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文字喰らいの冒険者  作者: 藤崎聖子


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第十五話 王都永久封鎖

 王城の門前で、四人は止められた。


「白紙会の支部から、封鎖計画の書類を見つけました」


 レクスが紙束を見せる。


 門衛は表紙だけを読み、返した。


「王都を永久に封鎖する。王が生存する限り続く。発動は明朝――本気で言っているのか」


「本気です」


「発見場所は?」


「東区共同印刷の地下」


「捜索許可は」


「ありません」


 門衛の顔が固くなる。


「不法に侵入した先で見つけた、出所不明の書類か」


「防衛術式も白紙会名義でした」


「その術式は残っているか」


「止めました」


「証拠を壊したのか」


「壊したわけでは――」


 ロマンがレクスの肩を引いた。


「話を代われ」


 元兵士の口調で、発見から順に説明する。


 南鐘楼の爆薬。


 記録院の襲撃。


 白紙会の印。


 捕らえた五人。


 門衛は聞いた。


 それでも門を開けない。


「上へ報告する。お前たちはギルドで待て」


「発動は明朝です」


「王城へ入れるのは身元を保証された者だけだ」


「調査員証があります」


「王城の通行証ではない」


 レクスは門の上の時計を見た。


 夜明けまで三時間。


「せめて書類を魔術院へ」


「報告すると言った」


 それ以上は進めなかった。


 四人は王城前の広場へ戻る。


「こうなると分かって、書類を残した?」


 ティルダが言う。


「証拠が怪しすぎる。私たちが正規の手続きを取れないようにしてある」


「白紙会の五人を衛兵が連行した。供述が取れれば動く」


 ロマンは王城を見た。


「間に合えばな」


 シグナが書類を読み返す。


「発動核は王城地下の《国土記録盤》。外からは触れない」


「王城へ忍び込む?」


 ティルダが聞く。


 ロマンは黙って彼女を見る。


「冗談」


「今のは半分本気だったな」


「半分なら冗談だよ」


 レクスは条件文を見た。


《王が生存する限り封鎖を継続する》


 「生」を消す。


《王が存する限り》。王が存在する限り、という意味になる。条件はむしろ広がる。


 「存」を消す。


《王が生する限り》。生きる、と読まれるかもしれない。危険は変わらない。


 「限」を消す。


《王が生存するり》。意味が崩れるため発動しない。


 「継」を消す。


《封鎖を続する》。これも成立しない。


 「続」を消す。


《封鎖を継する》。継承するという意味に変わる可能性がある。王が代わるたび、次の封鎖へ引き継がれるかもしれない。


 どれも安全ではない。


 そして、この文章は発動核に刻まれている。


 写しを消しても意味はない。


「王へ近づけないなら、条件文にも近づけない」


 レクスが言う。


「まず王城へ入る必要がある」


 広場の時計が鳴った。


 夜明けまで二時間。


 城門の内側が騒がしくなる。


 先ほどの門衛が走って戻ってきた。


「レクス・リテラと仲間三名。入れ」


「報告が通りましたか」


「白紙会の捕虜が一人、計画を認めた」


 門が開く。


「ただし、王の前で能力を使うな。手を動かす前に許可を取れ」


「分かりました」


 四人は王城へ入った。


 長い廊下を走る。


 謁見の間ではなく、地下の記録室へ案内された。


 王もそこにいた。


 金の冠も豪華な外套もない。


 白髪の男が、寝間着の上に上着だけを羽織っている。


 年は六十を越えていた。


 机には眼鏡と、湯気の消えた茶。


「そなたが、一文字を消す少年か」


 王が聞いた。


「レクス・リテラです」


「余はアルダン三世。もっとも、知っているだろうが」


「はい」


 王は机上の書類を叩いた。


「話は聞いた。王都を救うため、余を殺す必要があるそうだな」


「違います」


 レクスは即答した。


「その方法は選びません」


「選ばなければ、民が閉じ込められる」


「別の方法を探します」


「夜明けまで二時間で?」


「一時間でも探します」


 王はレクスをしばらく見た。


「よかろう。探せ。見つからなければ、そのときは余も考える」


「何をですか」


「王の命一つと王都の民。比べるまでもない」


