58話 胡慶余堂(こけいよどう)と二人の爺さまキラー
58話 胡慶余堂と二人の爺さまキラー
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早速、胡慶余堂の主人、胡雪石は薬の準備を始める。
「分かりました。ではご希望の物をお持ちしますので、あちらでお待ち下さい。ああ、友子は一緒に保管庫に行って薬を見るかい?」
「うん。あたしはそうしたい」
「あの……すいません、もし可能ならわっちも友子と一緒に行ってもいいでやんすか?」
(わっちが見ても分からないけど、もし効果の高い梅毒の治療薬があるならば、直接見てみたい。
その薬が吉原の為になるのなら、どんなに高くても手に入れたい……)
心はそう思っていた。しかもここは、しん国随一と言われる胡慶余堂なのだ。
しん国全ての生薬が揃っている。ここになければしん国には梅毒治療薬はないことになる。
「勿論ですよ。心花魁。貴方に店をよく見て頂くのは私にとっては誉れですから!」
雪石は嬉しそうに言い、貴重な生薬を出すところから見せてくれるという。
「貴方達、特別よ。普通は貴重な薬は見せないよ」
麗は、雪石が普段ではあり得ない待遇をみせていることが信じられない様子だ。
店内の販売所の大きなカウンターの後ろには、様々な薬がまだ貴重なガラスの瓶に並べて置いてある。
麗が言うには、より貴重な生薬、一級品の人参などは店の奥に保管してあるそうだ。何がどれだけあるのかが店の価値と財産になる為、普通は保管してある場所さえ、教えることはないのだ。
「さあ、こちらです」
店の奥に入ると、先ずは丸薬や漢方薬の調合の為の工場があった
調合や丸薬の作成で薬師が忙しそうに動いている。
「さすが胡慶余堂」
清潔な身なりの制服だね!」
「ありがとう友子。でも貴方達感心するのは、これからよ」
麗が雪石の後に続いて歩く。
工場の先は生薬の保管庫になっていた。
「凄い……どの薬を見てもその性質にあった適切な収納方法が取られてるよ!」
建物も床が高くなっており、湿気、カビの予防として風の道が確保されている造り。友子の言う通り、その性質に合わせて乾燥させる物や遮光等、最適な保管方法で動植物や鉱石が保管されている。
「さあ、お望みの薬はこれらだね」
雪石はまず、長旅と冬の航海に備え、人参や黄耆を使った免疫アップの「全鹿丸」や「補中益気湯の丸薬」の材料を取り出す。
友子が雪石から一つ一つ生薬を見せてもらっている。
「雪石のおっちゃん、凄いよこれ。どれもとてもいい品!」
「友子、私はどこからお客様が来ても、一流品を安心して買える店を作りたかったんだよ」
「薬草を見つけるときもこだわっていたもんね。雪石のおっちゃん」
「いやぁ、いつも友子が神々の声を聞いて植物採取を手伝ってくれたのは、本当に助かったのだ」
二人は生薬を仕分けながら、生き生きと薬の事を話している。
「凄い……友子、いつもこんな感じで薬作りをしていたんでやんすね!」
「うん、まあね。小さい頃からずっと山にいたし神々も植物も色々教えてくれるから、慣れっこなんだよ」
「心花魁、お望みの梅毒の薬だが」
「あい、しん国に治療薬はありんすか?」
心は食い気味で雪石に尋ねる。
「残念ながらしん国では山帰来の煎じ薬しかない。これはもうご存知かもしれぬな。
梅毒の皮膚症状に効果があるだけで根本的な治療ではない。
しかし我が胡慶余堂では最高級品を揃えてある」
「じゃあ、水銀療法と、併用して使うと……」
「友子、そうなんだ。幾分副作用が軽減出来るが……私はオススメしない。水銀は人間には毒と同じだ」
「雪石のおっちゃん、やっぱりそうだよね」
「今の最先端はマラリア発熱療法と言われているそうだ。欧州での治療法で、マラリアの血液を患者に注射し熱で梅毒を無くし、マラリアはキニーネで治療するという」
「でもさ、マラリアの熱に耐えることが出来るの?」
「うん、だからそれも賭けとなるんだよ」
(何てこと!欧州の医療情報がここで手に入ってしまった!残念ながらいい情報ではないけど……)
「では、雪石様の知る限り、完全な治療薬はないという事でしょうか?」
「今はな。だが、近年の医療の発達は素晴らしい。
私が知らない所で、新たな治療薬が生まれる可能性はかなり高い」
「そうですか……」
心はがっかりした。予想はしていたがやはりしん国には治療薬は無かったのだ。
しかし、気になっていた衛生材料の方を聞いてみることにする。
「あの……避妊具の様なものはありますか?」
「米国からのゴム製の避妊具はありますが、梅毒は皮膚や粘膜からも伝染ります。今は患者との接触を避けるのが一番の予防ですね。
それを考えると心花魁、貴方のやってきた問診は、かなり効果の高い予防法ですよ。友子から聞いて感心しておりました」
(かの有名な胡慶余堂の主人、胡雪石がわっちの活動を認めてくれるなんて。わっちは間違ってなかった!また更に頑張っていかなきゃ!)
心は何だか救われた思いだった。
「ありがとうございます。
あの、雪石様。避妊具として、安全に使えるゴム製品があれば、そちらを定期的に送って頂けますか。
わっちは吉原の不幸な妊娠も、減らして行きたいのですよ」
そんな話をしながら、雪石、麗、友子と心は一行の元に戻ってきた。
雪石からの説明を聞きながら、平松の宮が薬を選んでいるその隅で友子が不審な動きをしている。
「あ!駄目駄目友子!」
麗が急いで友子を止めたが、間に合わなかった。
友子はそのまま食べると人毒となる生薬を口に含んでいた。
「う……」
友子がその場にうずくまった。
「友子!!」
皆が友子に駆け寄ったその瞬間、
「ああ、このビリビリする感じ、いいね〜!」
と言って、友子が起きた。
「友子〜!」
「あ、ごめんごめん。あたしは色々な毒に少しずつ体にならしてあるから、耐性があるのよね〜」
「もう!友子、死んじゃうかと思ったんだからぁ!」
えりが半泣きになっている。
「ごめんて、えり」
「ワハハハ!友子は相変わらずだのう」
その時、部屋の入り口から大きな笑い声で笑う髭の長い仙人風の老人が立っていた。
「あ、神農様!お久しぶりですね」
「友子もな!」
「胡慶余堂にくれば、会えるかもって思ってたんだぁ。皆、紹介するね。
この方はしん国の薬と農業の神様で神農様です!」
「神農です!しんちゃんって呼んでもいいぞ!
ねぇ〜友子!ハッハッハ」
「あたし達、毒を試す仲間なんだよねぇ〜
うふふん」
二人は久々の再会を喜んでいる。
「あっれぇ、どなた様でやんすか?」
「おっ、また友子はべっぴんさんを連れてきて〜」
「うふふ、わっちは心と申します」
「友子、あんた神様にまで爺さまに!
心もすかさず好かれちゃって、二人どんだけ爺さまキラーなの……」
「いたね。えりと話してたワールドワイドの友子と心の、爺さまその②が……」
(次の国に新たな③番目がいてももう驚かないわ)
友子、えりは思っていた。
次回の投稿は10月26日(月)20時です。




