エピソード38
「コホンッ!では、気を取り直して···
先程、この街は国境から
少し進んだところにあるって言ったでしょ?
ここは、追放者たちとの住み分けのために
つくられた街なんだ。
保護し始めた頃には、強制力の支配について
何もわからない状態だったからね···
ここからガイル帝国の中心部に進むには
崖に挟まれた一本道を通るしかなくて
昔はそこに検問所も設けられていた。」
『···その頃の追放者は、アース国どころか
ガイル帝国でも、普通には住めなかったのね···』
「今は、この街で3ヶ月の隔離が終われば
ガイル帝国のどこであろうと
自由に移動する権利が与えられているけど
そのまま、この街に定住する者も多いみたい。
ここには同じ境遇で来た者も多いし
祖国への未練もあるのかもしれない···」
「···その方たちの気持ちがよくわかります。」
クロエにとっての未練は
祖国というより、家族との別れだが
少しでも近くに住みたいと思う気持ちは
痛い程よく理解できた。
例え、二度と会うことができないのだとしても···
「アイルと公爵の事を考えている?」
「す、すいません···
またお話を途切れさせてしまって···」
「ううん、いいんだ。
《迷いの愛し子》に関する事しか話さないなんて
寂しすぎるもの···私だって知りたいんだよ?
貴女がどんな風に感じて、どう思うのか。」
そっと、ハーツに頭を撫でられ
クロエの鬱々としかけた心が少し軽くなる。
「ハーツ様···ありがとうございます。
仰る通り、アイルと父の事を考えていました。
ちょっと感情移入し過ぎたみたいです···
二度と会えなくても、少しでも近いこの街に
私も住みたいなと、そう思ってしまいました···」
「う~ん···根拠の無い事は
あまり無責任に言いたくないんだけど···
あの2人はあきらめないと思うよ?
クロエ嬢の事。
私は二度と会えないとは思っていないんだ。
なんの確証もないけど···私を信じてくれる?」
「···はい、信じます。」
ハーツは確証がないと言うが
その場しのぎで無責任に発言しているところを
クロエは一度も見聞きしたことがない。
皇族という立場ゆえなのか
自分の発言に、とても慎重な人だから
クロエは自然と信じる事ができた。
「ふふっ、ありがとう。
では、続きを話すね?
強制力の支配に《ニホンショク》が
関係しているとわかったのは
その初期の追放者たちのおかげなんだ。
追放者を保護して3ヶ月ほど経った頃
多くの追放者から、強制力の支配を
感じなくなったと報告があってね···」
「強制力の支配は、常に感じているものなのですか?」
「うん、そうらしいんだ。
《迷いの愛し子》の望みが、追放者に対する
直接的なものでなかったとしても
強制力の支配を、常に漠然と感じているみたい。
ただ、人によって感じ方はそれぞれで
頭が重いとか、ぼーっとするという表現だったり
思考にもやがかかるという表現だったり
心が檻に入れられたようだという表現だったり···
そんな状態がずっと続いているものだから
感じなくなると、すぐわかるらしいよ?」
「そんな状態が···」
「ただ···一部の追放者はそのままだった。
それで、その原因を解き明かすため
長きにわたり、追放者たちの協力のもと
思想や生活について調べ続けたんだ。
それで、やっとわかったのが《ニホンショク》」
『食生活まで事細かにお調べに···』
「強制力の支配が継続していた追放者たちは
《ニホンショク》が恋しかったみたいで
行商人に頼んで必要な食材を手に入れ
《ニホンショク》を食べていた者ばかりだったんだよ。
毎日ではなく、たまにという程度だったけど。」
「アイルと父もガイル料理が続くと
《ニホンショク》が食べたくなったと
間食に簡単なものを食べていました···
特に《ナットーゴハン》を···」
すっごい話し込んでますが
私はずっとマーサとルイズの事が
気になっています!
きっとお通夜のような時間を
過ごしているんだと思います!
マーサは本当なら隔離されるんですが
ここにクロエが滞在する間だけでも···
と、ハーツが気をきかせた結果
ルイズが緩い監視をしています。
所謂とばっちりというやつです!
クロエはバカではないのですが
並列思考が苦手なので
ハーツが配慮してくれるあれこれに
全然気づいていません!
良く言えば、目の前の事に一生懸命
誠実に対応するタイプって感じです!




