14話 『桜』の発足
魔族領へと向かう道中、瑛二たちは足止めを食らっていた。その理由とは、車列の前に盗賊たちが道を塞いでいたからだ。
「おい!その馬車?から降りて来い!」
盗賊の1人がそう叫ぶが、誰一人として、車両から降りる者はいなかった。
『総員、相手からの攻撃を受けない限り、車両から降りての戦闘を禁ずる』
瑛二が無線で、各車両の無線機を通じて通達する。
無線で通達後、盗賊の何人かが、瑛二の運転する車両に剣を振り下ろすが、当然、その剣は弾かれた。今度は、扉を開けようとするが、盗賊が出現した際に、鍵を全車かけるように既に無線で連絡済みのため、外からは開けられない。だが、トラックの場合は、荷台部分は空いている状態なので、そこまで盗賊たちが行ったら、戦闘を行うつまりで、トラックに乗っている隊員たちは、既に戦闘態勢となっている。
そして盗賊たちが、トラックの方に向かったタイミングで、瑛二は無線で全員に通達する。
『各員、車両が降り次第、相手側が攻撃して来た時のみ、各自の判断での戦闘を許可します』
『了解!』
瑛二が無線でそう通達すると、待ってました!と言わんばかりに返事をし、銃を持ち降車する。
そして、車の鍵を開け、瑛二も降車するが、残りは車の中で待機している。瑛二が降車すると、後方の方から銃声が鳴り響く。どうやら、後方では戦闘が始まったようだ。
「テメェーらはいったい何なんだよ!!?」
盗賊の一人(リーダーらしき人物)が、瑛二にそう叫んだ。
「私たちは、ゼルフォート王国特殊派遣連隊第七大隊です。そして私は、その第七大隊を率いている特殊派遣連隊副連隊長です」
「大隊……だと!」
この世界でも軍の部隊規模はほとんど変わらず、部隊規模は、ほとんどの者たちが知っている。瑛二たちは303人と大隊規模なのに対して、盗賊側は65人と小隊に近い中隊規模である。
「どうやら襲撃する相手を間違われてしまったようですね。盗賊のリーダー殿」
「俺が頭ってことは気付かれてたようだな」
「はい。あなた方をこの場で拘束させていただきます。ですが、私たちの邪魔をするのでしたら、申し訳ありませんが、この場で死んでいただきます」
「そうかよ。ならせめて、お前を殺してから死ぬとするよ!!」
そう言って、瑛二に向かって剣で斬りかかった盗賊のリーダーだったが、瑛二が懐から取り出した懐刀で剣の斬撃をいなした後、瞬時に、首の頸動脈を斬って即死させた。
それを見ていた他の盗賊たちは、自分たちのリーダーが一瞬でやられたことに恐怖を感じるのと同時に、瑛二の纏っている気配から、自分たちは敵に回してはいけない人物を敵に回してしまったことを後悔する。そして、盗賊たちがこの場で生き残る手は一つのみである。
「全員、武器を捨てろ!!俺たちは投降する。だから、命までは取らないでくれ!」
盗賊たちは瑛二に対して、土下座をしながらそう命乞いをした。
「……わかりました。では、これからあなた方を拘束します。どなたか、縄でこの盗賊たちを拘束してください!」
瑛二の指示によって、生き残っていた盗賊(20人)は、大人しく拘束された。
「イーディスさん。この盗賊たちの引き渡しを行いたいので、ここから一番近い町の警備兵の派遣の要請をお願いします」
「承知しました」
イーディスは、一言そう言い残して“影空間”で、一番近い町の警備兵を呼びに向かった。
それから数十分が経過すると、荷台が牢屋になっている馬車が5台程来て、その先頭にはイーディスの姿が見えた。
「お待たせ致しました。警備兵を連れて参りました」
「ありがとうございます」
イーディスにそう礼を言うと、瑛二は警備兵のところへと向かった。
「私の使者より、捕らえた盗賊の人数はお聞きかと思いますが、念のために言うと、指揮官クラスが3名と雑兵クラスが17名の計20名です」
「君は?」
護送部隊の隊長らしき男が、瑛二にそう尋ねる。
「これは失礼しました。私は、ゼルフォート王国特殊派遣連隊副連隊長の久遠瑛二大佐です」
「特殊派遣連隊……まさか、最近軍の中に新たに編成されたという、王国軍独立連隊。それも副連隊長である大佐殿に対して、失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした」
そう言って、その男は瑛二に対して、深々と頭を下げた。
「私は気にしていませんので、頭をお上げください。では、護送隊長殿。盗賊たちのことは頼みます」
「はっ!お任せください。それと、名乗るのが遅れましたが、私は、この先にあるダラマトという町のゼルフォート王国騎士団ダラマト支部所属、護送専任部隊隊長のゼニシス・フォージと申します」
