12話 予想外の正体
訓練所へ着いた二人は、正面へと行く。もう既に他の連隊隊員は、全員整列している状態だった。
雫が挨拶をする前に、瑛二が先に挨拶をする。
「みなさん、おはようございます。本日より訓練が始まりますが、その前に皆さんには、大切なお知らせがございます。これからみなさんには、新たな装備を支給致します。武器に関しましては、今までの剣などの武器と合わせてお使いいただいてもらってかまいません。では、これから支給致します装備品をお見せします“ストレージ”」
瑛二は“ストレージ”からまず、防弾防刃ベストにポケットなどを付け、拳銃やライフルのマガジンや無線機などを入れられるようにしている。その後に、拳銃の方をしまっているガンケースを取り出す。そしてガンケースのロックを解除して開くと、ガンケース内に仕舞われていた拳銃(SFP9)が姿を見せる。そして瑛二が防弾防刃ベスト……以降からボディアーマーとする。の使用方法などを説明した後に、いよいよ拳銃を隊員に渡す前に、軽く拳銃の説明をする。
「まずこれは、SFP9と呼ばれる種類の拳銃です。拳銃には、いくつかの種類が存在しておりますが、今回みなさんに使用していただく拳銃の実物は、こちらになります。また、これからこの拳銃の取り扱いについて説明致します」
拳銃の取り扱いについてここは念入りに説明をする。なんせ、これで事故が起こってしまっては大変なことになるからだ。
更に“ストレージ”からライフル(HOWA5.56)のガンケースを第七大隊以外の人数分、すべて取り出す。
「更に第七大隊以外には、こちらの銃火器も携帯してもらいます」
「副連隊長!なぜ、第七大隊だけその銃火器をいただけないのでしょうか?」
この反応は当然のものと言えるだろう。自分たちの大隊だけが、武器を貰えないとなるとこういう質問がくるのは仕方がないことである。だが、これにも瑛二なりの理由があるのだ。
「落ち着いてください。第七大隊だけにこれを渡さないのには、理由があります。まず、第七大隊がどのような任務に就くかはご存知ですか?」
「い、いえ……」
「では、第七大隊大隊長説明をお願いします」
「わかりました」
第七大隊大隊長である沙織が説明をする。
「我々第七大隊の任務は、主に情報収集などの斥候が主な任務となる。よって、できるだけ動きやすい格好が良い。ということですよね?副連隊長」
「その通りです。ですので、かさばる可能性のあるこの銃は、偵察部隊には、不向きではありますが、状況次第では、お渡しすることになりますので、そのつもりでお願いします」
「承知しました」
少し納得していないような返事をする。他にも、この偵察部隊には、指揮通信車などの車での移動がある場合があるためっていうのもあるため、ライフルといった銃は、どうしても邪魔になってしまうのだ。
その後、ライフル、そしてその後に渡した狙撃銃(H&K PSG1)の説明もする。
「以上が武器等の説明となります。質問がある方は、挙手をお願いします」
挙手する人はいなかった。
「いないようなので、説明はこれにて終了とさせていただきます。では続いて実際に射撃訓練を行いますので、私について来てください」
瑛二は、以前にレヴォネから連隊に使用できるようにしてもらった射場へと向かった。この射場を瑛二は、弓矢だけでなく、銃にも対応できるように改造していた。もちろん改造前にレヴォネに許可をとってからではあるが。
射場に着くと、実際に射撃を行う。それを見ていたみんなが、本物の銃声に驚く。その様子を見た瑛二は、耳栓を渡すのわ忘れていたことを思い出す。
そして自衛官が愛用するという高性能で、少し値が張るという耳栓を人数分用意して配った。
その後にまた再開する。射撃動作などを粗方説明し終える。
「これが射撃の動作になります。それでは試しに実際にやってみましょう。第一大隊から順番に始めてください」
各自がライフルを的に向けて構える。
「撃ち方始め!」
