マーサ・ウインターside04
「何故、私に声がかかったと思う?」
「···瞳の色、ですか?」
「そうだ。
《迷いの愛し子》に選ばれた令息は8人、
その内、3人は色ありの瞳だった。」
『8人も···思っていたより随分多い···』
「1人は、侍る事すら辞退した。
1人は、形ばかりの参加。
1人は、争いに身を置いたが我を忘れる程ではなかった。
そして、《黒い瞳》を持つ5人は
全員正気とは思えない状態になった。」
「《純アース人》は、《迷いの愛し子》様に
傾倒してしまうと言うことでしょうか?」
「早い話そういう類いの事だ。
ただ、《純アース人》だけでなく
色ありの瞳を持つ者にも、血脈の濃さが
関係しているのではないかと先代は考えられた。
争いに身を置いた1人は一代前で
形ばかりで参加した1人は二代前で
辞退した1人は四代前で
《純アース人》の血脈が途絶えていた。
そして、詳細は教えていただけなかったが
語り継がれている話の中にも
そうだと思われる内容があったそうだ。」
「······何故、辞退されたのですか?」
ランドの眉がピクリと上がり
面白い物を見つけた子供のような表情に変わった。
「嫌悪感だ。
わかって聞いているのか?」
「はい。たくさん手がかりをいただきました。」
「ははっ!
ロシュの言う通り、君は聡いね!
見目麗しいと説明する手前
私が当事者だとは言いにくくてね!
そうだ、私が色ありの瞳の内の1人
侍る事を辞退した見目麗しい令息···だった!」
「ふっ、今も十二分に見目麗しいままです。」
マーサの言う通り、ランドの見た目は
誰もが振り返ってしまう程の見目麗しさだ。
様々な状況を鑑みれば、30代半ばだろうが
どう見ても20代後半にしか見えない。
「はははっ!ありがとう!
気づかぬならそのままでも問題ないと思ったが
当事者として見たままを話していると
気づいてもらえて良かったよ!
その方が真実味が出るだろ?
他に何か質問や疑問はあるかい?」
「嫌悪感、と仰りましたが
《迷いの愛し子》様とどういったやり取りが?」
「私は···君の境遇に近い育ちでね?
逃れられない悪夢の中を毎日必死に生きていた。
あの日は、貴族家やそれに近い家の令息が
ひと所に大勢集められてね···
《迷いの愛し子》がケーキでも選ぶように
舌舐めずりしながら、淫猥な笑みを浮かべ
気に入った男を選りすぐったんだ。
そして、当時の国王陛下はこう言った
選ばれた者の家には、破格の報酬を与える!と···
早い話、息子の身を売れって事だよ。
まぁ、正気を失っていた者たちは
名誉な事だと喜んでいたけどね?
私には、気持ちの悪い思いしかなかった。
それで···その場で家を捨てたんだ。」
「···そのお気持ち、痛いほど理解できます。」
「君ならそう言ってくれると思った。」
お互いの心が容易くわかってしまうほど
2人の境遇は重なっていた···
それゆえ、お互いの心に寄り添えた事は
不幸中の幸いなのかもしれない。
「では、ランド様が《迷いの愛し子》様に
傾倒しなかったという事で
先代様からお声がかかったのですか?」
「その通り。事が終わってすぐ
正気を取り戻された先代に見つけ出してもらい
何もかも失い浮浪者となっていた私は
その誘いに、よだれを垂らして飛びついたよ。
今思えば、生まれ育った家や《迷いの愛し子》
···私の生きてきた全てに対する
意趣返しのような気持ちもあったんだと思う。」
「···そのお気持ちも同じです。」
契約を結ぶ際、家族に思いを馳せ
躊躇するような事は一瞬足りともなかった。
家族に対する思いは枯れてしまったのだ
一滴すら残らないほどに。
『公爵家が私と関わらない事を条件に
借金を完済してくれるのだとしても
あの人たちは、私に感謝する事も
申し訳なく思う事も決してない。
あの人たちは、何も変わらない何も変われない···
同じ日々を過ごし、同じ破滅へ進むだけ
それがわかっているのに契約を結んだ私は···
ランド様と同じように、家を捨てたんだ···』
「···自分を卑下する必要はない。
今まで、君の頑張りに対する正当な報酬は
君の知らないところに隠されていたんだ。
人の物を盗めば当然報いを受ける事になる···
君の溜まりに溜まった報酬が返ってきた、
ただそれだけの事だ。
当然の権利だと思って受け取り
幸せになっていいんだ···」
「はい···。」
ランド自身にも言い聞かすよう語られた言葉。
2人共、頭では当然の取捨選択だと思いながら
心にはわだかまりの欠片が住みついていた。
『道を間違えたとも、やり直したいとも思わない。
だけど、家を···家族を捨てたという事実により
生まれてしまった消えようのないこの思いは
戒めとして、心に沈めて置いておく···
家庭を持たないという誓いのためにも。』
マーサの話
次で終わったらいいなぁー
って思ってます!
補足になってしまいますが
マーサもランドも
「自分が幸せになるため、家族を捨てた人間」
という事実にわだかまりのような
苦い思いが残ってしまいましたが
実際の家族に対して
罪悪感のような気持ちは全くないです!
たぶん!




