13話 魔族領への出発
レヴォネの情報が、瑛二の傘下に入ったイーディス、メアリーによって、入手しやすくなった。
そして今、瑛二はというと、自室で本を読んでいた。
「その本って図書館にあった本よね?」
「ええ、司書さんに貸し出し許可を貰って、持って来ました」
「その本ってどういう内容なの?」
「これですか?これは、この世界の魔法について書かれている本です」
「確か瑛二のスキルで、どんなことでも調べられるっていうのがなかった?」
「ありますよ。ですが、スキルばかりに頼ってしまうと、いざという時に困ってしまいますので、こうして自分でも調べたりしているんです。そして、今読んでいるのは、魔法属性やその属性魔法について書かれているものです」
瑛二は、全属性持ちであるが、その属性魔法のことを知らなければ所詮、宝の持ち腐れだ。だからこそ瑛二は、属性魔法について学ぼうと考えたのだ。
「そういえば沢田先生って見なかった?」
「沢田先生なら、図書館でこの世界の英霊達について調べていますが、どうなされたのですか?」
「最近、訓練に顔を見せないから、体調でも崩しているのかと思ってね」
「あれ?お嬢様に事前にお伝えしていませんでしたっけ?」
「初耳だけど」
「え?」
「え?」
瑛二は、自分は雫に話したと思い込んでおり、逆に雫は、まったくの初耳で瑛二が自分に報告をし忘れ、更に自分は、報告したと思い込んでいる様子に少しだけ驚いていた。
「申し訳ありませんでした!」
瑛二はそう勢いよく頭を下げて、雫に謝った。また、瑛二がこのように謝る姿を見たことがなかった雫は、驚いてしまった。
「だ、大丈夫よ。それよりも、何で沢田先生は、その英霊?について調べてるの?」
「沢田先生の固有能力の中に“英霊召喚”というものがあります。そして、その“英霊召喚”を発動させる条件は、その呼び出したい英霊について理解していることが条件となります。その理解度が高い程、よりその本人の全盛期に近いレベルの英霊を召喚することが可能となります」
「さっきから英霊って言うけれども、そもそもその英霊って、どういう意味なの?」
「分かりました。では簡単にではありますが、英霊について少しだけご説明させていただきます」
瑛二による英霊の説明が始まった。
「英霊とは、戦いの中で死んで逝った英雄達の魂の敬称……簡単に言うと、戦死者の魂の敬称です。例を挙げるならば、第二次世界大戦での軍属の戦死者などを指します。この世界の英霊ならば、世界各地で活躍した勇者や英雄と呼ばれた方たちが該当すると思われます」
「つまり沢田先生は、この世界の勇者や英雄たちについての知識を取り込む為に図書館に閉じこもっているわけね?」
「その通りです」
瑛二が説明したことがほどんど意味の無い要約の仕方をされてしまったが、大体のことは合っていたので、瑛二は敢えてそこにツッコミを入れることはなかった。
「図書館に閉じこもって、大丈夫かしら?」
「ご飯も我々よりも遅くではありますが、しっかりと食堂で、食べているそうですし、特に問題ないと思います」
「そう。それなら少し安心したわ」
「沢田先生の“英霊召喚”は、戦局を大きく変えることのできるほどの力を持っている固有能力です。これを完全に我がものとすれば、こちらの戦局が大きく変化させることができるのは間違いないでしょう」
「なるほどね。ところで、沢田先生はいつまで、図書館に閉じこもってるの?」
「キリが良いところで訓練に参加するとおっしゃっておりましたので、私にはわかりかねます」
「そう」
図書館に閉じこもってからしばらく経過している為、瑛二としては、時々でも良いから体を動かしてほしいと思っていた。
突然、ドアをコンコンコンとノックする音が聞こえた。
「レヴォネです。入ってもよろしいでしょうか?」
瑛二たちの部屋に訪ねて来たのは、レヴォネだった。
「どうぞ」
「失礼します」
瑛二に入室許可をもらい、レヴォネが室内に入る。
「レヴォネ王女殿下。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
ちなみに、今日レヴォネは、瑛二たちと会う約束はしていない。
「実は、お二人にお話をしたく参りました」
「と言いますと?」
「瑛二さんたちは、最近魔王軍が妙な動きをしているという噂は、ご存知ですか?」
「はい。と言っても、噂程度ですが……もしかして」
「はい。瑛二さんと諜報に長けた特連隊の部隊で、魔王軍の動きの調査をお願いしたいのです」
瑛二は、やはりかと思った。
「レヴォネ王女。その調査は、個人としてのお願いですか?それとも、王女としての命令でしょうか?」
