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第1部「マントラ・ウォーズ ~超常のレジスタンス~ 能力覚醒編」

第2部「マントラ・ウォーズ 伝説の剣を手に入れろ編」

も是非お読みください。

 ラーマの麒麟本部施設から遠くない所にある、何の変哲もない平屋の住宅。

 その家の妻は、朝日が昇るとベッドから起き出して、朝食の準備を始めた。

 妻の隣で寝ていた夫は、妻が起きたことに気付いたが、再び目を閉じて眠りについた。


 30分後

「あなた、そろそろ起きた方がいいわよ。

 今日は慰問に行く日でしょ?」

 妻のシーラがキッチンから寝室の夫に声をかけた。


「……そうだ。もう、起きるよ。」

 夫のニキルは、ベッドから出ると、両腕を天井に向けて大きく伸びをした。


「朝食は出来ているわよ。」

 シーラは食卓にパンやコーヒーを並べながら言った。


「ああ、ありがとう。いつも、すまんな。」

 身支度を整えたニキルは、食卓に着くと湯気が上っているコーヒーカップを手に取った。


「アシュウィン、大丈夫かしら?」

 シーラも食卓に着くとニキルに訊いた。


「大丈夫って?」


「ほら、自分に兄弟がいたなんて……それも、その人物がガザンとはね。

 少なからず、ショックを受けているでしょう。」


「そうだな。兄貴のだらしなさが子供たちに迷惑をかけている。

 ただ、アシュウィンは楽天的な性格だし、ガザンの考えを聞いたらしいから、前向きに捉えていると思う。」


「だといいけど……」


「心配かい?」


「ええ。豪放磊落だから大丈夫だとは思うけど、つい心配しちゃうのよね。」


「我が子みたいなものだからな。」


「孤児院の子供たちも我が子みたいなものよ。」


「確かにそうだ。近衛兵の無益な殺生のために孤児になった子供たちをこれ以上増やさないようにしなければ。」


「そうね。

 子供たちに会ったら、よろしく伝えてね。」


「よし、そろそろ行ってくるよ。」

 ニキルはコーヒーを一気に飲み干すと立ち上がった。


「気をつけてね。」


「ああ、行ってきます。」

 ニキルは家を出ると、馬にまたがり、孤児院に向かった。


 離れた所でニキルの自宅を監視していたガザンは、ニキルが自宅から出てくると、気づかれないように距離をとって後をつけた。

 叔父貴は今でも月に1回孤児院に通っているんだ……


 馬を走らせていたニキルは、孤児院にたどり着くと馬から飛び降りた。

 学校の体育館くらいの大きさの孤児院からは、子供たちの屈託のない笑い声が外まで響いてきた。

 見上げると、孤児院の正面玄関の真上に掛かっている木製の看板には「アデリー子供園」と彫刻されていた。

 10歳くらいまでの幼い子供たちは、ニキルが来たことを知ると、わいのわいの言いながら外に飛び出して来た。

「あっ!おじちゃんだっ!」

「こんにちは!」

「それ、プレゼント?」


「ああ、そうだ。園長先生に渡しておくから、後でもらうといい。」

 子供たちに取り囲まれていたニキルは、フルーツやお菓子が詰まった大きな包みを馬から下ろした。


「やったぁ!」

 幼い子供たちは小躍りして喜んだ。


 孤児院の中から窓越しにその光景を見ていた12、3歳くらいの子供たちは、変なプライドがあるのか、幼い子供たちに気付かれないように、声を立てずにガッツポーズをとっていた。