瑛二が発砲の合図を出すと、次々と撃つ。やはり始めての実弾射撃だったからか、的に命中しない者や命中しても的の端側(人型の的にしているので、かすり傷程度)に撃たさっていた。そのような感じで、他の大隊も射撃を行う。その中で、初めて射撃を行ったはずなのに、致命傷部分に的確に命中しているのが2人いた。それは、第七大隊大隊長の石原沙織と第四大隊副大隊長の田辺賢一であった。最初こそはまぐれ程度だと思っていた瑛二だが、2人はすべて的確に命中していた。それを見て瑛二は、顔には出さないものの、内心驚きを隠せないでいた。
(お二人とも素晴らしい射撃技術です。とても初心者とは思えませんね)
それもそのはず、この沙織と賢一の2人は、銃を扱ったのが、今回が初めてではないのだから。
そして、全員が一頻り撃ち終わったのを確認すると瑛二が訓練所の方へと招集をかける。
「本日の訓練は、これで以上となります。お疲れ様でした」
訓練は、初日ということもあり、4時間程度で終わった。そして4時間もやっていたおかげか、あの二人以外にも命中率が上がっていた。
その後、瑛二たちは一旦部屋へと戻った。部屋で、時間を潰してから食堂へ行って夕食を済ませる。食事を済ませた後、瑛二は雫と部屋に戻り、瑛二だけ再び部屋の外へと行く。
城の通路を歩いていると、瑛二の後ろに二人の影が見える。
「私にいったいどのようなご用件ですか?」
瑛二が話しかけたタイミングで、雲に隠れていた月が姿を見せ、月明かりにより、顔の判別ができなかった二人の顔が明らかとなる。その二人とは──
「沙織様、賢一様」
「我々に敬称は不要でございます。瑛二様の方が、現在の我々の権限よりも遥かに上ですので」
そう答えたのは、沙織だった。
この二人の身分は、当然瑛二は把握しているが、実はそれは表向きの身分であるのだ。そしてその身分とは瑛二も予想外のものであった。
「それはいったいどういう意味でしょうか」
「我々の身分は、ご存知ですか?」
「もちろんです。沙織様のお父様は公認会計士であり、お母様は外科医。賢一様のお父様は、一級建築士であり、お母様は小説家でしたね」
「はい。ですが、それはあくまでも表向きの身分であり、我々の両親はどちらも、情報保安隊であり、私たち2人は、情報保安隊と同率部署の諜報護衛隊の者です」
「まさかあなた方が諜報護衛隊の方々だったとは思いもよりませんでした。それで、私に身分を明かした理由は何でしょうか?諜報護衛隊は、伊集院家の中でも秘匿部署のひとつです。そんな諜報護衛隊の方々が、ただ身分を明かしたわけではないですよね?」
伊集院家の中でも情報保安隊と諜報護衛隊は、秘匿部署に区分され、その存在を知っているのは、伊集院家関係者でも、伊集院の当主クラスと瑛二などの限られた上級使用人しか、その存在を知ることを許されていないほどの超秘密主義の諜報部隊だ。そんな者達がただ身分を明かすわけがなく、何かしらの理由があってのことだろうと考えているのだ。
「地球でしたら、瑛二様に身分を明かすことなく、高校を卒業していたのでしょうが、この世界で入手した情報は、瑛二様か雫お嬢様にしか報告することができません。よって、私たちは身分を瑛二様に明かすことにしました」
「そういうことでしたか。私に身分を明かした理由はわかりました。身分を明かしたのは、私だけのようですので、お二人には、お願いしたいことがあります」
「何でしょうか?」
「お嬢様には、お二人の身分を明かさないでいただきたいのです」
二人の頭の中には ? の文字が浮かび上がった。どうしてかと思い、賢一が瑛二に尋ねる。
「なぜ、お嬢様に我々の存在を秘匿なさるのですか?」
「今のお嬢様が知る必要がないからです。これ以上、今の話に関する質問は認めません。よろしいですね」
「わ、わかりました……」
「承知しました……」
瑛二の説明に納得が出来なかったが、これ以上この件に関して尋ねると、ヤバいと感じた二人は、これ以上、瑛二にこの件に関して、尋ねることはなかった。
「その他に質問は、ありますか?」
「いいえ」
「ありません」
「なら私は、これにて失礼します。あ、お二人とも今回のように会うのはなるべく控えてください。それでは失礼します」