「命令と受け止めていただいて構いません」
瑛二たちに拒否権はなかった。
「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「瑛二と諜報部隊を向かわせると言っていましたが、なぜ、私は行けないのですか?」
「それに関しましては、レヴォネ王女殿下に代わって、私がお答え致します。お嬢様は、特連隊の連隊長です。そのような立場の人間が、長期期間離れるのは問題があります。それに、お嬢様が派遣された場合、自然と私も同行する形になり、連隊をまとめる存在がいなくなります。そうなると、連隊としての機能が大幅に減少してしまいます。ですので、副連隊長であり、お嬢様よりも任務に向かわせても特に問題の無い私に声がかかるのは、至極当然のことなのです」
雫の質問に、レヴォネの代わりに瑛二が答えた。
「なら、私の護衛とかはどうするの?」
雫のその疑問は当然のものだ。雫の身の周りの世話は、基本的に瑛二が全て行っている。そんな瑛二がいなくなれば、雫の生活に支障が出ることは、明らかである。
「お嬢様。その件でしたらご心配には及びません。私の代わりでしたら、この者たちが全て私の代わりに行います。では、紹介致します」
瑛二が今から雫に紹介しようしているのは、オートゴーレムたちである。実はまだ、雫にオートゴーレムのことは話していなかったのだ。
『失礼(致)します』
続々と室内に6体のオートゴーレムたちが入室して来た。
「お嬢様。紹介致します。まず一番左におりますのが、流奏です」
「護衛担当の流奏です。自分は風、土、闇属性の適性があり、その適性属性の中で、風属性魔法が一番得意です。これからよろしくお願いします。お嬢様」
そう言い終わると、流奏が雫に向かって一礼する。
「そして、流奏の隣におりますのが、心尊です」
「心尊と申します。私は風、土、闇属性の適性があり、その適性属性の中で、土属性魔法が一番得意です。また、隠蔽工作には自身があります。これからどうかよろしくお願いします」
そう言って、心尊が雫に一礼をする。
「そして、心尊の隣におりますのが、業渡です」
「業渡と申します。私は風、土、闇属性の適性があり、その適性属性の中で、闇属性魔法が一番得意です。また、剣術ならば、護衛担当の中で一番だと自負しております。これからよろしくお願いします。お嬢様」
業渡は、そのまま雫に一礼をした。
「そして、業渡の隣におりますのが、麗奈です」
「麗奈と申します。私は風、土、光、聖属性の適性があり、その適性属性の中で、光属性魔法が一番得意ですね。また、魔力操作には自信があります。そして、私たち女性体は、お嬢様の護衛担当の中でも、身辺警護が主となります。どうかこれからよろしくお願い致します」
麗奈は、そう言って雫に一礼した。
「そして、麗奈の隣におりますのが、檜織です」
「檜織と申します。私は光、土、聖属性の適性があり、その適性属性の中で、聖属性魔法が一番得意です。また、体力は護衛担当の中で、一番あります。精一杯護衛を務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」
そう言って、檜織が雫に一礼をした。
「そして最後に、檜織の隣におりますのが、咲夢です」
「咲夢と申します。私は水、風、土、光、聖属性の適性があり、その適性属性の中で、水属性魔法が一番得意です。また、魔力は護衛担当の中で、一番高いです。また、その魔力を制御する魔力操作による魔法は、護衛担当の中で、一番だと自負しております。そして、瑛二様が任務中の間に、この世界の王侯貴族の作法や魔法の教育係も護衛と並行して務めさせていただきますので、よろしくお願い致します。お嬢様」
咲夢は、そう言って雫に一礼をする。また、その一礼の仕方は、流石は雫の教育係に抜擢されることだけあって、他の者たちよりも綺麗な一礼だった。
「以上が、お嬢様の護衛などを行う者たちとなります」
「なんだか、1人だけ教育係と聞こえた気がしたけど、気のせいかしら?」
「気のせいではございません。お嬢様は、この世界では、勇者の職業を持つお方です。こちらのマナーは、元の世界とそこまで大きく変わることはありませんが、それでも少しの違いがありますので、その点での教育を私のいない間に覚えていただきたく思い、教育係を設けることと致しました」
「そう。あのレヴォネ王女」
「はい」
「瑛二たちは、いつ頃ここを出発する予定なのですか?」
「それは瑛二さんたちの部隊が編成し終えたら、正式に命令を下します。その翌朝には城を出発し、任務に当たってもらう予定です」
雫の質問に、レヴォネはそう簡単に説明をした。
