マーサ・ウインターside03
「さて、ここから先の話は
公爵家に仕える他の使用人にも秘密の話だ。
知る事を許されるのは、公爵家の血縁者
そして、その方々に最も近くで仕える者のみ。」
「承知いたしました。」
「まず前提として···
公爵家では、身元の確かな者を雇うため
代々、前任者の血縁から使用人を選定してきた。
そして、身元が不確かな他国の血を避けるため
強制ではないが、使用人たちに
《純アース人》との婚姻を勧めていた。
つまり、使用人には《黒い瞳》を持つ
《純アース人》ばかりを雇用していたんだ。」
『私の瞳はベビーブルー
ランド様の瞳はダークブラウン···』
「ここからが本題だ。
私も先代に聞いた話なのだが···
アース国では、度々混乱が起きていて
その中心には《迷いの愛し子》の存在があったそうだ。」
マーサのあまり変わらない表情が崩れる。
この国で混乱が起きた話など聞いたことがない。
と言うよりも、まず初代王妃以外の
《迷いの愛し子》の話を聞いた事がなかった。
「ははっ!さすがに表情が崩れたね?
知らないのも無理はない
王族が箝口令を敷いていたからね。」
『《ヒトノクチニトハタテラレヌ》と言うけど
箝口令で、そこまで言論統制できるの?』
「公爵という王家に最も近い地位ゆえ
箝口令が敷かれているとはいえ
《迷いの愛し子》が現れた際の
大まかな時期や出来事などは
代々当主に語り継がれているそうで
《迷いの愛し子》を取り巻くように
混乱が起きていたというのも
語り継がれた話の内の一部分だと聞いた。」
『この国での公爵位は、ジェラート公爵のみ。
その始まりは初代国王陛下のごきょうだい···』
「現当主が、まだ学園にも通われていない頃
およそ百年振りに《迷いの愛し子》が現れてね?
その現れた《迷いの愛し子》は
この世界に早く馴染むため、という名目で
見目麗しい令息を侍らす事を望んだんだ。
その後、選ばれた者たちは人が変わったように
《迷いの愛し子》の寵愛を競って争い始め
その影響は、その者たちの家にまで及んだ。
公爵家にも間接的に被害があったと聞いている。
結局《迷いの愛し子》が姿を消したことにより
令息たちは熱病が治ったかのように
冷静さを取り戻し、家同士の争いも収束したんだけどね。」
「···熱病は《迷いの愛し子》様が原因という事ですか?」
「代々語り継がれてきた内容も考慮された上で
先代はそう判断された。」
「···単に《迷いの愛し子》様が魅力的だった
と、いうわけではないという事ですね?」
「そのような人物ではなかった。
先代はのちのち、外見内面のどちらも
褒められたものではなかったと仰っていた。」
『《迷いの愛し子》様の地位は
国王陛下よりも上と定められている。
神にも等しい存在と、王族が決めた事だ。
ランド様の仰り様では、地位を求めた結果
と、いう線もないのだろう···』
「姿を消されたとの事ですが
《迷いの愛し子》様は、アース国から出られたのですか?」
「いや、言葉の通りだ。
現れた時と同じように、突如姿が消えた。」
「《迷いの愛し子》様は
他の世界から来られるのでしたね···
この世界に来る事ができるのであれば
他の世界へ行く事も、不思議ではないですね。」
ランドの言う殆どの事が、夢物語のようで
マーサは、話を素直に飲み込めなかったが
《迷いの愛し子》がこの世界に存在する事自体が
夢物語のように、不思議な事だと気づき
それならば何が起こったとしても
おかしくないと、やっと納得できた。
「そういう事だ。そして、争いが収まった後
《迷いの愛し子》が争いに関係していた事は
当時の国王陛下によって箝口令が敷かれ
関係者や、異論を唱えた者の中には
国外追放や、取り潰しとなった家もある。
先代は···心の内を黙っていられない方でね
《迷いの愛し子》の存在を危惧し
国王陛下に進言したことで、ご不興を買い
現当主の成人を待ち、爵位を譲るよう命じられたのだ。」
「ジェラート公爵様は、若くして
先代様の後を継がれたと耳にしておりましたが
そのようなご事情がおありだったのですね。」
「ああ、現当主···ルイス様は
幼き内に、成人後すぐ当主となる事が決まり
並々ならぬ努力をされたんだ···
私は、ルイス様が次期当主となる事が
決まってすぐ、先代に声をかけていただき
ルイス様の侍従として、そばで見守ってきた。」
『親の爵位と共に、職も引き継ぐ事が多いが
60歳の《テイネン》が一般的なこの国で
18歳の若さで、公爵当主と宰相を継がれた事は
想像できない程の重圧があっただろう···』
この話に出てくる《迷いの愛し子》は
TLっぽい逆ハーレム系の
異世界転移を読み過ぎた子です。
本人的には悪代官みたいな
行動をするつもりはなかったのですが
周りにいた《純アース人》が
勝手に望みを察して
その方向へ進んでしまいました!
傷ついている者がいるとは
浮かれきって気づこうともせず
存分にその立場を
楽しんでしまいました!
たぶん!