「では、後のことはフォージ隊長にお任せします。では、我々は任務がありますので、これにて失礼します」
そう言って車両に乗り込み、拡声器を手に取る。
『各員、これより任務地に向けて向かいますので、速やかに車両に乗車してください』
瑛二が拡声器でそう呼びかけると、外にいた隊員たちはすぐさま車両に乗り込み、任務地である魔族領へと向かって再出発をした。
夕暮れ時となり、もう少しで日も暮れそうになる頃、車両に搭載されているナビを見ながら、近くの町を探していた。
「近くに町は無さそうですね……」
「とにかく今は先に、野営地を探す方が良いんじゃない?」
達也が瑛二にそう提案する。
「確かにその通りですね。人数も人数ですので、開けた場所の方が良さそうですね。少し探してみますね」
《“メーティス”聞こえていますか?》
《ばっちり聞こえています。それで私に何かご用意ですか?》
《この付近に大隊が野営できそうな野営地がないか、調べてください》
《了。検索中……ヒットしました。場所を車内ナビに表示します》
その瞬間、ナビに2箇所ピンが刺さった。
「この2箇所が野営候補地です」
「もう見つけたのですか!?」
一瞬のことに沙織が驚く。
「もう日が暮れそうですし、テントの設置時間を考えれば、できれば日が暮れる前には、テントを張り終えたいですね」
「確かに暗くなってからテントを張るのは大変ですからね。では、少しだけスピードを上げましょう。後ろの車両も問題なく来れるはずです」
そう言って、瑛二はアクセルを少しだけ強く踏み、スピードを上げた。それと同時に、後ろの車両もスピードを上げて、車列全体のスピードが上がった。
それから1時間後、目的地に到着し、全員が車両から降車した。瑛二は“ストレージ”から、車両と同時に用意していた、野営用テントを必要な分だけ取り出し、一つだけテントの設営方法を実践した後に班に分かれて、その班長が野営用テントを取りに来て、空いているスペースにテントを張った。もちろん、男女別々のテントである。
各班でテントを設営している間に、瑛二が調理器具を取り出し、夕食の準備をする。本来こういった食事の準備などは下級兵の担当なのだが、瑛二はそのようなことを気にせず、食事の準備を進めた。
そうして完成した夕食は、カボチャのポタージュ、バターロール、フライドチキンである。普段料理をする機会があまりないうえに、300人以上の食事を作るのは初めてだったので、流石の瑛二も少しばかり疲れていた。
夕食後、瑛二、沙織、榛名、達也、イーディス、メアリー。その他として、第七大隊の各中隊・小隊長などの指揮官級が司令本部のテントに集合し、会議を行なっていた。
「このペースですと、後2日ほどで魔族領に入れると思われます」
第二中隊長のパオロ・ロベルト大尉がそう言った。
「そうですか。途中足止めを食らいましたが、予定通りの行軍速度です。ですが、潜入調査も考慮すれば、一日でも早く情報収集を行いたいので、行軍速度を上げたいと考えています」
「それでは、シートベルトを備え付けられていない、トラックの荷台に乗っている隊員が危険です。ただでさえ、シートベルトをしていない時点で問題だというのに、更に速度を上げてしまえば、流石に問題があると考えます」
瑛二の提案に対して、沙織が瑛二の考えを否定する。
「私も流石にそこら辺は考えてありますので、ご心配には及びません。トラックの荷台には、人数分の2点式シートベルトをこの会議が終了次第、すぐさま備え付ける予定ですので」
「そうですか」
※2点式シートベルトとは、骨盤を固定するため腰の左右2点を支持する形式のシートベルト。ラップベルトとも呼ばれている。
シートベルトをトラック全車に装備し終えた後、瑛二は野営地の奥にある森の中へと一人(沙織は“隠蔽”で姿を隠しながら)で入った。そして、森の中を少し歩いたところで、その歩みを止めた。
「いい加減に姿を現したらいかがですか?」
瑛二がそう言うと、木陰から一人の女性が姿を現した。
「いつから私のことを?」
「盗賊の対応をしていた時からです」
「なるほど、最初から気付かれてたわけね」
「それよりも、あなたは何者ですか?」
「私は、ニコラ・ナイトシュード。フリーの情報屋ってところね」
こっそり“解析鑑定”で、ステータスを確認するが、どこにも所属してはいなかった。そして、その人物が信用のおける人物なのかも同時に調べてみるが、信用のできる人物だったので、瑛二は密かに考えていたことをニコラに提案する。