「あと、それはできるだけ早目の方が良いですか?」
「そうですね。できるだけ早目の方が助かります。あくまで調査がメインとなりますが、もしも侵略の準備ならば、妨害工作を行っていただきたいのです」
瑛二は一応、嘘かどうかを『真偽眼』で確かめたが、その言葉に嘘はなかった。
「承知致しました。至急、部隊の編成を行った後、編成部隊の隊員名簿を提出致します」
「よろしくお願いしますね。瑛二さん。それでは、私はこれにて失礼します」
そう言うと、レヴォネは退室した。
「至急、第七大隊大隊長に連絡をし、部隊を招集します」
「本当に行くのね……」
「はい。ですが、お嬢様を残して先に逝くことはありませんので、ご安心下さい」
「行く前に、そんな不安になるようなこと言わないでちょうだい」
「申し訳ありません。では、私は先程の件を話してきますので、失礼します」
瑛二は、第七大隊大隊長である沙織の部屋へと向かった。
第七大隊は、特連隊の中でも、諜報能力に長けた職業やスキルなどを持つ者、または、諜報活動に必要な訓練を受けている者の中でも、この連隊に抜擢されているのは、これらの中でも優秀な者たちである。
そして、瑛二がその第七大隊大隊長の沙織の部屋に着くと、扉をコンコンコンとノックをする。
「どうぞ」
「失礼します」
室内から入室の許可が出ると、瑛二が一言そう言い、部屋の中に入る。
「どうしなされましたか?瑛二様」
「今の私は、特連隊副連隊長として、ここに来たことを先にお伝えます」
すると、沙織は真剣な表情になる。
「第七大隊大隊長石原沙織中佐。先程、レヴォネ王女殿下より、魔族領で不審な動きが確認されたため、その調査に向かうよう命令が下りました。明後日には、第七大隊に招集がかかると思いますので、遠征の準備を大隊各員に通達をするようお願いします」
「質問をよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「任務期間は、どれぐらいの予定なのですか?」
「詳細は、後日の命令でわかるかと思います。ただ、魔族領はこのゼルフォート王国から片道だけでも、車で行ったとしても3日はかかりますし、そこから偵察や潜入調査、場合によっては破壊工作もしなくてはならないので、1ヶ月間は、ここに戻れないと思った方がよろしいかと思います」
「そうですか。承知しました。部隊の者たちには、私から通達を行い、いつでも出撃できるよう準備を整えておきます」
「お願いします。では、私はこれで失礼します」
瑛二は、沙織にさっき、レヴォネから言われたことを伝えて退室する。
廊下を少し歩き、人がいないことを確認する。
「イーディスさん、メアリーさん。いらっしゃいますか?」
すると、スッと影の中から出てくる。
「お呼びですか?」
イーディスが、瑛二に尋ねる。
「レヴォネ王女殿下との会話は、聞こえていましたか?」
「はい」
「お二人には、今回の任務に限り、私の指揮下に入ってもらいます」
「レヴォネ王女がお許しになられるでしょうか?」
「お二人は、私とレヴォネ王女殿下との連絡係と私の監視役です。伝令係として申請すれば、許可がもらえるはずです。ですので、許可が取れ次第、よろしくお願いします」
「承知しました」
2人はまた、影の中に戻って行った。
そして瑛二は、一旦自室へと戻り、部隊員の名簿と人数をまとめた後、その作成した書類を持って、レヴォネの執務室へと向かった。
瑛二がレヴォネの執務室の扉の前に着き、コンコンコンと扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
瑛二は、室内へと入室した。
「思っていたよりも早かったですね」
レヴォネから瑛二に部隊編成を命令してから、まだ4時間しか経過しておらず、現時刻は午後22時だ。
レヴォネは、そんな瑛二の仕事の早さに内心驚きつつも話を続ける。
「それでは、人員名簿の提出をお願いします」
「こちらになります」
瑛二は、レヴォネの机の上に、名簿を置いた。その名簿をレヴォネが丁寧に確認していると、瑛二に質問をする。
「名簿の中に「ヤタガラス」所属のイーディスとメアリーがいますね」
「はい。このお二人は、私とレヴォネ王女殿下との仲介役です。よって、万が一何かあったら報告できるようにお二人を連れていた方が良いと思い、名簿に名前を入れさせてもらった次第です」
「なるほど。わかりました。この2人を連れて行くことを許可します」
「ありがとうございます」
「ただし、何かあったらその二人を通して、私に報告するようにして下さい。これは厳守です。よろしいですね?」
「承知しております」
