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終章 1

 二日後、西原妙子が大島一郎の解剖報告書を取りに来た。

「お疲れ様でーす」 明るい笑顔で西原が、買って来たドーナツを研究室の机に置いた。スヨンが淹れてくれたコーヒーを前にして、三人でドーナツを頬張った。


 食べながら、康浩たちは西原から事件の顛末を聞いた。


 まず、大島一郎のマンション周囲の防犯カメラを徹底的に調べたところ不審な女性がみつかり、画像分析からその人物が佐山恵子であると同定された。


 それから近藤刑事が任意で、彼女から事情聴取とDNA鑑定に供する組織の提出を求めた。彼女は取り調べに素直に応じ、髪の毛と口腔粘膜の組織が採取された。


 大島一郎の指先から採取した皮膚は、スヨンの言ったとおり恵子のDNAと一致した。そのため彼女の自宅を家宅捜索したところ、現場からなくなっていたウエッジウッド社製ペアカップの片割れと、大島一郎のマンションの合鍵が見つかった。証拠を突きつけられた恵子は自供した。


 創業者の父親の側近に位置していた恵子は、異母兄の一郎を嫌いだった。父親も放蕩な前妻の息子よりも、自分に尽くしてくれる恵子を可愛がった。


 恵子は今から半年前、一郎が会社の金に手を付けていることを、帳簿整理をしていて偶然発見した。彼女はそれから一郎を秘かに監視し始めたが、身内の恥を恵子は誰にも言えずに思い悩んでいた。


 最近の第三製薬はヒット作がなく、経営的には厳しかった。おまけに一郎は、私的に会社資金を流用していた。彼は会社がつぶれる前に、私的な財産を確保するつもりだったのかもしれない。


 一方で経営の実質的な舵取りをしていた佐山健一は、右肩下がりの会社を某大手製薬会社に売却することで危機を乗り切ろうとした。しかし父が一代で築いた会社に深い思い入れがあった恵子とは、意見が真っ向から対立した。悲しいかな、お金の問題で夫婦仲は次第に冷えていった。


 そして一か月前、事もあろうか夫がほかに女を作ったことを恵子は知った。それが彼女の我慢の限界だった。怒りの沸点を超えた彼女は夫を憎み、隙あらば殺そうと思った。そして、殺人とは疑われない巧妙な仕掛けを練ってから、それを実行した。


 しかし完全犯罪の目論見は、恵子の思惑とは裏腹に殺人と露呈した。焦った恵子は、ちょうど警察の捜査が迫ってきた一郎に罪を着せて自殺したように見せかけることにした。


 恵子は、青酸カリを持って一郎のマンションを訪れて、言葉巧みに彼を毒殺した。その後、恵子は自分に出されたコーヒーカップを持ち去り、マンションを合鍵で施錠してから現場を立ち去った。一郎が青酸カリで服毒自殺したように演出したが、結局はこの事件も真実が解明された。


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