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マーサ・ウインターside02

「マーサさん···とお呼びしてもいいかな?」


「はい。」


「君もソファーにかけて?」


逃れる事ができなかった不幸な人生で

初めて訪れた未来への分岐点

己の身につけた全ての術で挑むべく

マーサはソファーに腰掛け姿勢を正した。


「これから話すことは誰にも話してはいけない。

そして、契約を結ぶまでは大まかな事しか話せない。

無理だと思った段階で断ってくれ。

いいかい?」


「はい、承知いたしました。」


「初めに···求めているのは普通の侍女ではない。

そのため、条件がとても厳しいものになる。

勝手ながら身辺を調べさせてもらったが

今のところ、君は条件に一致している。

残りの条件で一番大切なのが

生涯をかけて忠誠を誓えるか?という事だ。

結婚や出産で侍女を辞めることは許されない。」


「生涯とは、言葉のままでしょうか?」


「そうだ。死ぬまでずっと、という意味だ。」


「······すでにご存知の事かと思いますが

私には莫大な借金があり

卒業後は、娼館に入る事が決まっています。

ロシュ先生が大丈夫と仰っていた内容を

お聞きしても良いでしょうか?」


「ああ、聞いている。

契約を結べば、公爵家が君を全てから守る。

ご実家からも、借金取りからも、娼館の経営者からも。

もちろん、それだけでなく

月々の給金を含め、破格の厚遇を約束する。」


「もう一つ···お聞きしてよろしいでしょうか?」


「一つと言わずいくつでも。

答えられる事は全て答えるよ?」


「ロシュ先生は···契約すれば

家庭を持てない事をご存知なのでしょうか?」


「ああ、知っている。

どうしてもそこに抵抗がある人間が殆どだから

面談までの選考の一つとして話している。」


「ありがとうございます。契約します。」


「え、え、えぇっ!?!?

もう???もう決めるの???

もっと聞かなくていいの???」


「はい。

ご存知の通り、私は四面楚歌の状態です。

娼館に行けば、家庭を持つことは望めません

恐らく長く生きる事すらできないでしょう

それに比べれば何の問題ございません。」


「しかし···他にも条件があるのだが···」


「犯罪行為に加担することはできませんが

その他の事ならばご意向に従います。

私のように、他者との関わりがない者の方が

ご都合がよろしいのでしょう?」


「はははっ!参った!

その通りだ、そういう人間を探していた。

ただ、それだけでは選んでいない。

そのような状況に置かれながらも

清廉潔白でいられる人間···そんな者を探していたのだ。」


「···私はそれに足る人間なのでしょうか?」


他者と関わる事なく生きてきたマーサには

自分がどういう人間か判断する基準がなかった。

学園外では、人間として扱われなかったのだから

わからないのも無理はない。


「君の事は、資料で見た事しかわからない。

しかし、ロシュの推薦だ。

君がそれに値する人間だと信じている。」


「ありがとうございます。

では、本当に何も問題ございません。

契約と詳細をお教えください。」


「その前にもう一つだけ確認させてもらう。

生涯をかけて忠誠を誓ってもらうのは

公爵家ではなく、主···お嬢様ただ一人。

お嬢様以外は、心に置けないという事だ。

それが例え、王家や《迷いの愛し子》など

公爵家の力が及ばない人物であっても。」


「·········。」


マーサは少し動揺した。

ロシュの他に、人生で感謝の気持ちを持ったのは

《ギムキョウイク》を発案した《迷いの愛し子》

そして、それに従った国···つまり王族なのだ。


「君の育った環境を考えれば

王家や《迷いの愛し子》に

恩を感じているのではないかと思ってね···

契約を結べば、そう思う事すら許されない。

それでも誓えるかい?」


「···誓います。

仰る通り、王家と《迷いの愛し子》様には

感謝の気持ちを持っております。

しかし、《ギムキョウイク》は

アース国に住む全ての子供が対象。

私のみに手を差し伸べてくれる

公爵家···主への感謝とは、比べる事もできません。」


「ん、なるほど。

よくわかった、ありがとう。」


ランドから契約書を受け取り、目を通せば

雇用主の欄に拙い文字でクロエ・ジェラート

と、すでに記入されていた。


『この方が私の主···

何処まで理解されているのか···』


文字だけで幼さが見て取れ

内容が理解できる年齢とは、とても思えなかった。


『おこがましい思いではあるけれど

クロエ様を輝かしい未来へと導けるよう

担い手の一人として誠心誠意仕えよう···

ロシュ先生がそうしてくれたように。』


マーサの手は、迷いなく契約書に署名した。


「さて、これで契約締結だ!

同じジェラート公爵家に仕える者として

よろしく頼むよ?」


「こちらこそよろしくお願いします。」

契約書にはクロエの署名がありますが

クロエは書いたことを全く覚えていません!


「クロエの事を守ってくれる人を

ランドに見つけてきてもらうね?」


「???うん!!!」


「じゃあ、ここにお名前を書いてごらん?」


「???うん!!!」


「上手に書けたね!

では、見つけてくれるランドにこの紙は預けるよ?」


「???うん!!!」


って感じです!きっと!

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