「では、特殊派遣連隊副連隊長久遠瑛二大佐および石原沙織中佐率いる特殊派遣連隊第七大隊および「ヤタガラス」諜報員イーディス・オブライエン大尉、メアリー・オブライエン少尉に対して、魔族領調査を命じます。また、この調査部隊の隊長を貴官に任命します。そして、調査への出発日は、明日午前7時とします」
「承知しました」
そう言って、瑛二はレヴォネに対して、敬礼をした。
「では、私はこれにて失礼します」
瑛二はそう言って、執務室から退室した。
その日の深夜、瑛二は密かに訓練場にいた。もちろん、警備兵がいないことはこの時、既に確認済みだ。
瑛二が、わざわざ深夜に訓練場に来たのには、理由があった。その理由とは、明日魔族領までの移動手段として、車を瑛二の固有能力“創造”で創ろうとしているのだ。馬車だと、車よりもどうしても時間がかかってしまうし、馬の餌代などがかなりかかってしまうのだ。だからこそ、大人数での移動に最適且つ、移動費がそれ程かからない車を創ろうとしているのだ。
その用意する予定の車両は、陸上自衛隊の7tトラック、11/2t救急車、16式機動戦闘車、軽装甲車、12式地対艦誘導弾、03式中距離地対空誘導弾、手術車、手術準備車、滅菌補給車である。また、これらの車両にはすべて、各小隊の番号が書かれたプレートを付けているので、当日(明日)になったら、そのプレートに書かれた小隊番号の車両に乗ることになる。そして、車両の他にも、整備所天幕2型を男女それぞれ用の風呂場として、野外入浴セット2型、作戦指揮や会議などを行うための業務用天幕2型、同じ業務用天幕2型だが、野営用に少しだけ改良した天幕を、必要な数だけ創る。
車両に関してだが、車両の運転ができるのは、瑛二ぐらいで、他の人は誰も運転をすることができないため“創造”で創ったエクサリオンゴーレムという、知能がとても高く、オートゴーレムのように人間と見た目がそれほど変わらないゴーレムを創造する。このエクサリオンゴーレムは、瑛二が、オートゴーレムの改良型して“メーティスに密かに頼んでいたものであったのだ。
あ、誤解をしないように言うと、瑛二の運転技術は、他の護衛仲間の元自衛官などに、伊集院家が管理する敷地内で教え込まれた技術である。
そしてひとまず、必要な物をすべて“創造”で創った後に、それらをすべて“ストレージ”に収納した。
瑛二はそのまま、誰にも見つかることなく部屋に着き、部屋に入った後、すぐにベッドに入り眠りについた。
翌日、午前6時50分───
城門前には既に、第七大隊の面々が整列していた。そして、雫、瑛二、沙織が正面に並び、最初に第七大隊大隊長である沙織が先に言葉を述べる。
「私は、第七大隊大隊長の石原沙織中佐である。我々はこれから魔族領への調査へと向かう。特連隊が編成され、一番最初に任務が与えられたのが、この第七大隊である。第七大隊としての初めての任務ということもあり、緊張や不安を持っているかもしれない。だが、これまでの訓練を思い出し、実戦において、諸君らの訓練の成果が活かされることを期待する」
次に、雫が挨拶をする。
「特殊派遣連隊連隊長の伊集院雫大佐です。先程、第七大隊大隊長の石原中佐からもあった通り、これが第七大隊として初めての実戦となります。しかし、今までの訓練を乗り越えた皆さんであれば、苦戦することはあれども、全員が生きてこの城へ戻って来ることを期待します」
次に、瑛二が挨拶をする。
「特殊派遣連隊副連隊長大佐の久遠瑛二です。第七大隊大隊長の石原中佐や連隊長の伊集院大佐からもあった通り、今回が連隊が編成されてからの皆さんの初任務となります。同じことを何度も言うつもりはありませんが、私からひとつだけ言わせて下さい。今回は、私も任務には同行しますが、全員生きてこの城に帰りましょう!」
『ハッ!!』
「それでは、各小隊の番号が書かれた車両に乗って下さい」
それぞれが各小隊番号の書かれた車両に乗り始める。ちなみに瑛二と沙織と榛名そして達也が乗るのは、ハンヴィーの軍用車であり、他の車両には搭載されていないような、様々な武装がされている。
そして城門が開かれたのと同時に、瑛二は無線を取り、各車に連絡をする。
『全車両搭乗員に通達。これより、魔族領への調査にむかいます。前車両に続いて下さい』
『了解』
瑛二たちの乗る車両が出発すると、後ろの車両が続々と、出発しだした。
「瑛二がいれば、大丈夫だとは思うけど、どうかみんな無事に帰って来てちょうだいね」
雫はひとり、城門から出て行く車両たちを見ながらそう願うのだった。
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