瑛二は、二人にそう言うと、廊下を歩きだしてある人物のところへと向かった。
廊下をしばらく進み、ある部屋の中に入る。その部屋とは、物置部屋であった。そして瑛二は、ある人物の名前を呟く。
「イーディスさん。いらっしゃいますか?」
「ここに」
影の中から出て来たのは、レヴォネ直属諜報部隊「ヤタガラス」の諜報員の一人であるイーディスであった。普段は、メイド姿で瑛二の前に現れるが、今回は、いつものメイド姿ではなく「ヤタガラス」の時の服装だった。
「イーディスさんに聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「何でしょう」
「私が殺した人たちの遺体は、まだ召喚の間にありますか?」
「いえ、流石に片付けないでいると、かなりの死臭が発生しますし、アンデッドを生み出す原因にもなりますので、極秘裏ではありますが、既に埋葬済みです」
「そうでしたか。では、次にお聞きしたいことがございます」
「はい」
「イーディスさん。貴女がレヴォネ王女殿下に命じられた本当に任務は、私とレヴォネ王女殿下の仲介役などではなく、私やお嬢様の監視なのではないですか?」
イーディスは、予想外の質問に一瞬だけ、目を見開いた。だが、瑛二がそれを見逃すはずがなく、更に問い詰める。
「貴女の口から聞かずとも、貴女の記憶から、私のユニークスキルで読み取ってもよろしいのですよ」
「戦うつもりですか?」
両者ともお互いに殺気を向け合う。だが、両者とも、すぐに殺気を消す。
「私はただ、確認がしたいだけなのです」
「……わかりました。お答えしましょう。結論から言うと、瑛二様のおっしゃった通りです。ですが、仲介役という任務もまた、本当の任務であることには、変わりありません」
「そうでしたか。イーディスさんにひとつ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何でしょうか」
「レヴォネ王女殿下の「ヤタガラス」に所属しつつ、私の諜報員になるつもりは、ありませんか?」
「本気でおっしゃっているのですか?」
イーディスは、瑛二を少し睨みながら言う。
「確かに主人を裏切る行為は、普通はしないでしう。ですが、イーディスさん。貴女は、違うのではないですか?」
「………」
イーディスは、少し間黙り込む。
「これはあくまでも私の予想にすぎませんが、諜報活動をしているうちに、レヴォネ王女殿下が何かしらの計画を企てていることに気付き、私たちがレヴォネ王女殿下の計画に乗せられることを危惧していたのでは?」
「その通りです。完全に情報を掴むことはできませんでしたが、何らかの計画を企てていることは、事実です」
「その事実を知っているのは?」
「私ともう一人の諜報員だけです」
「そういえば、もう一人いると言っていましたね」
瑛二は、以前にイーディスの他にもう一人、瑛二付きの人物がいたことを思い出した。
「今日はいますし、もし瑛二様さえよろしければ、紹介しましょうか?」
「今、いるのですか?」
「ええ。紹介しますね。メアリー、出て来てちょうだい」
影の中から、メアリーと呼ばれた女性が出て来た。
「初めまして瑛二様。先程、姉のイーディスより紹介されました、メアリー・オブライエンと申します」
「姉妹揃って「ヤタガラス」に所属しているのですね」
「ええ」
「瑛二様。私は、瑛二様の下につきます。イーディスお姉ちゃんの心配はわかるけど、今は、レヴォネ王女の企みがどんなものなのかを知ることが重要だと思うよ」
「そうね。瑛二様、姉妹共々、瑛二様の配下となりましょう」
「本当によろしいのですね?」
「はい」
「必要な時には、私たちをお使いください」
「そうさせていただきます。では、私はそろそろ戻らないと、お嬢様に怪しまれてしまいますので、戻らせていただきます」
「では、私たちもこれにて失礼します」
「おやすみなさいませ、瑛二様」
二人は、影の中へと戻って行き、瑛二も物置部屋から自室へと戻った。
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