 子供たちがニキルの持っている大きな包みを興味津々で見ていると、顔に深いしわが刻まれた老人が玄関からゆっくりと出てきた。

「やあ、ニキル。」


「園長、変わりはないですか?」

 ニキルは、そう訊ねながら、土産の詰まった大きな包みを園長に手渡した。


「いつも、すまないなぁ。」

 園長は、ニキルから包みを受け取ると、ずっしりとして、思いのほか重量があったのか、少しよろめいた。

「沢山頂いたみたいだな。子供らも喜ぶ。本当に有難い。」


「こんな事くらいしか出来ませんから……」


「何を言うんだ。ニキルたちのお陰でわしらは随分と助かっている。

 さ、立ち話もなんだから、中に入ってくつろいでくれ。」


「じゃあ、少し休ませてもらいます。」


「どうぞ、どうぞ。」


 2人は強い日差しを避けるように孤児院の中に逃げ込んだ。

 すると、2人を追いかけるように、子供たちも小走りで戻って行った。


「子供たちは日々成長しているようですね……」

 ニキルは事務室の中まで響いてくる子供たちの笑い声を耳にしながら言った。


「そうだな。

 ……ただ、夜中寝ている時に突然泣き出す子や遊んでいて急に落ち込んだりする子もいる。

 心に負った傷はなかなか癒えないものだ。」


「そうですか……

 早く終わりにしないとならないですね。この戦い。」


「ニキル、頼むぞ。ここにいる皆の願いだ。」


「その言葉、この双肩に重くのしかかりますよ。」

 ニキルは自分の肩に手を置いた。


「あまりプレッシャーに感じないで、頑張ってくれ!」


「どっちですか?」


「どっちもだよ。」


「……はい。

 ところで、奥様はお出かけですか?」

 ニキルは辺りを見回すような仕草をした。


「ああ。援助してもらっている財団に挨拶に行っておる。」


「繋がりが重要ですよね。うちの組織も同じです。」


「生命線だな。」


「私たちは人々の厚意の上に成り立っていますから。

 ……この孤児院が建って、そろそろ20年くらいでしょうか?」


「そう。もう20年になるなぁ。

 ここが出来た頃は経済的な理由で孤児になる子供が多かったが、今は内戦孤児がほとんどだ。」


「……すみません。」


「何故、君が謝る?命を賭して戦っているのに。」


「はい……」


「ニキルたちがいなければ、この国はどうなっていたことか……」


「そう言っていただけると、我々も報われます。」


「心底そう思っている。私も妻も。」


「ありがとうございます。

 これまで我々と近衛兵団は、良くも悪くもパワーバランスを保ってきたような状況に陥っていました。

 そもそも、アグリム大師とバジット卿の能力が拮抗していることに端を発しているんだろうと思います。

 それが原因で膠着状態となって、内戦状態が長期化してしまった。

 それが、ここに来て戦況が大きく動いています。」


「何かきっかけでもあったのかな?」


「……私の甥っ子が現れたからかも知れません。」


「甥っ子って、アシュウィンと言ったか……」


「ええ、そうです。彼が現れて、この国の命運が動き出したかのように感じます。」


「いい方向に、だよな?」


「……そう信じています。」


「うん。

 君の家族は変わりないか?シーラとインジゴは?」


「おかげさまで、2人とも変わりなく。」


「そうか。今度、機会があれば、シーラとインジゴにも顔を出すように伝えておくれ。」


「是非。」


 その後、園長と孤児院の子供たちに別れを告げたニキルは、孤児院から出て来て馬にまたがった。


 ん?

 ようやく出てきたか……

 そのまま、来た道を戻って帰るはずだ。

 ガザンは離れた所で孤児院を監視していたが、ニキルが現れると馬に飛び乗り、再びニキルの後を付けた。

 既定の行動だ。やはり、叔父貴は直接本部に戻る。

 ニキルから離れて、その後を追っているガザンは、ニキルの背中をずっと見つめていた。


 帰路に着いたニキルは、どこに寄ることも無く、ラーマの麒麟の本部施設に戻った。


 ひと月後に実行することになるな……

 ガザンの頭の中にはアンシュの顔が浮かんでいた。

 ニキルの行動を確認し終えたガザンは、踵を返すと近衛兵団の中央基地に戻って行った。


 近衛兵団中央基地内の一室


 あまり日の差さない薄暗い室内で、ガザンとアンシュが、顔を合わせてイスに座っていた。


「そうですか。その孤児院へ行く時か帰る時が狙いということですね。」


「……そういうことだ。」


「分かりました。そこで殺ります、ニキルという副官を。」

 気持ちが高揚したアンシュの顔は、薄暗い室内で判りにくかったが、ほのかに紅潮していた。


「俺が出来ることはここまでだ。」


「一緒に行かないんですか?」


「そのつもりだ。一緒に行ってほしいのか?一人じゃ不安かな?」


「そ、そんなことは無いですよっ!」


「じゃあ、最善を尽くしてくれ。健闘を祈る。」

 付き合いは無いといっても叔父は叔父だ。見るに忍ばん……

 まあ、客観的に考えれば、叔父貴が勝つ可能性の方が高いか……

 ただ、奇襲を仕掛けるからな。叔父貴の瞬間移動を防ぐことが出来れば、勝敗の行方は予断を許さないだろう。

 ガザンは一刻も早くこの件から手を引きたかった。

「実行当日の朝は、俺もここに顔を出す。

 それまで、修練とシミュレーションを欠かさずにな。」

 ガザンは、そう言うと、両手でアンシュの両肩をポンと軽く叩いた。


「分かりました。任せてください。」

 アンシュは自分の脇に立て掛けてあった『羅刹黒鯨』を手に取ると勢いよく立ち上がった。


 ガザンもゆっくりと立ち上がると、アンシュと目を合わせることなく部屋から出て行った。


 僕一人で十分だ。邪魔が入らないから、その方がかえって戦いやすい。

 結界を作って、相手のマントラを無効にする。

 そして、この『羅刹黒鯨』の斬撃波で倒す。

 あっという間だ。

 負ける気がしない。

 アンシュはぶるっと武者震いした。


 翌日、アンシュは基地の訓練場の一角で対ニキル戦のシミュレーションをしていた。

 実際にシミュレーションしてみると、想像していたほど簡単にはニキルを倒すことが出来ないことを思い知らされた。


「オンキリキリバサラバサリ」

 アンシュは、右手の人差し指と中指を立てて胸の前で印を結ぶと、マントラを唱えた。

 すると、アンシュの身体は濃い赤銅色の光を放つ結界に包まれた。

 そして、腹式で深呼吸をして息を整えると、両手で『羅刹黒鯨』を握り、一振りして斬撃波を飛ばした。

『羅刹黒鯨』の穂先から放たれた斬撃波は空中を伝わり、20メートル先に立っている木柱を切り倒した。

 木柱が倒れるところを見ていたアンシュは、首を左右に小さく振った。

 これじゃ駄目だ……

 敵の瞬間移動を無効化してから攻撃に移らなければならない……

 敵にマントラを使わせないために、まずは右手で印を結んで結界を張ったまま接近する必要がある。

 その上で、左手のみで『羅刹黒鯨』を振り抜かなければならない。

 でも、僕の左手の腕力だけでは斬撃波を生み出すには力が足りない……

 かと言って、1か月で付けることが出来る筋力なんてたかが知れている。

 右手と左手を換えたところで大差ない。

 それに、至近距離からでは、『羅刹黒鯨』を振り抜いて斬撃波を敵に当てることが出来ない。

 …………どうする?


励みになりますので、応援コメントなどをお待ちしています。


よろしくお願いします。

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