「フリーということは、現在はどこにも所属していないということですね」
「そうなるわね」
「では、ニコラさん。私に雇われる気はありませんでしょうか?」
「私たちは初対面なのよ?それをわかって言っているのかしら?」
ニコラがそう言うのも当然だ。瑛二ももちろんこの事は想定済みの範囲内である。
「もちろんです。ですが、私が何者かはご存知ですよね?」
「もちろんよ。新たに軍に編成された独立の連隊である特殊派遣連隊の副連隊長にして異世界人の久遠瑛二殿」
「ならば、なぜ副連隊長である私がこの調査任務に参加したかわかりますか?」
「連隊として初任務になるから?」
瑛二の質問に対して、ニコラはそう答える。
「その理由もありますが、それはあくまで表向きの理由です。私の本当の目的は、この任務で、できるだけ信用のおける且つ、優秀な諜報員を確保することが目的なのです」
「それは、国として?」
「いいえ。これは私個人としてです。ゼルフォート王家には、何かあるのではないかと思っています。ですので、私の配下となっていただけませんか?」
ニコラは少し考えた後、瑛二に答えを出す。
「わかったわ。あなたの諜報員として配下に加わるわ」
「ありがとうございます」
「それでさっきから気になっていたんだけども、そこにいる彼女は、あなたの連れで良いのよね?」
瑛二の右斜め後ろの方を見ながらそう言うと、今まで“隠蔽”で姿を隠していた沙織が姿を現した。
「よく沙織さんのことがわかりましたね」
「私は“隠蔽”の上位スキルである“隠密”のスキルを保有しているから、私には通用しないってわけ」
「そういうことでしたか。あ、申し遅れました。私は……」
「知ってるよ。特殊派遣連隊第七大隊大隊長の石原沙織中佐でしょ?」
「ええ」
自分のことも知られていたことに、少しばかり困惑する。
「話を進めてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
瑛二がそう言い出すと、ニコラはどうぞと一言だけ言った。
「まず、今から話すことの前に、後二人この場に呼びますね。イーディスさん、メアリーさん。いますか?」
「ここに」
瑛二が二人の名前を出して呼びかけるように言うと“影空間”から現れた。
「一人だけいませんが、問題はないでしょうし、話をしたいと思います。 現在、私の諜報員となっている方々は、沙織さん、イーディスさん、メアリーさん、ニコラさん。そしてこの場にいない賢一さんの5人です。そこで、コードネームを付けたいと考えています」
「今の状態だと、名前が特定出来てしまうので、その対策のためのコードネームというわけですね」
瑛二の意図を読んだかのように、沙織が言った。
「その通りです」
「瑛二様。コードネームはお決まりなのですか?」
「そうですね。ここは無難に数字でいきましょうか。数字と言っても、一般的に使われているアラビア数字ではなく、アルファなどといったギリシャ数字にしたいと考えています」
この時沙織は定番だと思ったが、それをあえて言うことはなかった。
「コードネームは付ける相手などは決まっているのですか?」
「ええ。元からアルファからデルタまでは決まっていました。ですが、それ以降はあまり考えていませんでしたね。まぁ、それはさておき、早速ですが、お伝えします。沙織さんは───」
今いるメンバーにコードネームを割り振った。もちろんそのコードネームの割り振りには、賢一も含まれている。
「では、これでコードネームは付け終わりましたね。それと、今後私の任務で動く際には、独立した諜報部隊『桜』を名乗って下さい」
「わかりました」
「承知しました」
こうして、瑛二直属諜報部隊『桜』に所属することとなった5人のコードネームは、以下のように付けられた。
沙織=アルファ
賢一=ベータ
イーディス=ガンマ
メアリー=デルタ
ニコラ=イプシロン
「そういえば、ニコラさんは“影空間”のスキルを保有していますか?」
「持ってるわよ」
「では、私が声をかける間は“影空間”で待機してもらってもよろしいですか?」
「構わないわ」
「ありがとうございます」
ニコラはそう言って、イーディスたちと一緒の“影空間”内に入って行った。情報交換をするためだと、瑛二は思いながら、沙織ともに、他の隊員に見つからないようにしてテントへと戻った。
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