エピソード32
「国境に着くまでに伝えなければならない···
と、言っていたことは覚えているかな?」
「はい。」
「流れで察しがついているかもしれないけど
この国境についての話なんだ。」
ハーツに手を引かれ、国境を跨ぐ橋のこちら側
公爵領にある国境門へと進む。
アース国は非常に閉鎖的な国の為
他国へ旅行に行くという文化がない。
ガイル帝国と貿易を行っている公爵家の元娘で
アース国王太子の元婚約者であったクロエも
他国には行ったことがなく
国境に来たのもこれが初めてだった。
「この場所で私が知るべきことがあるですね?」
「知っていて欲しいって感じかな?
母君を大切に思っていた父の心を
実際に見てもらいたかったことと···
変えてしまう理由も伝えておきたかったんだ。」
「変える···??」
「私たちが8歳の頃、祖父が亡くなってね
母君もすでに旅立たれていたから
本当はここを強化しておく必要はなかったんだ。
でも、忘れ形見の姪が王太子の婚約者となり
妹が眠る場所でもある事から
父は、アース国との友好関係を続けると
自分自身に誓いを立て、その証として
この国境をそのままにしていたんだけど···」
『???』
「忘れ形見がこちらに来るなら話は変わる。」
「あ···」
「混乱に乗じて攻め込もうって話じゃないよ?
逆の話で···もしアース国が事を起こせば
この国境はガイル帝国にとって急所となる。
だから···今までの役割とは逆になるよう
急ぎ変える必要があるんだ。」
「母を守るために強化された国境が
ガイル帝国を脅かす可能性があるんですね···」
「そうなんだ···
両国を直接繋ぐのは、国境に架かるこの橋のみ。
橋の両端に同じ造りの国境門があるんだけど···
祖父が暴挙に出た時を想定して
国境を封鎖するため頑丈に造られた門扉は
どちらも、公爵領側へ内開きになるよう付けられているんだ。」
「不勉強で申し訳ございません···
開き方でそんなに違いがあるのですか?」
「ふふっ、女性はあまり知らないかもね?
蝶番という金具で扉を取り付けるんだけど
扉を自分側へ引く方にそれが付けられるんだ。
ここの国境門はどちらも公爵領側に。
取り付けられる、ということは···」
「取り外すこともできるっ?!」
「そう、そういう事!
あと、扉を開く力や閉じる力だけで考えても
内開き側の方が圧倒的に容易くできてしまう。」
クロエはなるほど!と納得しつつも
ジェラート公爵領に有利過ぎる造りに
皇帝の秘められた想いをひしひしと感じた。
「この扉だよ。今は開いていて
蝶番はあまり見えないけど···立派でしょ?」
目の前の、大きな石を積み重ねるよう造られた
立派すぎる国境門には、それに負け劣らない
堂々たる鉄製の扉が取り付けられていた。
『実際には何も起きなかったけど
この扉は、私たちを守るため存在していた····
お母様にも···見せてあげたかったな···』
「この扉は捨てずに···ガイル帝国側から
内開きになるよう付けるのですか?」
今まで守ってくれていた扉が
自身が国境を越えることをきっかけに
無くなってしまうことが心苦しく
そうあってくれと思っての発言だった。
「大正解!!」
アイルの大きく無骨な手ではない
長い指のついた少しひんやりした手が
クロエの髪を梳かすように撫でた。
一瞬の内にそれは終わったが
触れられた部分だけが
熱を持っているような気がした。
『驚きの方が勝る接近の仕方じゃなくて···
いつもこういう接近なら······って!!
私ったら···なんて想像をして···っ!!』
いつものハーツのそれとは違う
自然な接近を、クロエは無意識に受け入れ
寧ろそうして欲しいとすら思ってしまった。
『ふ~ん···なるほど?』
1人で赤くなりじたばた悶えているクロエは
ハーツが満面の笑みで自身を見ているなど
全く気づかないのであった···。
出ることのない裏話ですが
クロエは基本可愛い人がタイプです!
ロベルトの顔とか
見た目の割に甘えん坊なアイルとか
クロエ基準の「可愛い」に弱いのです!
ハーツのちょっとわざとらしい
強引な愛情表現に少し引いてましたが
無邪気に頭を撫でてきたハーツに
ギャップ萌えしてる感じです!
※タイトルの話数を変更しました!




