が言っていることは正しいです。なんせ、何の報告もなく独断行動を行ったのですから」
すると、イーディスたちが「ふふん」と鼻を鳴らす。
「ですがその一方で、ニコラさんが“イロサナフ”へ行ってくれたおかげで、必要のない調査をすることがなくなったわけですし、その点では、先に調べてくれたのは助かったと思っています」
すると今度は、ニコラが「ふふん」と鼻を鳴らした。
「沙織様。それってつまり、どちらの意見も間違っていないってことですか?」
メアリーが沙織にそのようなことを言う。
「そうですね。私はどちらの主張も間違っていないと思います。確かにイーディスさんたちの言う通り、上司となる私や瑛二様に許可なく独断行動を行ったのは問題がありますが、その独断行動によってでなければ、得られない情報というのも存在します。ですので私は、どちらの意見も尊重し、反対するつもりはありません」
沙織は、2人の言葉を否定することをせず、なんとか、両者とも和解?をした。
「そういえば、ずっと気になっていたのですが、沙織様ってなんで、瑛二様を様付けしているのですか?」
「あ、それ私も気になってた」
さっきまでの空気感は何処へやら。話がニコラの独断行動から沙織の瑛二への様付け問題へ話題が変わった。
「そのことについては、私のテントの中で話してもよろしいですか?このままではのぼせてしまいそうなので……」
沙織の言うことは確かで、もう湯船に浸かってから10分以上が経過し、全員の顔が明らかに赤くなっているのがわかるくらいだった。
「そうね。確かにこのままじゃ、のぼせちゃうわ」
ニコラものぼせそうになっていたようで、浴槽から立ち上がったとき、一瞬だけバランスが取れなくなっていた。
そんなわけで、体を再度洗った後、浴室を出て脱衣所で持って来た寝衣に着替えた後、夕食を済ませてから、沙織専用のテントへと女性陣が向かって行った。
『良かった』『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は特に決めていませんが、どうぞこれからもよろしくお願いします。