「比べません」


 レクスの声が強くなった。


「勝手に諦めないでください」


 護衛騎士が剣へ手をかける。


 王が笑った。


「余にその口を利いた者は久しぶりだ。急げ」


 国土記録盤は地下の中央にあった。


 直径十歩ほどの黒い円盤。


 王国の地図が刻まれ、王都の位置に赤い光がある。


 周囲には宮廷魔術師が集まっていた。


「術式を解除できません」


 筆頭魔術師が言う。


「正規の王権印を使っても、命令を受けつけない」


 円盤に文字が浮かぶ。


《発動準備完了》


《条件対象確認:王》


《対象状態:生存》


 赤い線が地図上の王都を囲み始める。


 レクスは円盤に近づいた。


 触れる前に、全体を見る。


 本文。


 注記。


 署名。


 発令者。


 白紙会はどこにも記録されていない。


 命令の発令者は《国土記録盤》。


 円盤そのものが、自動規則として封鎖を行う。


「発令者を変える方法は使えない」


 シグナが言う。


「《国土記録盤》から一字抜いても、何になるか分からない」


「条件対象の《王》を消せないか」


 ロマンが尋ねる。


「一文字だけの言葉は、消したあとに意味が残りません」


「なら、王の称号は?」


 王の頭上には正式称号が浮かんでいる。


《生存王》


 即位後、二十年以上生きて国を治めた王へ与えられる称号だという。


 「存」を消せば《生王》。


 生きる王とも読める。


 だが、正式な称号としては存在しない。


 意味が成立するか、レクスは確信できなかった。


「触れてみます」


 王の許可を得て、称号へ手を伸ばす。


 金色の文字は遠い。


 ドレグの《不敗》と同じ。


 以前より意味は感じられる。


 それでも削除できる深さまでは届かない。


「称号は無理です」


「では、余を王でなくすればいい」


 王が冠を机へ置いた。


「退位する」


 筆頭魔術師が首を振る。


「冠を外しただけでは王の定義は変わりません。正式な譲位には継承式が必要です」


「どれだけかかる」


「最短でも三日」


 夜明けまで一時間。


 円盤の赤い線が、王都をほぼ囲んでいる。


 地上から鐘が鳴った。


 東門で異常が起きた合図。


 記録盤に表示が増える。


《封鎖開始》


 赤い線が閉じた。


 王都全体が揺れた。


 地上から悲鳴が聞こえる。


 城壁の外側に白い光の壁が立ち上がった。


 空まで覆う半球。


 門が開かない。


 転移魔法も通じない。


《永久封鎖》


《王が生存する限り封鎖を継続する》


 条件が確定した。


 その直後、王都中の掲示板に紙が貼り出された。


 誰も貼っていない。


 白紙から文字が浮かび上がる。


《封鎖解除の方法は、王の死のみ》


《文字喰らいは王の称号を消そうとしている》


《王を守るか、王都を救うか、選べ》


 白紙会の宣告。


 市民のざわめきが城まで届く。


 レクスが王を殺そうとしている。


 噂は、封鎖より速く広がった。


「それが狙いか」


 ロマンが言う。


「俺たちに王を殺させるか、市民に王を殺させる。どちらでも国は壊れる」


 王は護衛へ命じた。


「城門を閉じろ。民へ食料を配れ。暴動を起こすな」


「王は生きている」


 レクスは条件文を見つめた。


 王が生存する限り。


 白紙会が条件に使ったのは、アルダンという人間ではない。


 王という定義だ。


「王とは、誰ですか」


 レクスが尋ねた。


「余だ」


「なぜ、あなたが王なんですか」


 護衛が再び剣へ手をかける。


 王は手で制した。


「先王の長子として生まれ、王位を継いだからだ」


「それを世界へ認めさせた文章があるはずです」


 シグナが意図を理解する。


「王位継承書」


「どこですか」


 筆頭魔術師が記録室の奥を指した。


「王統保管庫だ。だが、今の王を王でなくしても、次の継承者が王になる。条件は続くぞ」


「王をいなくするとは言っていません」


 レクスは保管庫へ向かった。


「王という言葉が、誰を指すのか。一瞬だけ分からなくします」


 答えは条件文の中ではない。


 王の称号でもない。


 世界がアルダン三世を王と認めた、最初の文章。


 そこに封鎖の土台がある。


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